第30話:揺れる漆黒
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イージスを置いて酒場を出たファルカスは、自室に戻ると、音を立ててベッドの上に倒れこんだ。
そこから仰向けになると、舞い上がった埃に光があたってキラキラと光っているのが見える。
最近は、これを見たくてわざと音を立てるように倒れこんでいる。
絶対、変に思われた……。
潜入前に2人で練習したダンスのことを思い出してしまった。
アイツが自分の手を取り、背中に右手を回してきた。
「肩の力を抜け」
「抜いてるだろう!」
力が入っていることは自分でも分かっているが、どうにもならない。
アルとイージスのダンスはとてもきれいだった。
——あんな風には踊れない。
休憩中に、ウルスとアルにお互いのことを名前で呼ぶように言われた。
——絶対に無理だ。
アイツの真剣な眼差しが近い。
握られる手。背中に回される手。手に触られた所が熱を持つ。
離そうとしても、離してくれない腰。
緊張で自分の手が湿り気を持つ。
射貫くような眼差しに吸い込まれそうで、顔を近づけることができない。
自分の息が、早くて短い。
「昔、必要にかられてな。10年ぶりだけど、意外に踊れるもんだな」
そう言っていた……誰と踊ったんだろう。
「じゃあ今は、俺だけを見とけ」
頭を掴まれて、顔をくるっと回された。思ったより近くて、目が開く。
顔を離しているのに、首元から立ち上るアイツの匂いを吸い込んでしまった。
——ボスン。
寝返りをうち、うつ伏せで枕に顔を沈める。
ああ……そして、とうとう。
「絶対に触れない」と決めていた例の件についても思い出してしまった。
黙ってしまった俺に気づいて、向こうもまた黙ってしまった。
極めつけに、「仕事が残っていたから帰る」とか下手な言い訳をして帰ってきてしまった。
自分の吐息から甘い酒の匂いが溢れる。
アイツが来るまでにって、酒で勢いをつけておいたのに……。
枕を抱えこんでひっくり返ると、掛け時計の針が目に入る。
いつもの半分も眠れていない……ああ。でも、訊いてみたい。
あの時、どうやって俺を助けてくれたのか。
誰かと話す声が聞こえた気がしたんだ。
青い光がキラキラと光っていて、お前の髪の色がいつもより薄く見えた。
でも、目が覚めたらいつもの色だった。
確かめたくて、眠るお前の頭の上に手を置いてみた。
「俺が後悔する」ってなんだ。
ダンスの時は、あんなに触れてくれたのに。
触ってくれなかった。「触ってくれ」って言ったのに。
下腹に置かれた手が見える。
誠実さの表れなのか、俺には興味が無かったのか……。
分からない。
はあ……。部屋の温度が高い。寝苦しい気がする。
ベッドから上掛けを蹴り落とした。
そもそも、男に興味が無いかもしれないし……。
がばっと上体を起こす。
いや、俺だって別に男が好きなわけじゃないだろう。
ベッドの下に落ちた上掛けを見る。
馬鹿か、俺は……。
そもそも、正気じゃない奴の言う事なんか、真に受けて良い訳がない。
頭を軽く振る。
さすがに寝ないと……。
腕だけを伸ばし、ベッドの下から上掛けを摘まみ上げる。
はあ……。
横向きに寝ころがると、上掛けを肩まで引き上げた。
後から酒場に着くと、アイツは、いつも女に声をかけられている。
たまたま先に着いた時、同じ女が俺にも近づいて来た。
だから、その女に言ってしまった。
「俺にもアイツにも話しかけるな。お前に興味は無い」って。
自分でも……分かっている。
膝を抱えて丸くなる。
寝ないといけないのに、気になることが多すぎる……。
アイツに訊けば、答えを教えてくれるんだろうか……。
夜が長い。いや、眠れてないから、短いのか……。
ああ、クソッ。目を閉じていても分かる。窓から、朝日が差し込んできた。
仰向けになり、額に掌を乗せる。
眩しいな……。
朝が来てしまった。
自分の感情の嵐は、まだ暗い夜の中にあるっていうのに。




