↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/37

第30話:揺れる漆黒



 * * * 

 


 イージスを置いて酒場を出たファルカスは、自室に戻ると、音を立ててベッドの上に倒れこんだ。

 そこから仰向けになると、舞い上がった埃に光があたってキラキラと光っているのが見える。

 最近は、これを見たくてわざと音を立てるように倒れこんでいる。

 

 絶対、変に思われた……。

 潜入前に2人で練習したダンスのことを思い出してしまった。


 

 アイツが自分の手を取り、背中に右手を回してきた。

「肩の力を抜け」

「抜いてるだろう!」

 力が入っていることは自分でも分かっているが、どうにもならない。

 

 アルとイージスのダンスはとてもきれいだった。

 ——あんな風には踊れない。

 休憩中に、ウルスとアルにお互いのことを名前で呼ぶように言われた。

 ——絶対に無理だ。

 

 アイツの真剣な眼差しが近い。

 握られる手。背中に回される手。手に触られた所が熱を持つ。

 離そうとしても、離してくれない腰。


 緊張で自分の手が湿り気を持つ。

 射貫くような眼差しに吸い込まれそうで、顔を近づけることができない。

 自分の息が、早くて短い。


「昔、必要にかられてな。10年ぶりだけど、意外に踊れるもんだな」

 そう言っていた……誰と踊ったんだろう。


「じゃあ今は、俺だけを見とけ」

 頭を掴まれて、顔をくるっと回された。思ったより近くて、目が開く。

 顔を離しているのに、首元から立ち上るアイツの匂いを吸い込んでしまった。



 ——ボスン。

 寝返りをうち、うつ伏せで枕に顔を沈める。

 

 ああ……そして、とうとう。

 「絶対に触れない」と決めていた例の件についても思い出してしまった。

 黙ってしまった俺に気づいて、向こうもまた黙ってしまった。

 極めつけに、「仕事が残っていたから帰る」とか下手な言い訳をして帰ってきてしまった。

 自分の吐息から甘い酒の匂いが溢れる。

 アイツが来るまでにって、酒で勢いをつけておいたのに……。

 


 枕を抱えこんでひっくり返ると、掛け時計の針が目に入る。

 いつもの半分も眠れていない……ああ。でも、訊いてみたい。

 

 あの時、どうやって俺を助けてくれたのか。

 誰かと話す声が聞こえた気がしたんだ。

 青い光がキラキラと光っていて、お前の髪の色がいつもより薄く見えた。

 でも、目が覚めたらいつもの色だった。

 確かめたくて、眠るお前の頭の上に手を置いてみた。


 「俺が後悔する」ってなんだ。

 ダンスの時は、あんなに触れてくれたのに。

 触ってくれなかった。「触ってくれ」って言ったのに。

 下腹に置かれた手が見える。

 誠実さの表れなのか、俺には興味が無かったのか……。

 分からない。


 はあ……。部屋の温度が高い。寝苦しい気がする。

 ベッドから上掛けを蹴り落とした。

 そもそも、男に興味が無いかもしれないし……。


 がばっと上体を起こす。

 いや、俺だって別に男が好きなわけじゃないだろう。

 ベッドの下に落ちた上掛けを見る。

 馬鹿か、俺は……。

 そもそも、正気じゃない奴の言う事なんか、真に受けて良い訳がない。

 頭を軽く振る。

 さすがに寝ないと……。

 腕だけを伸ばし、ベッドの下から上掛けを摘まみ上げる。

 はあ……。

 横向きに寝ころがると、上掛けを肩まで引き上げた。


 後から酒場に着くと、アイツは、いつも女に声をかけられている。

 たまたま先に着いた時、同じ女が俺にも近づいて来た。

 だから、その女に言ってしまった。

「俺にもアイツにも話しかけるな。お前に興味は無い」って。

 自分でも……分かっている。


 膝を抱えて丸くなる。

 寝ないといけないのに、気になることが多すぎる……。

 アイツに訊けば、答えを教えてくれるんだろうか……。

 夜が長い。いや、眠れてないから、短いのか……。


 

 ああ、クソッ。目を閉じていても分かる。窓から、朝日が差し込んできた。

 仰向けになり、額に掌を乗せる。

 眩しいな……。

 

 朝が来てしまった。

 自分の感情の嵐は、まだ暗い夜の中にあるっていうのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。