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剣の世界〜とある村の一日〜  作者: なえみ
キャラバン編

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第三節 計画

どーしよう。

どーしよう。


何を持って行こう。

何を持って帰ろう。


んー。


考えること、いっぱい!



朝。


目を覚まして、窓の外を見る。

今日もいい天気。


青い空。

雲ひとつない。


少し乾いた風が吹いている。

乾季が来るなぁ。


顔を洗って、朝ご飯を食べたら仕事。


毎日、毎朝。

まずは農家さんのところへ。


「おはようございます!」

「はい、おはよう」

「今日はどうですか?」

「今日は茄子とトマトだね」


並べられた野菜を見て、数を確認する。


大きさ。

色。

今日売れそうな量。


頭の中で、お店に残っている分と合わせてみる。


「はい、ではこれだけお願いします」

「はい、じゃあ後でお店に届けておくね」

「よろしくお願いします!」


仕入れが終わったら、今度はお店。


表を開けて。

店先を掃いて。

野菜を並べて。

奥に置いてある昨日の分も確認する。


よし。


今日も開店!


「おはようございます!」

「おはよう。これとこれちょうだい」


「はい! 今日はこちらもおすすめですよ!」

「じゃあ、それも」


「ありがとうございます! ところで、キャラバンが来た時ですけど……」


ついでに聞く。


何が欲しいですか?

何があったら買います?

逆に、村から売れそうなものって何だと思います?


市場調査を忘れない。


だって、せっかくキャラバンに行くんだ。


何を持って行けば売れるのか。

何を持って帰れば喜ばれるのか。


ちゃんと知っておかないと。


お客さんが来る。

野菜を売る。

お金を数える。

また聞く。


うん。

忙しい。

でも、なんか楽しい。



しばらくして、お客さんが途切れた。


カウンターに頬杖をついて、お店の前の道を見る。


のしのし。


……いた。


大きな身体が道の向こうを歩いている。


「あ! 籐吾さーん!」


大きな声で呼ぶ。


籐吾さんが振り向いた。


お。

今日は一回で分かってくれた。


こっちへ向かってくる。

でも、到着を待つ必要はない。


「また、お店番お願いしまーす!」

「え?」


よし!

店番確保!


「ちょ、菖蒲――」

「よろしくお願いします!」


さあ!

忙しいぞ!


まずは去年、一昨年。

キャラバンを担当した人達のところを回る。


何が困ったか。

何が足りなかったか。

どこが大変だったか。

どこに時間がかかったか。


何を持って行って助かったか。

逆に、持って行ったけど使わなかったものは何か。


とにかく聞く。


困ったことを、片っ端から聞いて回る。


話を聞けば聞くほど、知らないことが出てくる。

だったら、それも聞く。


紙に書く。


次。

また聞く。

また書く。


そして、村の倉庫。


大きな扉を開けてもらう。


「おおー……」


ここにはキャラバンで使う荷車が置いてある。


近くで見ると――


「おっきいなー」


へえー。


ぐるっと一周。


車輪を見る。

荷台を見る。

幌を見る。


「高いな」


荷台へ手を掛けて、よいしょっと登る。


「んしょ……っと」


登れなくはない。


でも、毎回これは面倒。


横かどこかにステップ付けられないかな。

大工さんに聞いてみよ。


荷台に立って中を見る。


「広い……」


思っていたよりずっと積める。


でも。

荷物をここへ無造作に積んだら……。


奥の物を取り出す時、絶対大変だ。


どこに何を積んだか分からなくなるのも困る。


仕切り?

棚?

箱ごとに分ける?


うーん。

これも大工さん。


「これくらいかなぁ……」


荷台の広さを歩幅で測る。

紙に書き込む。


降りる。


もう一度、外から眺める。


うん。

少しずつ見えてきた。



後は――牛さん。

農家さんの牛小屋へ。


キャラバンで荷車を引く、大事な働き手。


一日にどれくらい歩けるのか。

どのくらい休ませるのか。

前回は何日で着いたのか。


餌はどれくらい必要なのか。

水は?


聞くこといっぱい。


話を聞きながら牛さんを見る。


もぐもぐ。

大きい。


「……そういえば」

「ん?」


「うちの村、馬さんいませんね?」

「まあね」


「なんでです?」

「馬はハンターさんの管轄だからね」


「あ、そうなんですか?」


知らなかった。


「牛はね、ほら。労働力にもなるし、運搬にも使える。それに最期はね、食糧にもね」


「まあ、そうですね」


「馬は速いし運搬には便利だけど、あまり農家には合わないんだよね」

「へえー」


なるほど。


「勉強になります!」


牛と馬。

同じ荷物を運ぶ動物でも、使い方が違う。


ふむ。

じゃあ。


「んじゃ、ついでにハンターさんのとこ行ってみよ」



御形さんを見つけた。


「御形さーん!」

「んー?」

「あ、御形さん質問!」


「なんだい?」

「なんでうちの村、お馬さんいないんですか?」


「馬?」


御形さんが少し考える。


「昔は飼ってたそうだぞ」

「今は?」


「さあ? なんでだろうな?」

「御形さんも知らないんですか?」


「うん。うちの師匠に聞いてみな」

「ですね!」


だったら聞きに行こう。


こういう時、知ってる人がすぐ近くにいるのが、この村のいいところ。



「こんにちは!」

「おや、嬢ちゃん。元気してたか?」

「元気ですよ!」


「うん、いいこった。で?」

「あ、そうそう。なんでうちの村、お馬さんいないんです?」


「あー」


御形さんのお爺さんは少し考えて、


「高いからなぁ」


と、あっさり。


「買えない?」

「まあな。あれは何かと便利だけど、一頭だけじゃ使い勝手悪いし、数頭買うとなるとなかなかな」


「なるほど」

「キャラバンとかにも使えるんだがな」


「ふーん……」


高い。


一頭だけじゃ使いづらい。

でも、数頭いれば使える。


キャラバンにも。


「……」


ん?


なんか。

そーか。

うんうん。


頭の中で、さっき見てきた荷車が動き始める。


牛さんがいる。

荷車がある。

道がある。

目的地がある。


そして――馬。


「……なるほど」


少しずつ。

少しずつ。


キャラバンが頭の中で形になっていく。


「うん、これ楽しい!」



その夜。

わたしは家のテーブルに紙を広げていた。


書く。

消す。

また書く。


「あー……」


違う。

消す。


「うーん……」


こっちをこうして。

いや、だったらこっちは……。


「そうだ!」


書く。

計算する。

また消す。


去年の記録。

一昨年の記録。


今日聞いた話。

荷車の大きさ。

牛の歩ける距離。


立ち寄る村。


交易。

荷物。


行き。

帰り。


紙の上を、何度も指で辿る。


気がつけば、夜はどんどん更けていった。



朝!

起きる!


いつものルートで、いつもの準備。


農家さんへ行って。

仕入れして。

お店へ戻って。

表を開けて。

野菜を並べて。


さあ!


今日は!

まずは籐吾さん探さなきゃ!



いた。


捕まえた。


「籐吾さん!」

「ん?」


カウンターの中へ。


「はい」

「……はい?」

「じゃ! お店番お願いします!」


「え?」


ポカンとした籐吾さんが、八百屋のカウンターの中にいる。


巨漢。

野菜。

籐吾さん。


「……」


うん。

シュールだわ。


「よろしくお願いします!」

「お、おう……」


よし!



わたしは寺子屋へ走った。


「おはようございます! 和尚さんいますか!」

「朝から元気じゃのう。菖蒲か、どうした? こんな朝から」


「和尚さんの意見聞きたくて」

「ほう? なんじゃ」


「これです!」


昨晩書き上げた紙を広げる。


キャラバン隊の構成。

積荷商品。

積載方法。

行程。


思いついたこと。

調べたこと。

聞いたこと。


全部まとめた。


日程や道そのものについては、わたしの専門じゃない。


だから勝手には決めていない。

でも、過去のルートと日程は参考にしたつもり。


和尚さんが紙を手に取る。


「どれどれ……」


目が上から下へ動いていく。


「ふーん。まあまあ無難じゃな」


無難。

いいのかな、それ。


「ほう、この積載はなるほどな」


お。

褒められた。


「で、ここでこうなると……」


和尚さんの指が止まる。


「んー。行きに日数をかけ過ぎじゃが……」


はい。

そこ。


「行きと帰りの日程が大きく違うな?」

「はい」


「牛売却? 馬購入?」

「はい! 目的地で牛さんと馬さんを入れ替えようかと」


「はー……なるほど」


和尚さんが髭を撫でる。


「牛と馬は変えられても、荷車はどうする? 別もんじゃぞ」

「そこは、鍛冶屋さんに相談しようかと」


「なるほど。まずはそこじゃな」

「はい!」


もう一度、紙を見る和尚さん。


「後はどうにかなりそうじゃ。よく考えておる」

「ありがとうございます!」


やった!

お墨付きもらえた!



後は――鍛冶屋さん!


「こんにちはー!」

「ん? 珍しいな、どうした?」


「実はキャラバンの事で相談が」

「ほう、おれにか?」


「はい。是非ご意見を」


空いている作業台に計画書を広げる。


「ほう、計画書か」

「はい」


「どれどれ……」


親方さんが腕を組む。


紙を見る。

しばらく無言。


「……なかなか大胆だな」


やっぱり?


「帰りの日程……なんじゃこれは」


指が止まった。


「目的地で牛と馬交換?!」

「そこなんです。目的地で牛さんと馬さんを交換出来ないかと」


「はー……」


親方さんが紙とわたしを交互に見る。


「荷車か?」

「はい」


「まあ、なかなか面白い事を」


親方さんが工房の奥へ顔を向けた。


「おい!」

「なんです親方?」


「実際やる奴に聞くが一番だ。萱、これ見てどう思う?」

「?」


萱さんがやってくる。


「キャラバンですね。計画書?」

「あ、はい」


紙を覗き込む。


「日程、荷物、行程……これ菖蒲さんが?」

「はい」


「へえー」


指で順番に追っていく。


そして。


「……は?」


止まった。


「これですか? 親方!」

「萱、おまえどう思う?」


「変なこと思いつくなー」


え。


「でも、面白い!」


お。


「親方! やってみていいですか?」

「おう、やってみな」


「はい!」


親方さんがわたしを見る。


「だそうだ」

「ありがとうございます!」


萱さんはもう荷車のことを考え始めている。


「これは荷車も加工が要りますね」

「そうだな。牛用のまま馬に替えるわけにはいかん」


「轅を組み替えられるようにして、荷重も見直して……帰りは荷物も減るんですよね?」

「はい。行きよりかなり軽くなる予定です」


「なら、やれそうです」


萱さんが親方を見る。


「忙しくなるな、親方。空いた時間でやって来ていいですか?」

「空けてやる。今の時期、こっちはおれ一人で充分だ。おまえはキャラバンに集中しろ」


「親方! ありがとうございます!」


そして、わたしへ。


「菖蒲さん! この件はぼくが責任持って承ります」

「萱さん、よろしくお願いします!」


よし!

これでなんとか形になって来た!



鍛冶屋さんを出る。


そのまま歩いていると、八百屋の前を通った。


そういえば。

籐吾さん、ちゃんとお店番してるかな?


ちらっ。


「――こちらでいいですか?」

「うん、それ」


「じゃあ……これで」


お客さんの相手してる!

ちゃんとやってる!


あ。

気がついた。


籐吾さんがこっちを見る。


手振っとこ。


ぶんぶん。


籐吾さんも手を上げ――


そのまま、通り過ぎた。


ごめんなさい。

まだ帰りません。



次。

役場。



建物の前で立ち止まる。


「……うん」


なんか緊張するんだよね、ここ。

この間のあれがあるからかな。


入り口から顔を出す。


「すみませーん」


奥から声。


「はーい」

「あの、キャラバンの件で来たんですけど」


「あー、はいはい。今、今回のリーダーも来てるから、そっちの部屋ね」

「あ、ありがとうございます」


部屋の前。


一度、深呼吸。


よし。


今度は変なこと言わない。


コンコン。


「失礼します!」


――よし、今度は完璧。


「はい?」


引き戸が開く。

中を見る。


「……」


お偉いさん。

御形さんのお爺さん。

和尚さん。

親方さん。


それから――こちらが今回のリーダーさん?


そして。

おっと。


老ハンターさんまでいる。


「……」


なんか更に何これメンバー。


「おー、ちょうどいいとこに来た」


親方さんが声をかけてくれた。


「さっきの件、事前に話しとこうと思ってな」

「あ、ありがとうございます……」

「呼びに行かそうと思ってたとこだ」


「はあ?」

「ほら、入って説明して行け」


え?


ちょっと待って。


――いきなりプレゼンですか?!


この面子に?!



わたしは、おそるおそる部屋へ入った。


逃げられない。

仕方ない。


やろう。


何人にも見せて回った計画書を、テーブルの真ん中に広げる。


「では……説明します」


キャラバンの構成。


荷車。

積荷。

立ち寄り先。


往路。

復路。


牛。

馬。


今まで調べたことを、一つずつ説明していく。


途中で質問されれば答える。

分からないところは、分からないと言う。


そこは専門の人に任せる。

全部をわたしが決める必要はない。


わたしが考えなきゃいけないのは――


どうすれば、もっといいキャラバンになるのか。


説明を終える。


「……以上です」


しん。


ちょっとだけ静か。

怖い。


やがて、お偉いさんが口を開いた。


「なるほど」


紙を見る。


「和尚はどうだ?」

「大丈夫じゃろ」


「親方は?」

「全然可能だ。荷車の加工も萱にやらせる。実現は可能だ」


親方さんと和尚さんが頷く。


おお。

いける?


「ひとつだけ」


はい。


「技術的には問題ないとして――牛と馬、交換出来るのか?」

「そこは、牛さん四頭と馬さん三頭、それと余る荷車一台も売却しようと思っています」


「荷車もか?」


「はい。帰りは積荷が減りますから、四台を維持する必要がありません。三台に集約出来ると思います」


親方さんが頷いた。


「老朽化した荷車を更新すると思えば同じことだな」


――親方さん、ナイス!


「そこも可能だと」


お偉いさんが計画書を見る。


「もう一つ。なぜ荷車は四台なんだ?」

「行きの立ち寄り先は三箇所です」


わたしは荷車の絵を指差す。


「一台に、それぞれ一箇所分の交易品を積みます」

「なるほど。現地でその一台から必要な物を降ろせばいい」


「そうです。荷物を探したり、積み直したりする時間を減らせます」


そして、残る一台。


「後の一台には、食糧、水、補修部品や武器を積みます」

「つまり実務用か」


「はい。それと――」


ここは大事。


「緊急時には、これ以外の荷車は破棄します」


一瞬、空気が変わった。


老ハンターさんがこちらを見る。


「交易品を捨てるのか?」

「はい」


もったいない。

ものすごく、もったいない。


でも。


「交易品より、人が帰る方が大事ですから」


老ハンターさんが、少しだけ笑った。


「帰れる構成か」


そして頷く。


「守る物が明確なのはいい事だ」


よかった。


「日程は?」


お偉いさんが続ける。


「行きと帰りの差が激しいが」

「はい。行きは三箇所でしっかり交易品を販売します。それと、もう一つ」


「もう一つ?」

「情報です」


「情報?」


「はい。何が売れたか。何が売れなかったか。どの村で、どんな品が必要とされているか。それを調べます。次の交易に活かせますから」


一回売って終わりじゃない。


次。

その次。


またキャラバンは行くんだから。


「では帰りは?」


「荷車を一台売却した上で、残る三台に積むのは目的地で購入した品物です。基本的には村へ持ち帰る物ですね」


計画書の帰路を指でなぞる。


「行きより、はるかに軽い。物量も少ない」


なら。


「早く帰ってしまいましょう」

「ははは!」


誰かが笑った。


「なるほど。馬ならそれが可能か」

「はい!」


お偉いさんが、今度は今回のリーダーさんを見る。


「ならば、後はリーダー。どうする?」

「面白いですね」


リーダーさんが計画書を見る。


「村に新しい資産も増える。馬を持ち帰れれば今後のキャラバンにも使える。いい事ではないですか」


次に、老ハンターさん。


「ハンターの意見は?」

「和尚が菖蒲を推す訳だ」


和尚さんが笑う。


「だから言ったろう。適任じゃと」


え。

ちょっと。

なんか。


思ってたより評価高くない?


「では、決まりだな」


お偉いさんが言った。


「え?……」


待って。

何が?


「菖蒲の計画書、実行書として使用しよう」


「……」


え?


――通っちゃうの?


「よろしく頼むぞ」

「……はい」


――えーーー!


まじか!

通っちゃったよ!



役場から出る。


外。

青い空。

乾いた風。


わたしは役場の前で、しばらくポカンと立っていた。


「……通っちゃった」


本当に?


頭を振る。


いや。

通ったんだ。


「よし!」


だったら次!

後は交易品と購入品をリストにしなきゃ!



交易品。


この村ならではの物。

この村の一番の特徴。

村の人達に聞けば、ほとんどの人はこう言うだろう。


――防護林。


名前の通り、外敵から村を守るための林。


何代も何代も。

村の人達が守り、育て、受け継いできた宝物。


だけど、長い年月を経たそこは、普通の森とも少し違う植生になっている。


木材は当然。


蔦類。

鳥類。

薬草。


中には、森へ探しに行かなければなかなか手に入らない貴重な薬草もある。


それを、この村では代々受け継いで育ててきた。


しかも。

それが、すぐ目の前にある。


もちろん簡単じゃない。

防護林だって危険はある。


採り過ぎれば駄目だし、次の年、その次の年のことまで考えなきゃいけない。


でも。


深い森へ入って伐採、採集することと比べれば、はるかに危険は少ない。


だから。


安価。

高品質。


そして、きちんと管理すれば安定して供給出来る。


「交易品はこれで決まりね」


紙に書く。


後は購入品。


この間、村のみんなから聞いて集めた物。


必要な物。

欲しい物。

不足している物。


それとは別に、旅そのものに必ず必要になる物もある。


こっちはリーダーさんに任せよ。


全部自分でやる必要はない。


わたしは、わたしの仕事をする。


「よし!」


店先のカウンターで、最後のリストを仕上げる。


出来た!


「じゃ! 籐吾さん! あとよろしく!」

「え、また?」


また店を後にする。


ごめんなさい!

これをリーダーさんに渡せば準備は終わり!



役場へ行って。

リストを預けて。

外へ出る。


「終わったー!」


両腕を思いっきり伸ばす。


「後は結果待ちだー!」


長かったー。


調べて。

聞いて。

考えて。

書いて。

また聞いて。

直して。


でも。


「楽しい」


うん。

楽しかった。


乾いた風が吹く。


もうすぐキャラバン。

もうすぐ旅が始まる。


御形さんと一緒に。

村の外へ。


初めての仕事。

初めての交易。


「……」


ん?


なんか。

なんか忘れてる気がする。


交易品。

よし。


購入品。

よし。


荷車。

よし。


牛。

馬。

よし。


日程。

よし。


店のことは――籐吾さん。

……よし?


じゃなくて。


「あ」


自分。

わたし、自分の――


「自分の準備なんにもしてない!」


乾季の青空に、わたしの声が響いた。

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