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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
キャラバン編

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第九節 帰還

お昼前。


出発の準備が整った。


荷物の確認も終わって、

みんなそれぞれの荷車へ乗り込んでいく。


荷車の後ろ。

手を取り合っている蓼さんとお母さん。


蓼さんは泣いている。


「ほら、しっかりしなさい」


お母さんが声をかける。

お母さんだって寂しいはずなのに。


何度も涙を拭いて、

何度もうなずいて。


やがて蓼さんも、なんとか笑えるくらいになった。


萱さんと蓼さんは、わたし達の二番車へ。

わたしの向かいに蓼さんが座る。


まだ少し目が赤い。


「いつでも帰れますよ。ここには定期的に便を出すつもりですから」

「はい、ありがとうございます」


「少し、強引だったかしら?」


蓼さんが大きく首を横に振る。


「そんな事ないです! 感謝してます。菖蒲さんがいなかったら、わたし、ここに乗ってませんでした」

「よかった」


ほんとに。

よかった。


先頭車のリーダーさんが声を上げる。


「それでは、出発します!」


馬さん達が歩き始める。


ゴトン。


荷車が動き出した。


蓼さんが幌から身を乗り出して、大きく手を振る。

お母さんも振っている。


ずっと。

ずっと。


今生の別れではない。

だけど、そんなに気軽に帰れるわけでもない。


昨日までなら、同じ家にいた。

今日からは違う。


萱さんが蓼さんの手を取った。


「次のキャラバンでここまで来よう。そして、あちらの村でしばらくゆっくり過ごして帰ろう」

「うん」


蓼さんが笑う。


――優しいね、萱さん。


     


馬さんが走る。


歩いてるんだけど。


でも、そう思うくらい速い。


後はわたし達の村まで一直線。


行きは野営したけど、

帰りは馬さん。


荷車だって、うちの村に運ぶ分だけ。


行きの四分の一くらい。


軽い。

だから速い。


ゴトゴトゴトゴト。


景色が流れる。

風が渡ってゆく。


見上げれば、

果てまで青空。


やがて遠くに、緑の帯が見えてきた。


先頭からリーダーさんの声が飛んでくる。


「防護林が見えたぞー!」


みんなが一斉に顔を出す。

わたしも幌から身を乗り出した。


――見えた。

やっと戻って来た。


近づくにつれて、

緑の帯がどんどん大きくなっていく。


一本一本の木が見えるようになる。


やがて、見慣れた林の横の道。


懐かしい。


たった、お月さんが半分動いただけの期間。

それだけなのに。

懐かしい。


たくさん経験した。

たくさん勉強した。


売った。

買った。

考えた。

計算した。

そして――


思いっきり負けて来た。


でも。

いい旅だった。

ほんとに、いい旅だった。


やがて防護林の切れ目が見える。


そこを通ると――


「あ!」


正門だ!


衛兵さん達が気づく。

こちらを見て、

何か話して。


一人が村の奥へ走って行った。


     


正門へ。


「ただ今戻りました!」

「お疲れ様でした! 早く中へどーぞ!」

「はい!」


荷車が正門をくぐる。


キャラバン隊は村の中へ。

中央前の広場へと滑り込んでいく。


馬さん三頭。

荷車三台。


そして、

新しい仲間達。


馬さん。


――みんな、ご苦労様でした!


キャラバン隊が広場に到着して、

みんなが荷車から降り始めた頃。


村のみんなが集まって来てくれた。


「おかえりなさい!」

「お疲れ様でした!」

「無事で良かった!」

「大変だったでしょう!」


あっちからも。

こっちからも。


労いの言葉。


御形さんのおじいちゃん。

おばあちゃん。


鍛冶屋の親方さん。

防具屋の親父さん。


みんながいる。


そして、

食堂の女将さん。


蓼さんの叔母さんだ。


萱さんが蓼さんを紹介している。

叔母さんだって、蓼さんの小さい頃しか知らない。


蓼さんの顔を見るなり、目を丸くした。


「まあまあ、大きくなって! 妹にそっくり!」

「お久しぶりです、叔母さん」


女将さんが蓼さんの手を取る。


「ここに慣れるまで、しばらくはうちに来なさい」

「はい」


よかった。

蓼さんにも、ここにはちゃんと知っている人がいる。


で。

萱さん。


鍛冶屋の親方さんが萱さんと蓼さんを交互に見て、


ニヤッ。

「嫁さん持って帰るとはな」


萱さんがなぜかわたしを見る。


「菖蒲さんのおかげです」

「え?」


親方さんまでわたしを見る。


「八百屋で嫁さんもらって来たか!」

「違います!」


すると、横から籐吾さん。

「八百屋はお嫁さん扱ってるのか?」


御形さんが呆れた顔をしている。

籐吾さんは、いたって真面目。


「おれ、結構手伝って売ったけど、お嫁さんはなかった」


――あの人、なんなの?

御形さんも大変だなぁ。


     


それから。

みんな、それぞれ。

みんなの家族の元へ帰っていく。


迎えに来た人と話して。

荷物を持って。

笑って。


ひとり。

またひとり。


広場から離れていく。


わたしは、それを見ながら。


少しだけ、

寂しく思う。


月が半分から、半分の間。

朝も。

昼も。

夜も。

いつだって、誰かがすぐ側にいてくれた。


荷車の中にも。

野営の焚き火の側にも。

宿泊地にも。

目を覚ませば誰かがいた。

声をかければ、誰かが答えてくれた。


わたしは籐吾さんと同じ、修道院の出身。

物心ついた時には、そこにいた。


だから別に、

今まで寂しいなんて思ったことはない。


だけど。

みんなが、

それぞれの家族のところへ帰っていくのを見ていると――




「菖蒲!」


顔を上げる。

御形さんがこっちを見ている。


「菖蒲! 帰るぞ!」

「御形さん?」


帰る?


「今日からうちに来い」

「え?」


御形さんが腕を組む。


「うーん、どーするか? じいちゃんに弟子入りするか?」

「籐吾さんの下なんてやですよ」

「なんでだよ」

「じいちゃん! わたし弟子取っていいか?」


すると、

「それなら、わたしの弟子になりなさい」


「ばあちゃん!」

おばあちゃんが笑っている。


「それなら、御形よりも上だわよ」

「えー? そうなの?」

「あー、そうなるか」


御形さんが頭を掻く。


おじいちゃんが、そんなわたし達を見ながら笑っている。


「と言うわけだが、どうだ? うちに来い」

「わたし、ハンターじゃないですよ」


なんでだろう。


もう、

涙が止まらない。


ポロポロ。

ポロポロ。

さっきまで普通だったのに。


御形さんのおじいちゃんが、

わたしを見る。


「うちの決まりは、ただひとつだ」

いつもの穏やかな声。


「ちゃんと家に帰って来なさい」


そして、少し笑う。

「どうだ、守れるか?」


涙を拭く。


「はい!」

もう一度。


「はい! これからお世話になります!」


御形さんが笑う。

おばあちゃんも笑う。

おじいちゃんも。

籐吾さんも。


キャラバンから帰って来て。

村に帰って来て。


そして。


わたしの帰る場所まで決まりました。


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