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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
キャラバン編

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18/59

第七節 目的地 交易

今日は朝からいい天気だ!

まあ、

乾季だから当たり前なんだけど。


でも今日は、

なんだかいつもより空が青く見える。


今日はいよいよ――

交易の日。

朝ご飯をしっかり食べて。


荷物を確認して。

帳面。

筆記具。

昨日まで何度も見直した一覧。


よし。

準備は出来てる。


朝からリーダーさんと一緒に、

交易所へ向かう。


いつもの交易のルーティン。

……のはず。



「ここです」

リーダーさんが立ち止まる。


目の前。

「……おお」


交易所。

交易だけのために建てられた建物。


大きい。

うちの村なら、

役場の一室で済ませている。


前に泊まった村だって、

交易用の部屋が一つあったくらい。


なのにここは。

建物まるごと。

交易。


「街だなぁ……」

しみじみ呟く。


中へ入る。

受付を済ませると、

「こちらでお待ちください」

案内された小部屋。


机。

椅子。

必要最低限。


「……」

座る。

待つ。

……待つ。

また待つ。


「こんな部屋、いくつあるんでしょうね」

「かなりあるでしょうね」

リーダーさんが答える。


外から、

時々人の声が聞こえる。

廊下を歩く足音。

戸が開く音。

閉まる音。

……随分待った気がする。


やっぱり街って、

待つなぁ。

ガラッ。

引き戸が開いた。


「申し訳ない。お待たせしました」


入ってきたのは、

少し年配の男性。

この人が担当者さんらしい。


「本日はよろしくお願いします」

リーダーさんが頭を下げる。


「こちらこそ。では、早速始めましょうか」

「はい!」


……ん?

一人?


前の村でも、

担当の人が二人いた。

この規模の街なのに、

一人?


忙しくて人手が足りないのかな。

そんなことを考えている。


それに。

あれ?


いつもの、

今年の乾季はどうでした?

道中は?

村の様子は?

みたいな季節の挨拶もない。


いきなり始まるんだ。

街は違うなぁ。


まあいい。

わたしは持ってきた一覧を取り出す。


「では、今回こちらで――」


すっ。

担当者さんが立ち上がった。


「え?」

わたしの視線も、

一緒に上へ。


「まずは品物を見ましょう」

「……はい?」

「品物を見ないことには話も出来ませんからね」

「は、はい」


出鼻をくじかれた!

せっかく昨日の夜まで見直したのに。


「で、では……」

一覧を持ったまま、

わたし達も立ち上がる。



交易所を出て、

キャラバンへ向かう。

担当者さんとリーダーさんが、

歩きながら話している。


「今年は道の状態はいかがでした?」

「ああ、比較的安定していました」

「途中の水場は?」

「問題ありません。ただ――」


……あ。

季節の挨拶。

歩きながらするんだ。

なるほど。

そういうことか。


キャラバンへ到着。


担当者さんを、

今回ここで降ろす荷物を積んである荷車へ案内する。


「ほう」


担当者さんが荷車を見る。

「目的地ごとに荷車を分けておいでで?」

「はい」

わたしが答える。


「その方が、荷下ろしの手間も確認も簡単ですから」

「なるほど」

うんうん。

担当者さんが頷く。


よし。

今度こそ。

さっき出し損なった一覧を差し出す。


「こちらが品物の一覧です」

「拝見します」

紙へ目を落とす。


「これは?」

「そちらは――」

一つずつ説明する。


箱を開けて。

中身を見せる。

品質。

量。

採れた時期。

加工の状態。

保存方法。

仕入れ値。


担当者さんから質問が飛んでくる。

「これはどちらで?」

「村の東側の農家さんです」

「加工は?」

「こちらは村内で。乾燥はこちらの方法で――」

「この量を?」

「はい」


質問。

答える。

また質問。

また答える。

次。

また次。

最初から最後まで。

ずっと。

向こうのペース。


「……」

なんだろ、この人。


全然違う。

こちらから売り込む暇がない。


聞かれる。

答える。

また聞かれる。

答える。

それだけで、

全部終わってしまった。


最後の箱を閉じる。

担当者さんが顔を上げた。


「いや、素晴らしい」

「え?」

「全部分かってらっしゃる」

「あ、ありがとうございます」

「品物の選定も、あなたが?」

「はい」

「選定から全部?」

「はい。自分で選んだ品物ですから」

「なるほど」


担当者さんが頷く。

そして。

ぽん。

ぽん。

荷車の土台を叩く。


「……?」

何してるんだろ。


「牛さんですね」

「はい」

担当者さんは、

荷車の前を見る。


「牛だと、ここまで時間がかかったでしょう?」

「そうですね」

「この荷物の量ですと、なおさら」

「うちの村には馬さんがいませんし」

「ふーん」


荷車の前。

牛さん。

牽引具。

車輪。

何となく眺めている。


……話、聞いてるのかな?


「はい。ありがとうございます」

担当者さんが突然振り返る。


「戻りましょうか」

「あ、はい」

終わり?


なんだろう。

よく分からないまま、

また交易所へ戻る。


ぽてぽて。

ぽてぽて。

同じ道なのに。

朝来た時より、

なんだか足が重い。


交易所へ戻って。

また、

さっきの小部屋。


「こちらでお待ちください」

また待つ。

「……」

待ってばっかり。


街って、

ほんと待つばっかり。


しばらくして。

ガラッ。

さっきの担当者さんが戻ってきた。


無言で座り。

すっ。

一枚の紙を、

わたしの前へ差し出す。


「こちらが査定です」

「はい」

紙へ目を落とす。


「……」

ん?

もう一度見る。

「……え?」


数字。

計算。

見間違い?


「この価格は……?」

「はい」


担当者さんは普通の顔。

「先程見せていただいた品物ごとに、査定させていただきました」

予想していた価格。

その――

三分の二。

「……」


頭の中で、

何度も計算する。

合ってる。


三分の二。


担当者さんが、

一つずつ説明していく。


「こちらの商品。品質は大変よろしい」

「はい」

「ただし、今の時期は各地から同じものが入り、供給が多い」

「……はい」

「こちらも品質は悪くありません。ただ、輸送に時間がかかり過ぎています」

「……」

「保存状態は問題ありません。しかしここで同等品を仕入れるなら――」


説明。

説明。

説明。

半分も頭に入ってこない。


全部。

ちゃんと理由がある。

品質だけじゃない。

市場。

時期。

流通量。

距離。

輸送時間。

ここでの需要。

全部が違う。


わたしは――

見落としてた。

村での相場。

途中の村での相場。

そこまでは見た。


でも。

この街の市場規模。

この街に集まる品物の量。

ここまで運ぶ時間。

そこまで読み切れていなかった。


「以上を合計しまして、この査定となります」

「……はい」

紙から目が離れない。


これだけ。

わたしは担当者さんの顔を見る。


「あの、わたし……」


たぶん。

すごく酷い顔をしていたんだと思う。


担当者さんが、

少しだけ視線を逸らした。


「あ、それと」

「……?」

「牛さんのことなんですけど!」

わたしは慌てて話題を出す。


せめて。

せめてこっちは。


「牛さんの事で相談したくて――」


担当者さんが首を横に振った。

「今、ここでその話は止められた方がいい」


「え?」

「それに」


少し考えてから続ける。

「牛と馬なら、ここではなく専門の業者へ直接行かれた方がいいでしょう」

「業者さん?」

「ええ」


担当者さんが立ち上がる。

「紹介状を書きましょうか?」


「……いいんですか?」

「もちろん」


そして、

少しだけ笑った。

「頼ってもらって結構ですよ」

「お願いします!」

「少しお待ちくださいね」

部屋を出ていく。


また一人。

紙へ目を落とす。

三分の二。


「……これだけ」

悔しい。

自分では、

ちゃんと準備してきたつもりだった。

全部調べた。

選んだ。

計算した。

なのに。

全然足りなかった。


ガラッ。

担当者さんが戻ってきた。


「はい」

紙を一枚。

「こちらを」

「ありがとうございます」

紹介状を受け取る。


「今日はありがとうございました」

立ち上がって、

深々と頭を下げる。


「本当に、勉強になりました」

「頭を上げてください」

顔を上げる。

担当者さんが、

にっこり笑っていた。


「若い頃は苦労しなさい」

「……はい」

「もっと勉強しなさい」

「はい!」


今度は、

ちゃんと返事をする。


「業者さんには、今日の午後から行かれるでしょう?」

「はい」

「きっと、いいこともありますよ」

「……はい?」


担当者さんは、

それ以上何も言わなかった。



交易所を出る。

足が重い。

重い。

重たい。


「はあーーーー……」


思いっきり息が出た。

リーダーさんが隣を見る。


「まあ、こんな時もありますよ」

「はい……」

「トータルでは大丈夫ですから」

「はい……」


分かってる。

分かってるけど。


悔しい。

とぼとぼ。

キャラバンへ戻った。



午後。

お昼ご飯。

目の前には、

ちゃんとご飯。

ちゃんとおかず。


「……」

箸を動かす。

もぐ。

「……」

味はする。

美味しい。


でも。

喉を通らない。


――結構、きてるなぁ。

自分で思う。


はあ。

でも。

いつまでも沈んでても仕方ない。


「よし」

顔を上げる。


午後は牛さんと馬さんの話。

獣医さんにも同行してもらう。


「行きましょう!」

「はい」


――さあ。

切り替えていこう!



教えてもらった業者さん。

「こんにちはー!」

「ちょっと待ってなー!」


奥から声。

しばらくして。

店主らしい男性が出てくる。


わたしを見る。

「ほう」

「?」

「ほんとに別嬪さんだな」

「……へ?」


べっぴん?

「別嬪さん?」

「ああ」

店主さんが笑う。


「ここいらで言う、美人ってことだ」

「はあ」

「あの偏屈な親父が言ってたぞ」

「偏屈な親父?」

「交易所の」

「あ」

あの担当者さん。


「すごい別嬪さんが行くから、良くしてやってくれってな」

「……あの担当者さんが?」

「そうそう」

店主さんが笑う。


「偏屈親父だったろ?」

「いや……そんなには」

「キャラバンの連中は、いつも泣かされてるぞ」

「そうなんですか?」

「ああ」

腕を組む。


「何でも一人でやるし、融通は利かんし」

「……」

「値切られただろ?」

「はい」

「半額くらいか?」

「いえ」


ちょっと考える。

「三分の二でした」

「ほう」

店主さんの眉が上がる。


「珍しいな」

「……珍しい?」

「ああ」

「そうなんですか?」

店主さんが、

にやっと笑った。


「お前さん、気に入られたな」

「は?」

思わず大きな声。


「あんなにけちょんけちょんにしておいて?!」

「あははは!」

店主さんが笑う。


「そうか。けちょんけちょんか」

「そうです!」


思い出して、

また腹が立ってきた。


「あんなの初めてでした!」

「でも」

店主さんが笑いながら聞く。

「言われたことは、事実だったろ?」


「……」

う。

「はい」


「ならいいじゃないか」

「だから、けちょんけちょんなんですよ!」


反論出来ないから悔しいの!

「あははは!」

店主さんが楽しそうに笑う。


そして急に。

「牛と馬だな!」

「え?」

「交換するんだろ?」

「……わたし、まだ何も言ってませんけど」

「あの親父から聞いてる」

「え?」


いや。

待って。


「あの担当者さんにも、詳しい話はしてないです」

「荷車とか見せたんじゃないか?」

「それは……品物を見せましたから」

「じゃあ、その時だな」

「?」

「変なこと聞いてこなかったか?」


思い出す。

「牛さんですねー」

「牛さんだと時間かかったでしょう?」


荷車を。

ぽん。

ぽん。


「あ」


「なんかしてたろ?」

「荷車をポンポンしてました」

「そうかそうか」

店主さんが笑う。


「牛と馬の交換だな」

「……なんで分かるんですか?」

「荷車見たんだろ」

「はい」

「そのままじゃ馬には使いづらいからな」

「……」


あ。

荷車の前。

牽引具。

ずっと見てた。


「確かに、前の方を気にしてました」

「そういう奴なんだよ、あの偏屈親父は」


店主さんが頭を掻く。

「素直に言やぁいいのにな」

「……」


そんなところまで。

見てたんだ。


わたしの品物だけじゃない。

荷車。

牛。

旅の速度。

帰り。

全部。

「……ぜーんぶ、お見通しだったんだ」


なんか。

悔しい。

余計に悔しい。


「さて」

店主さんが手を叩く。


「馬だな」

「はい。お願いします」

横にいた獣医さんを見る。

「あなたが獣医さんか?」

「はい」

「こっちに用意してある。見てやってくれ」


「もう用意してあるんですか?」

「聞いてるからな」


……。

ほんと、

あの人。


お店の裏手。

厩舎。

そこに三頭。

他の馬達とは別に繋がれている。


「わあ」

綺麗。

毛並み。

脚。

身体つき。

何より。

目。


「かわいい」


獣医さんが一頭ずつ見ていく。

脚。

蹄。

口。

目。

耳。

身体。

丁寧に確認していく。


「いい馬達ですね」

獣医さんが言う。


「だろ?」

店主さんが嬉しそう。

「うちの自慢だ」

馬の首を撫でる。

「大人しい。健康だ。それに若い」

「はい」

獣医さんが頷く。


「これ以上はないでしょう」

「そうだろ、そうだろ」


わたしも、

一頭の顔を見る。

「綺麗な子達ですね」

鼻先へ手を出す。


くんくん。

鼻を寄せてくる。

「目がかわいい」

「うんうん」

店主さんも頷く。


「お前さん達なら、安心して渡せそうだ」


獣医さんが、

わたしの横へ寄る。

小声。

「この状態の馬なら……」

「はい」

「牛二頭で馬一頭くらいでも、おかしくないと思います」

「……やっぱり、そのくらいですよね」


かなりいい馬。

高い。

でも。

欲しい。


帰りの時間。

今後のキャラバン。

村。

全部考えれば、

馬は必要。


「それで」

店主さんを見る。

「この子達は、どれくらいで?」

「ん?」

店主さんが不思議そうな顔。


「牛四頭と、荷車一台じゃないのか?」

「……え?」


頭が止まる。


「三頭ですよ?」

「ああ」

「馬、三頭ですよね?」

「ああ」

「牛四頭と……荷車一台?」

「そうだ」

「……」


え?

獣医さんを見る。

獣医さんも少し驚いている。


「でも」

思わず言う。

「それじゃ、あまりにも差が……」

「ああ」

店主さんが頷く。


「この件は、あの偏屈親父が直接ここへ来て頼んでいったんだ」

「……え?」

「今日の午前中にな」

「午前中?」

頷く。


わたし達が交易所を出た後。

あの人。

ここまで来たんだ。


「そこまでしてくれたんですか?」

「あいつがそこまですること自体、珍しいんだ」

「……」

「よっぽど気に入ったんだろ」

店主さんが笑う。


「三分の二」

「え?」

「それが証拠だ」


「……」

わたしには。

三分の二しか。

だった。


でも。

この人達からすると。

三分の二も。

なんだ。


「そうなんだ……」

ほんの少し。

胸の奥が軽くなる。


――少しは。

認めてくれてたんだ。


店主さんが続ける。

「そんな偏屈が信用したんだ」

「……はい」

「なら、おれも信用するさ」


わたしを見る。

「ここで終わるわけじゃないんだろ?」

「そのつもりです」

即答した。


「なら」

店主さんが笑う。

「次回への投資ってことで、受け取っとけ」


「……」

声が出ない。

「ほんとに……?」

「ああ」

目が熱い。


「あ」

「泣くなよ!」

「……ありがとうございます!」

泣きながら笑う。


店主さんの大きな手が、

ぽん。

ぽん。

頭を叩く。


「うん」


鼻をすする。

「ほんと……ありがとうございます!」



帰り道。

午前中とは違う。

悔しい。

まだ悔しい。

でも。

足は軽い。


「獣医さん!」

「はい?」

「わたし、ちょっと寄って帰ります!」

「どちらへ?」

「街!」

「?」

「先に戻っててください!」


獣医さんは、

少しだけ笑った。

「分かりました。お気をつけて」

「はい!」


よし。

見てろ。

街を歩く。

店を回る。

聞く。


「これ、今いくらですか?」

「今の時期、何が一番動きます?」

「これはどこから?」

「この品は、どの辺りまで持っていきます?」


聞く。

見る。

値段。

量。

人。

売れ方。

並んでいる品物。

余っているもの。

足りないもの。

帰り道。

宿泊地。

距離。

保存。


全部。

もう一度。

最初から。

わたしは――

交易品の再選定を始めた。



キャラバンへ戻る。

「さあ!」

気持ちを切り替える。

「これから一般販売――」


……ん?

人。

なんか。

人、多くない?


「え?」

急いで戻る。

「いらっしゃい!」


聞き覚えのある声。

「……籐吾さん?」


籐吾さん。

普通に販売してる。


「どうしました?!」

「ん?」

籐吾さんが振り返る。


「なんでも、交易所から広報が回ったらしいぞ」

「広報?」

「今日の午後から、ここで一般販売するって」


「……」

交易所。

担当者さん。


「もう!」

思わず声が出る。

「なんで言わないの!!」

「おれに言われても」

「分かってます!」


急いで荷物のところへ。

御形さんも、

荷出しを手伝っている。


「御形さん!」

「おう。遅かったな」

「すみません! 今やります!」


お客さん。

次。

次。


「いらっしゃいませ!」

「聞いて来たの」

女性のお客さん。

「安くていい品物を持ったキャラバンが、午後から販売するって」

「ありがとうございます!」

頭を下げる。


「どうか見ていってください!」

売る。

包む。

渡す。

計算。

「ありがとうございました!」


次。

「いらっしゃいませ!」


忙しい。

忙しい。

すごく忙しい。


なのに。

なんだろ。

涙が出そう。


いや。

少し出てる。

「菖蒲?」

「大丈夫です!」


御形さんが見る。

「忙しいだけです!」


なんでだろ。

悔しかった。

嬉しかった。

助けてもらった。

負けた。


でも。

まだやれる。

全部、

ごちゃごちゃ。


「はい! 次の方どうぞ!」


夕方。

ようやく。

人が減る。

「終わったぁー……」


ふうーーーー。


長い息。

見る。

籐吾さん。

また座り込んでる。


「籐吾さん!」

「ん?」

「ありがとうございました!」

「いつもこき使われてるからな」

「こき使ってないです!」

「そうか?」

「……少しだけです!」

「ほら」

籐吾さんが笑う。


「もう大体わかるさ」

「……ありがとうございます」


次。

御形さん。

「御形さんも!」

「ん?」

「ありがとうございました!」

「あんたら」


御形さんが、

売り場の残骸を見る。

空箱。

紙。

紐。

散らかった荷物。


「いつも、こんな忙しいことしてたんだな」

「えへへ」


なんか。

嬉しい。

今日は朝から、

いっぱい落ち込んだ。

いっぱい悔しかった。


でも。

今。

とってもいい気分。


「今日の晩ご飯」

「ん?」

「きっと美味しいぞー!」

「それはいいな」


籐吾さんが立ち上がった。

「飯か?」

「そこだけ反応早いですね!」



翌日。

朝。

わたしは一人で交易所へ向かった。


受付。

「お願いします」

「こちらでお待ちください」


また。

あの小部屋。

座る。

待つ。

……待つ。

相変わらず長い。


でも。

今日は昨日と違う。

足も重くない。

手元の紙を見る。

何度も見直した。

大丈夫。


ガラッ。

戸が開く。

あの人。

当然だけど。

担当者さんが入ってきた。


「おや」

わたしを見る。

「珍しく、わたしを指名と聞いて来てみれば」


少し笑う。

「あなたでしたか」

「はい!」

立ち上がる。


「お待ちしておりました!」

「ああ、これは」

担当者さんが頭を下げる。

「お待たせして申し訳ない」


昨日と逆だ。

わたしは、

にっこり笑う。

担当者さんも、

わたしの顔を見る。


「今日は」

少し目を細めた。

「いい目をしてらっしゃる」

「ありがとうございます!」


座る。

「今日は、持ち帰る希望の品物を持って来ました」

「なるほど」


担当者さんが手を出す。

「では、拝見しましょう」


「はい!」


すっ。

紙を出す。


――今度は出せた。

昨日は出す前に立たれた。


今日は出せた。

なんか勝った気分。


「どれどれ」

担当者さんが一覧を見る。


「ふーん」

次。

「うんうん」

次。

「なるほど」

顔が読めない。


「どうでしょうか?」

「良く勉強してらっしゃる」

「ほんとですか?」

「昨日、調べたんですか?」

「はい」

「昨日の午後?」

「馬さんのところへ行った後、街を回りました」

「なるほど」


また紙を見る。


「いい選定です」

よし!

「ただし」


来た。

「こちらの品物」

指を置く。

「帰りの輸送時間を考えると、再考された方がいいかと」

「はい」


昨日なら。

ここで止まっていた。

でも今日は。

「その品物は」

担当者さんを見る。


「帰りの宿泊地で販売します」

「……」

「そこで三分の一を取り返そうと思いまして」


一瞬。

担当者さんが止まった。

「……」


そして。

「はははは!」

笑った。

声を上げて。


「これは!」

紙を叩く。

「そうですか!」

「はい!」

「なるほど」

何度も頷く。

「ただでは起きない、と」

「はい!」

「うん」


担当者さんが笑う。

「いいですね」


そして。

「これは一本取られました」

「ありがとうございます!」


やった。

昨日。

あんなに負けた人から。

一本。

取った。


「いや」

担当者さんが楽しそうに笑う。

「ほんと、あなたは楽しませてくれる」

「褒め言葉と取っておきます」

「そうしてください」


少し間。

「また、今度も来られますよね?」

「もちろんです」

「その時は」

わたしから言う。


「是非、ご担当をお願いします」

担当者さんが笑う。


「もちろん」

立ち上がりながら、

手を差し出す。


「こちらから指名させていただきます」


わたしも手を出す。

ぎゅっ。

しっかり握る。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

手を離す。

よし!



午後。

交易品を積み込む。

「それは二番!」

「こっちは三番へ!」


忙しい。

担当者さんも、

なぜか同席している。

そして馬屋の店主さんも。

馬さん三頭の引き渡し。


荷車の前では、

ガチャガチャ。

「萱さん、それどうです?」

「もう少し待て!」


萱さんが、

牽引具の部品を交換している。

牛用の荷車。

馬用にそのままでは使いづらい。

だから一台は引き渡し。

残す荷車は、

馬に合わせて部品を替える。

金具。

位置。

長さ。

角度。

ガチャガチャ。

担当者さんが、

興味深そうに見ている。

「これはどう固定するんです?」

「ここを差し替えて――」

「なるほど」

萱さんへ質問。

次。

「この部分の強度は?」

また質問。

「……」


わたしは、

荷物を持ちながら見る。

担当者さん。

荷車ばっかり。

「品物は見ないんだ」

一人で呟く。


昨日は、

あれだけ品物を見たのに。

今日はもう、

見ない。


「菖蒲!」

「あ!」

呼ばれた。


「それ、どこだ?」

「それはあっちの荷車へ!」

忙しい忙しい。


なんだかんだ。

積み込みは終わった。


そして。

牛さん達。

「……」

四頭。

ここまで。

ずっと一緒に歩いてきた。

暑い日も。

野営の日も。

襲撃の時も。

ずっと荷車を引いてくれた。

一頭ずつ。

顔を見る。

首を撫でる。

「ありがとね」

牛さんが、

ゆっくり鼻を鳴らす。

「これまで、たくさんありがとね」

ぎゅっと首へ抱きつく。


「この子達を」

馬屋の店主さんを見る。

「よろしくお願いします!」

「おう」

店主さんが頷く。


「確かに受け取った」

「はい」


少し。

寂しい。

交易。

交換。

必要なこと。

分かってる。


馬になれば、

もっと速く移動出来る。

次のキャラバンも楽になる。

みんなの役に立つ。


でも。

この子達も。

一緒に旅した仲間だった。

「……ごめんね」

小さく呟く。


「わたしのせいだ」


ぽん。

「ん?」

頭。

ぽんぽん。

御形さん。

「御形さん」

「仕方ないだろ」

「……はい」

「ちゃんと次に繋がる」

「……はい」

また。

ぽん。


――なんか。

わたしが落ち込んでると、

みんな頭ぽんぽんするなぁ。

ちょっとだけ笑う。



翌日。

朝。


準備完了。

荷物。

人。

馬さん達。

新しい牽引具。

全部確認。


「それでは!」

リーダーさんが声を上げる。


「出発します!」

「はい!」


今日から。

馬さん達が、

荷車を引く。

最初はゆっくり。


街の中だから、

焦らない。

ゴトゴト。

今までとは、


少し違う音。

少し違う歩調。

広場を出る。


見送りに来てくれた人達。

宿屋さん。

馬屋の店主さん。

そして。

「あ」

あの担当者さん。

偏屈な担当者さん。

ちゃんと来てる。

「みなさん!」

身を乗り出す。

「ありがとうございましたー!」


みんなが手を振る。

わたしも、

思いっきり振り返す。


担当者さんも。

小さく。

でも、

ちゃんと手を振っている。


街を進む。

正門。

見えてくる。

大きな門。


その向こう。

外界。

青い空。

乾いた道。


来た時。

ここをくぐる時は。

期待しかなかった。


大きな街。

大きな市場。

きっと売れる。

きっと上手くいく。

そう思ってた。


今は。

違う。

失敗した。

負けた。

悔しかった。

助けてもらった。

勉強した。

少しだけ。

取り返した。


門をくぐる。

外へ。

振り返る。


石の壁。

大きな門。

遠くなる街。


わたしは、

心の中で言う。

――次は見てなさいよ。


次に来る時は。

もっと調べて。

もっと考えて。

もっと上手くやる。


そして。

今度こそ。

ちゃんと勝つ。

次は――

リベンジだ。

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