第28話:黒の団
今回は、少しだけ黒の団のお話です。
* * *
イージスとレナが帰った後の団長執務室で、ファルカスは向かいに座るウルスを見ていた。
部下たちに捜査の指示を出し、静かに待ち人を待っている。
詰所内に課業終了の吹奏が流れると、遠くから聞こえる団員達のにぎやかな声。
外はまだ明るく、団旗を下すには早い。
ウルスは、腕を組んだまま、目を閉じ、顎を持ち上げたままソファに体を沈めている。
ウルスの隣に座るアルは、反対に体を丸め、目を伏せていた。
2人とも10年前に身を浸しているのだろう。
自分には、左遷直後のことは分からない。ただ、待つだけだ。
窓から入る夕陽に室内が染まる。そろそろ団旗を下す時間だ。
コンコンコンとノックされる音がして、こちらの返事を待たずに扉が開いた。
バンと音を立てながら、金髪の大柄な男が入ってくる。
男の後ろでは、アルの副官リッターが「ちょっと待って下さいよ」と抗議の声を上げていた。
男は右手でドアを押さえ、左手を膝に乗せながら、ハアハアと呼吸を荒くして立っていた。
「何なのもう……いきなり……」
金髪は頭を上げずに、上体を折り曲げたままだった。目を開けたウルスが扉の方に顔を上げる。
「お! ダリア。早かったな」
「いや……もう。だってアンタ」
髪をかき上げながら、上体を起こすと、整った顔が現れた。
「ギルは?」
「置いてきちゃったじゃないの!」
わざとのんびりさせたウルスの声にいら立った様子を見せる。
「まあ、まあ。座れよ」
「で、何なわけ?」
自分の隣に腰を下ろした金髪が、眉を顰めながらウルスをじっと見ていると、コンコンコンとノックの音が響いた。
「入れ」と言うウルスの声の後で扉が開く。
背の高い赤毛の男が、汗一つかかずに涼やかな顔をして立っていた。
「で、どうしました?」
ウルスは、赤毛の男が肩から下げた袋に目をとめていた。こちらからも少し黒い布が飛び出しているのが見える。
「二人とも、着替えて来いよ」
ウルスが、リッターに二人を案内するよう指示した。
コンコンコン。
「入ります」
リッターの声の後に入ってきた二人は、自分も見慣れた服を着て、初めて見る格好をしていた。
黒い団服に身を包んだ金髪と、横には同じ服を着て立つ赤毛。金髪の方は、後ろで髪を一つにまとめている。
「で、何だよ?」
金髪の発した言葉に目が大きく開いてしまった。金髪は、カツカツと靴を鳴らしながらソファに近づいてきた。
後ろには、スッと控える赤毛。
自分は腰を上げ、2人に席を譲った。金髪の隣に立つと、赤毛の隣に立つのは、リッター。
「その恰好なら、『リオン』で良いのか?」
目を細め口元を緩めるウルスに、金髪は口の端をゆっくりと上げた。
「ああ、良いぜ」
ウルスとリオンが、ふふんと笑った。
ウルスがゆっくりと口を開く。
「レナが、ドミヌスを例の屋敷で見たと言っている」
「レナが!?」
リオンとギルベルトの声がそろい、2人で顔を見合わせている。
ウルスがリッターに書類を持って来させ、どさっと、テーブルの上に置いた。
「これは?」
上目遣いに問うリオン。
「俺達じゃ持て余すもんでも、お前達なら活かせるだろ?」
書類の束をパラパラと捲るリオンが、フッと息を漏らした。
ウルスの両ひざに置かれた拳に目を落とすと、拳がぎゅっと縮んでいる。
「何年もかけて集めた政治的証拠だ。レナの証言とともに奴を査問会議にかける。狡猾な奴だ。10年前は無理だった——今なら『清廉なるドミヌス』を政治的に失脚させられる」
ウルスの力強い言葉に、リオンとギルベルト、アルとリッターが大きく頷いた。
10年……。この為に二人は出て行ったんだ。黒の団を置いて。
下を向きながら、唇を噛む。
「おい!」
突然、リオンがこちらを見上げた。二重の目を大きく見開き、唇の端を持ち上げている。
「もちろん、お前が嵌められた分もきっちりお返ししてやるぞ!」
「もちろん」
大きく頷き、顔を正面に上げる。アイツは絶対黒の団で片付ける。
リオンがギルベルトに書類を仕舞わせると、立ち上がった。去り際、リッターの方を振り返り、指をさす。
「そうだ、リッター。お前、アルを泣かしたら、殺すぞ」
形の良い唇を大きく開いて笑うリオン。
続いてギルベルトも、「そうそう、リッター。その時は2人分ですよ」と、目を細めていた。
「……いや、4人分でしょ?」とこっちを見ながら軽口を叩くリッターに、「4人分で済むかあ?」と腕を組むウルス。
アルを見ると、さっきと同じように体を丸め目を伏せていたが、今度は、フフッと息を漏らしていた。




