↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
キャラバン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/69

第八節 帰りの道

帰路。


荷車を引いてくれるのは、馬さん達。


軽やかに、

ゴトゴト、ゴトゴト。


早足……なのかな?

いや、普通に歩いている?


荷車の幌から外を眺めていると、行きとは明らかに景色の流れる速さが違う。


速い。


牛さん達の、のんびり、のっしのっし進む旅も好きだったけど、馬さん達はなんというか――軽い。


それに、帰り道は行きとは別の道を通る。


森の横を早足で駆け抜けることもできるし、浅い瀬なら、そのまま川を渡ることだってできるらしい。


だから、泊まる村も行きとは違う。


当然、日程もずいぶん早い。

野営する回数だって減らせる。


――馬さんへの交換、抜群!


これなら早く村に帰れる。


でも、その前に。

帰り道でも、わたしのお仕事はちゃんとある。



帰路、最初の宿泊地。


ここで、目的地で購入した例の品物を売ってみた。


すると――


当たった。

売れた!


全部じゃない。

全部じゃないけど、ちゃんと売れた。


やっぱりそうだったんだ。


日持ちしないせいで、遠くまで運ぶのが大変。

だから、なかなか入ってこない。


ということは逆に、


――あれば売れる。


目的地ではコテンパンにやられたけど。

取り戻した。


全部じゃないけど。


ちょっとだけ。

でも、取り戻した!


ついでに、ここでも少し商品を購入する。

この宿泊地の特産品。


帰り道で売れるかもしれないし、村まで持って帰ってもいい。


うん。

なんか――


幸先いいぞ、帰り道。



次の野営地へ。


馬さんが走る。

……歩いているけど。


どうしても馬さんって、走っているイメージなんだよね。


ゴトゴト、ゴトゴト。


景色が後ろへ流れていく。


牛さん達の、のんびりした旅も好き。

馬さん達の、こういう気持ちいい旅も好き。


どっちもいいなぁ。


そんなことを考えているうちにも、旅は順調に進んでいった。



そして――


最後の宿泊地は、最初の宿泊地。

ここでは、交易のお約束がある。



やがて見覚えのある村が見えてきた。


わたし達は正門の前で止まる。


リーダーさん達が、入村の許可をもらいに歩いていく。


門を守っている衛兵さん達も、すぐにわたし達だと気づいてくれた。


こちらを見て、手を上げる。

わたしも手を上げて返す。


入村の許可は、すんなりと下りた。


正門をくぐるとき、わたしは衛兵さん達へぺこりとお辞儀する。

向こうも笑って返してくれた。


――なんか、帰って来た! って感じ。


わたしの村じゃないのに。

不思議。


でも、ちょっと嬉しい。



中央の広場へキャラバン隊が入っていく。


到着すれば、いつもの仕事。


点検。

確認。

調整。


みんながそれぞれ動き始める。


リーダーさんは宿屋さんへ。

そして、わたしは役場へ向かった。



役場で受付を済ませる。

案内されたのは、行きにも使ったあの部屋。


座って待つこと、しばし。


ガラッ。


引き戸が開いた。


入ってきたのは、一人。

顔を見た瞬間、わたしは立ち上がった。


――あ。


最初の担当者さん。

わたしを最初に認めてくれた人。


向こうも笑って、こちらへ手を差し出してくれる。

わたしも手を伸ばした。


握手。


「おかえりなさい」

「ただ今戻りました」


……。


なんか照れるな、この挨拶。


お互いに座り、それから旅の道中について話した。


途中の宿泊地のこと。

販売した商品のこと。

買い付けた品物のこと。


もちろん、目的地でコテンパンにやられたことも。


担当者さんは笑いながら聞いてくれた。


――笑い事じゃなかったんですけどね!

まあ、今ならわたしもちょっと笑えるけど。


「それで、これが今回の販売の結果です」


わたしは一枚の紙を、すっと差し出す。


――うん。


出せた。

ちゃんと出せた。


なんかこれ、トラウマになりそう。


担当者さんが紙を見る。

わたしは品物ごとに説明していく。


「こちらは今だと少し過剰だと思います」

「なるほど」


「こちらは、まだ売れると思います。次回は少し増やしても大丈夫かと」


「では、こちらは?」

「これは別の時期がお勧めですね。今より少し後のほうが需要がありそうです」


一つずつ。

自分が見てきたことを伝えていく。


担当者さんは頷きながら、丁寧に聞いてくれた。


「ありがとうございます。情報までいただいて」

「最初からこれも込みですから」


にっこり笑う。

今度はちゃんと言えた。


「そうそう。例の品物の納品も完了していますよ」

「ありがとうございます。後ほど引き取らせていただきます」


これで約束していた取引も終わり。


……なんだけど。


「あの、それと一つお願いがありまして」

「なんでしょう。なんでも遠慮なく言ってください」


「実は、ここの前の村で購入してきた品物があるんです」

「ほう。なるほど。それで、品物は?」


「生地です」

「生地?」


「はい。先の村で、丈夫で模様や色味もいい物を見つけまして」


担当者さんが少し考える。


そして、

「ははあ。あの洋品店ですか?」


おお。

「察しが良くて助かります」


やっぱり知ってるんだ。


「そこに卸していただければと思いまして」

「いいですよ。お任せください。で、ひとひろ当たり、どれくらいで?」

「それは、店主のお姉さんに決めていただこうと」


担当者さんの顔が少し変わった。


「お店側の言い値で?」

「はい」

「そこまでされますか?」

「はい」


少しだけ考えてから、続ける。


「今回、わたしも教えられましたから」


目的地で。


自分の知らないものを見て。

自分の知らない商売を見て。


いっぱい失敗して。

いっぱい教えてもらった。


「これは、投資だと思ってください」

「はあ……なるほど」


担当者さんがゆっくり頷く。


「わかりました。在庫の管理はうちで行います。お代は次回で?」

「そちらの手数料として受け取ってください」


「そんな! それではあなたが!」


「これくらいの裁量は、わたしがもらっていますから。ご安心ください」

「しかし……」

「いいんです」


わたしは笑った。


「これも今後の投資ですから」


それに――


「これだけで終わらせるつもりはありません」


担当者さんを見る。


「これからも、定期的に取り引きを続けていただきたいと思っています」


少しの間。

担当者さんはわたしを見ていた。


それから、

「そうですか」


笑った。

「わかりました! その思いの分、しっかりと働かせていただきます」

「よろしくお願いします」


わたしから手を伸ばす。

今度は、向こうが応えてくれた。


握手。


お互いに、にっこりと笑う。



役場を出る。


「さてと……」


交易のほうは、だいたい終わったかなー。

なんて考えながら宿屋さんへ戻る。


外はもう夕方になっていた。

歩いているうちに、だんだん辺りが暗くなっていく。


しばらくして。


宿屋さんの明かりが見えた。


「ふう……」


なんだか、ほっとする。


……ん?


ふと、宿屋さんの横手に人影が二つ見えた。


あそこ。

裏口の辺り。

二人。


――ははーん。


見つけましたよ。

これは、挨拶しなくては!


「こんばんはー!」


声をかける。


びくっ!

二人揃ってこちらを向いた。

萱さんと、宿屋の娘さん。


「あ、おかえりなさい、菖蒲さん」

「はい、ただ今戻りました。で、こんなところで?」

「あ、こちら、宿屋さんの娘さんで……」

「知ってますよ」

「え?」


娘さんが少し慌てながら頭を下げる。


「あ、わたし、蓼といいます」

「菖蒲です。よろしくお願いしますね、蓼さん」

「こちらこそ、菖蒲さん。よろしくお願いします」


うんうん。


「そういえば、蓼さんのお母さん、うちの村のご出身だとか?」

「はい。若い頃、こちらに移り住んだと聞いてます」

「だから、ここのお料理なんか懐かしい味なんですね」


蓼さんが笑う。


「ふるさとの味ですかね。みなさんの」

「蓼さんもですよね」

「そうなりますね」

「素敵ですね」


そして。

ちらっ。


「萱さん?」

「はい?」

「好きな人を追って、ほかの村にまで来られるなんて。素敵ですね。そう思いませんか?」


「そうですね……」

……。


――うーん。


わかったかな?

ちゃんと誘うのよ!


「それでは、萱さん。あまり遅いとみんな心配しますよ」

「はい」

「それでは、また中で」


二人にお辞儀して、その場を離れる。


歩きながら、ちらっと振り返る。


――萱さん、わかったかなぁ。

……心配だなぁ。



「ただ今戻りました!」


宿屋に入る。


「おう、おかえり、菖蒲」


御形さんが迎えてくれた。


「御形さん、ただ今戻りました。籐吾さんも、ただ今戻りました」


籐吾さんは――


すでに晩御飯スタンバイ。

こっちを見て、手を上げるだけ。


御形さんと顔を見合わせる。

そして、二人で笑った。


「ほんと、食いしん坊ですね!」

「まったくだ」


当の本人は晩御飯が待ち遠しいらしい。

全然気にしてない。



しばらくして蓼さんがお店に戻り、晩御飯が始まった。


わたしはカウンターで、お母さんと世間話。


萱さんは――

相変わらず、ぼーっと蓼さんを目で追っている。


……。


――ちゃんと言いなさいよ。


でも。

周りを見渡す。


みんなで食べて。

みんなで喋って。

笑い声があって。


いつものキャラバンの晩御飯だな。



晩御飯も終わり、明日に備えてみんなが解散していく。


わたしも最後に席を立った。


「ごちそうさまでした」

「はいよ、おやすみ」


お母さんに挨拶して、二階へ。


階段を上がり――

ふと振り返る。


ん?


まだ一階に二人いる。

萱さんと蓼さん。


向かい合って、テーブルで何か話している。


……。


あ。

手、握ってる!


――うんうん。

いい感じじゃん。


後は一声だけ。

頑張れ、萱さん。



翌朝。


わたしは早くに目が覚めた。

普段より、だいぶ早い。


外では、やっと鳥達が起き出したくらい。


まだ宿屋の中も静か。

わたしはそっと一階へ降りる。


厨房では、もうお母さんが朝の準備をしていた。


「おはようございます」

「あら、おはよう。早いね」

「なんか目が覚めちゃって」

「なんか飲むかい?」

「では、お水を」


「はいよ」


水を受け取る。


コクコク。


冷たい。

おいしい。


飲んでいると、お母さんが穏やかな笑顔でわたしを見る。


「あんただろ?」

「はい?」

「蓼のお尻叩いてくれたの」


「え? 蓼さんの?」

「昨日の夜、話があるって言われてさ」

「蓼さんから?」


お母さんが頷く。


「村を出てもいいかって聞かれたよ」

「あらま」


……。


あれ?


「わたしは反対なんかしないよ」

お母さんが笑う。


「わたしだって、旦那追いかけて押しかけた口だからね」


ぱちっ。

ウインク。

――かわいいお母さん。


「蓼さん、ついて行くつもりですか?」

「だな。あんただから言うけど、後はけじめだけだね」


……。


――わたし、萱さんのお尻を叩いたつもりが、蓼さんのお尻蹴っちゃった?


ん?

けじめ?


「え?! 萱さん、まだ言ってないの!?」


お母さんが声を上げて笑う。


「今すぐ連れて来ます!」

「え? ちょっと――」


わたしはもう走っていた。



二階へ駆け上がる。

萱さんの部屋の前。


ドンドンドンドン!


「萱さん! 萱さん! 起きてください!」


ドンドンドンドン!

「萱さん!」

「何事?」


「なんだなんだ?」

周りの部屋から、みんなが顔を出し始める。


「萱さん!」


ガチャ。

ドアが開いた。


寝ぼけた萱さん。


そしてドアの向こうには――

いつの間にか、みんなの顔。


「え? なに? え?」

「萱さん!」


わたしは指を突きつける。


「あなた、まだ言ってないの?!」

「え? なにを?」


「さっさと告白して来なさい!!」


「は?」


「お前、まだ言ってないのか?」

「あり得んだろ」

「何してたんだよ」


みんなが、やいのやいの。


「え? え? なんで?」

「もう!」


まったく!


「あなたといい、籐吾さんといい! なんなんですか!」

「おれ?」


籐吾さんが反応した。


「籐吾さんは今はどーでもいいです! 今は萱さんです!」

「おれ、どーでもいいの?」


「もう! 御形さん! 籐吾さん連れてってください!」

「ほら、籐吾。こっち来い!」


「おれ、どーでもいいの?」

「いいから来い!」


御形さんが籐吾さんをズルズル連れていく。


「おれ、どーでもいいの?」

まだ言ってる。


ふう。


「とにかく萱さん! 今から下に降りて、告白して、お母さんにお願いして来なさい!!」


「今から?!」

「今行かないで、いつ行きますか!!」


「そーだ、そーだ!」

「行ってこい!」


周りのみんなから押される。


「ちょ、待っ――」


萱さんが階段のほうへ追い出されていく。


下を見る。

そこには、騒ぎを聞きつけたのか、心配そうな顔をした蓼さん。


目が合った。

わたしは親指を立てる。


大丈夫!

そして萱さんの背中を押す。


「ほら!! 行く!!」

「わ、わかったから!」


ようやく諦めて、萱さんが階段を降りていく。


わたし達は――

ぞろぞろ。

みんなで階段の上から身を乗り出した。


覗き込む。


萱さんが途中で振り返る。


みんな揃って、

早く行け、早く行け!

手を振る。


萱さんが大きく息を吐いた。


「はあ……」


そして。

しゃんと背筋を伸ばした。


――あ。


覚悟、決めた。



萱さんが蓼さんの前に立つ。

蓼さんの手を取る。

そして、自分の想いを伝えた。


一緒に来てほしい、と。


みんなで見てる。


お母さんも厨房の前で、ニコニコしながら見ている。


蓼さんが――

泣いた。


でも。

笑ってる。

笑いながら、泣いてる。



やがて二人は手を繋いで、お母さんの前へ行った。


二人揃って。

深々と頭を下げる。


そして――。


……よかった。


――ちょっと強引だったかな?

でも、これくらいしないと萱さん動かないよね。


ぱちぱちぱちぱち!


みんなから拍手が起こった。


萱さんが照れくさそうに手を振ってる。

蓼さんは泣きながら笑ってる。

お母さんもニコニコしてる。


みんな、幸せそう。


うん。

よかった。


……。

あ。


籐吾さん忘れてた。


食堂の片隅。


ぽつん。

籐吾さんが座っている。

わたしはその向かいへ座った。


「なあ、菖蒲」

「はい?」

「おれ、どーでもいいのか?」


――めんどくさ!

まだ気にしてた!


「籐吾さん」

「ん?」

「籐吾さんの大剣は、どうして大剣なんですか?」

「なんでって言ってもな……」

「御形さんを守るためですよね」

「そうなのか?」

……。


「御形さんを帰すために、大剣を選んだんですよね!」

「まあ……うん。そうだな」

「だから籐吾さんは、御形さんを守る義務があるんです!」

「義務? それって義務なのか?」

「義務です! 大剣を選んだ時に決まりました!」


「そうだったのか」

――ちょろいな。


「だから、籐吾さんはどーでもよくなんてないんですよ」

「ほんとか?」

「はい。御形さんを守る義務がありますから」


「そうか。そうだな」

「はい」


にっこり笑う。


「籐吾さんは御形さんの大事です。どーでもよくなんてないですよ」

「わかった。うん、なるほど!」


籐吾さんも、納得したように大きく頷いた。



――絶対、何にもわかってないよね。


この朴念仁は!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。