プライドと、アブラムシの逆襲
「――ふん、トマトごときがペストの幹部を倒したなんて、どうせ運が良かっただけでしょうけど」
紫苑は冷ややかな笑みを浮かべ、ツンと顔をそむけた。
その傍らで、ナスの妖精・ナス美も腕を組んでフンと鼻を鳴らす。
「そうよ! 私たちの優雅で華麗な戦いぶりとは大違いなんだからね!」
「なんだと、このツヤなしナスビが!」
トマ斗が真っ赤になって怒り出し、紅葉の肩の上でピョンピョンと飛び跳ねた。
「トマトのどこが泥臭いってんだ! 太陽の恵みと情熱の赤を舐めんなよ!」
一触即発の空気の中、紅葉は慌ててトマ斗をなだめつつ、紫苑に向き合った。
「あの、紫苑ちゃん……? 私たちは別に喧嘩したいわけじゃ……」
「馴れ合いはお断りよ。あたしはあたしのやり方で、あの汚らしい害虫どもを駆逐するだけだわ。邪魔しないでよね」
紫苑はそれだけ言い残すと、夕闇に溶けるようにフワリと身を翻し、夜の街へと消えていった。その後をナス美が「お疲れ様ですわ、お嬢様!」と慌てて追いかけていく。
「なんだあいつ! ちょっとナスビのツヤがいいからって、すっごい高飛車な奴だな!」
トマ斗が地団駄を踏んで悔しがる。
紅葉は遠ざかる紫苑の背中を見送りながら、どこか複雑な気持ちで胸元のペンダントに触れた。
(もう一人の野菜のヒロイン……。仲間、なのかな……?)
しかし、その穏やかな疑問は、長くは続かなかった。
ズズズ……ッ!
突然、夕暮れの空が真っ黒な不気味な雲に覆われ、先ほどまで紫苑が立っていた電信柱のあたりから、激しい悪臭とともに地面が割れた。
「キャッ!?」
紅葉が思わずよろめく。
地中から現れたのは、これまでの雑魚とは明らかに違う、禍々しいオーラを纏った巨大な影だった。
『ククク……よくも我が軍の尖兵どもをやってくれたな、小娘ども……!』
現れたのは、全身がねっとりとした紫色の甲殻に覆われ、何本もの触手をうねらせる巨大なアブラムシの幹部・**「グロテスク・アブラムシ男」**だった。昨日のイモムシ怪人とは比べ物にならないほどの威圧感が、周囲の空気を凍りつかせる。
「なっ……こいつ、昨日の雑魚とは気配が全然違う!」
トマ斗が青ざめて叫んだ。
「人間どもの活気も、生意気な野菜の妖精も、すべて残らず食い荒らして灰にしてくれるわ!」
幹部の巨大な触手が、逃げ遅れた商店街の人々めがけて一斉に振り下ろされる。
「危ないっ!」
身体が勝手に動いていた。紅葉は迷わずペンダントを強く握りしめる。
「私たちが、この街の人たちを守るんだから……!」
「フレッシュ・チャージ! 太陽の恵み、真っ赤に熟れて!」
まばゆい真紅の光が爆発し、瑞々しいフリルドレスを纏った「フレッシュ・スカーレット」へと変身を遂げる紅葉。
しかし、相手は軍団の幹部。圧倒的な数の触手が、四方八方から紅葉を狙って襲いかかる。
「うっ……重い……!」
シールドを展開するものの、圧倒的な物量と粘着質の攻撃に、紅葉はじわじわと押し込まれていく。ついにシールドに亀裂が入り、絶体絶命のピンチが訪れたその時――。
「――まったく、これだから無計画な赤は見ていられないわね」
夜空を切り裂くように、鋭い紫色の光の刃が閃いた。
ズバァァンッ!!
紅葉を襲っていた触手が、鮮やかな紫の軌跡によって一刀両断される。
驚いた紅葉が顔を上げると、そこには夜の闇に浮かぶ艶やかな紫のドレスを纏った、もう一人の戦士の姿があった。
「紫苑……!」
「勘違いしないでよね。あたしは、あの汚らしい虫どもが目障りだから片付けに来ただけよ!」
ツンとした口調の裏で、紫苑の構えるステッキナイフから高貴な紫の魔力が放たれる。
トマトの赤と、ナスの紫――。
二人の野菜ヒロインが、いま初めて同じ戦場に並び立つ!




