赤と紫のハーモニー
「ノクターン・バイオレット……!」
「勘違いしないでよね。あたしは、あの汚らしい虫どもが目障りだから片付けに来ただけよ!」
ツンとそっぽを向くノクターン・バイオレット(紫苑)だったが、その手元のステッキナイフは、いつでも攻撃できるよう鋭く研ぎ澄まされた紫の光を放っている。
その背中には、ツヤツヤとしたナスのヘタ帽子をかぶった妖精・ナス美が腕を組んでぷりぷりと怒っていた。
『おのれ、もう一匹の小娘が加わったところで、我らの敵ではないわ!』
アブラムシの幹部男が怒号を上げ、無数の触手を再びうねらせる。ネットリとした紫色の液が雨のように降り注ぎ、周囲の空間をさらに灰色へと染め上げていく。
「行くわよ、紅葉!」
「うんっ!」
二人のヒロインが同時に地を蹴った。
しかし――。
「ちょっと、邪魔よ! そこはあたしが斬るはずだったのに!」
「あっ、ごめん! 私のシールドが……!」
いざ共闘してみると、息がまったく合わない。
紅葉の「正面から押し返す熱い突撃スタイル」と、紫苑の「影を縫うように素早く敵を翻弄するクールなスタイル」は、お互いの動線を塞ぎ合ってしまっていた。
「おいおい、あの二人、全然噛み合ってねぇぞ!」とトマ斗が空中で頭を抱える。
「お嬢様の華麗な邪魔をしないでちょうだい、そこの赤い丸っこいの!」とナス美もキーキーと怒鳴り返す。
お互いの攻撃がぶつかり合い、動きが止まったその隙を、幹部は見逃さなかった。
『まとめて押し潰してくれるわ!』
巨大な触手の束が猛烈な勢いでうねり、紅葉と紫苑をまとめて吹き飛ばした。
――ドガァァンッ!!
「きゃあっ……!」
「っ……!」
二人は激しい衝撃に弾き飛ばされ、アスファルトの路上に崩れ落ちた。変身の光がわずかに揺らぎ、焦りの色が浮かぶ。
「くそっ……、やっぱり一人じゃ……」
紅葉が歯を食いしばりながら立ち上がろうとした時、ふと、隣で同じように膝をついている紫苑の姿が目に入った。
紫苑のドレスは、先ほどの攻撃で裾が少し破れ、額には汗が滲んでいる。それでも、その瞳の奥の「この街を、私の誇りを守りたい」という強い光は、紅葉自身の胸の熱さとまったく同じだった。
(そうだ……私たちは違う野菜だけど、目指しているものは同じ!)
トマトは太陽の光で真っ赤に熟れ、ナスビはその深い紫の皮で栄養を蓄える。どちらも、美味しくて、誰かを元気にするための大切な恵みだ。
「ねえ、紫苑ちゃん!」
紅葉がパッと顔を上げ、大声で叫んだ。
「私のシールドの中に、一度あなたを隠す! その代わり、あなたのその鋭い一撃で、あいつの硬い核を撃ち抜いて!」
紫苑はハッと目を見張り、それからふっと不敵で美しい笑みを浮かべた。
——ノクターン・バイオレットとして、誇り高き彼女の瞳が射抜くように光る。
「……はっ、調子のいいこと言うじゃない。でも……悪くないわね!」
二人の意思が、ピタリと重なり合った瞬間だった。
「トマ斗、ナス美! 力貸して!」
「おうよ、見せつけてやれ、お前らのコンビネーションを!」
「お嬢様、おやりなさいませ!」
妖精たちの声援を受け、紅葉が両手を力強く突き出した。
「フレッシュ・スカーレット・シールド!」
展開された巨大な赤色のバリアが、幹部から放たれるすべての触手をガッチリと受け止める。浴びた衝撃が熱エネルギーに変わり、シールドが太陽のように眩しく燃え上がった。
「今よ、ノクターン・バイオレット!」
シールドの影から、紫苑がまるで夜の闇を切り裂く流星のように飛び出した。
「パープル・ナイト・エッジ……すべてを浄化しなさい!」
高貴な紫の魔力と、完熟の太陽エネルギーが一つに混ざり合う。
それは、赤と紫が織りなす究極の合体必殺技――『ベジタブル・ハーモニー・バースト』!!
ズバァァァンッ……!!
まばゆい光の奔流がアブラムシの幹部を完全に包み込み、轟音とともに闇を切り裂いた。
『ば、馬館な……この甘酸っぱくも高貴なエネルギーは……っ!!』
断末魔の叫びを残し、巨大な幹部は光の中に霧散し、完全に消え去った。
夕暮れの街に、静寂が戻る。
黒く染まっていたアスファルトや商店街の建物は、元の鮮やかな色彩と温もりをすっかり取り戻していた。
変身が解けた紅葉と紫苑は、少し離れた場所で肩で息をしていたが、やがて視線が合い……ふっとお互いに顔をほころばせた。
「……まあ、悪くなかったわよ。赤いの」
「うん! ノクターン・バイオレットのおかげだよ、ありがとう!」
少しずつ心を通わせた二人のヒロイン。
しかし、害食の軍団『ペスト』の影は、まださらに深いところで蠢いていた――。




