第24話:窮地
* * *
大広間でイージスと別れたファルカスは、周りをざっと見渡した。ほとんどが赤以外だったようで、残されたのは、10から15人といったところだった。
男か女かは関係なさそうだな。
突然ドンドンドーンと、太鼓のようなものが鳴らされ、目を向ける。
「おめでとうございます。選ばれた皆さんには、これから特別な催しが行われます」
扉の前へ移動した司会の説明とともに、「おお」とか「まあ」といった感嘆の声が上がった。
「皆様、上の方にご注目ください」
一斉に天井近くを見上げるが、いくつかの換気口くらいしか目に入らない。
ギギーッという音に目を向けると、大広間の扉が閉められていく。
「それでは、皆様お楽しみください」
司会は、扉の向こうへ消えた。
——しまった。
司会の不可解な動きに、注意を払うべきだった。気が付いた時には遅かった。天井の換気口から、薄く色づいた気体が出ている——薬か。
「何でもいいから、口と鼻を布で覆え。薬だ!」
急ぎ上着を脱ぎ、大声で指示する。
「窓際に寄れ! 早く!」
何人かは、頬を赤くしながら動けなくなっていく。薬に敏感なんだろう。
動けなくなった者を窓側へ動かし、自分の上着を頭からかぶせる。
体を大きく後ろに反らし、反動で肩から窓に体当たりする。
「くっ」
痛みに、声が漏れる。畜生、割れないか。何か無いか……何か。
大きな花瓶が載せられた金属製の花台が目に入る。
大きな花瓶をどかさないと、花台は動かない。くそっ。うまく息ができなくなってきた。
周りを確認すると、体を震わす者も出始めた。大きく息を吸い込んだ。
「だあー!」
気合とともに、両手で花瓶を床に落とすと、ガシャンッという音とともに、花瓶の水が流れ出た。
花台をひっくり返し、金属の脚を握りしめる。
自分の体ごと回し、勢いをつけ、窓に向けて放り投げる。
ガシャアアァン。大きな音をたてて窓が割れた。
「突入だー!」
肺から空気を絞り出して、ありったけの声で叫ぶ。
パーン、パーン、パーン。大きな音とともに、馬車の待機所の辺りから何本も光の矢が放たれる。光は青——突入の合図だ。
助かった。
屋敷の周りで待機しているアルには、騒ぎを口実に突入するように指示してある。団員は、浄化用の魔石を装備しているはずだ。
はあっと吐く息とともに、膝が崩れ落ちた。
手を床につけながら腰を下ろし、片膝を立てる。膝を抱え込んで体をぎゅっと丸め込む。
そうしておかないと、何かがこみ上げてきそうだった。
体の中から熱い。特に……気持ち悪い。
左手が勝手に下腹に近づいた。
バリン、バリンと窓が割れる音が続き、ダンっという音で床が揺れると、足音に変わる。——来たか。
顔を上げようとしたが、上がらなかった。自分の意思とは反対に、勝手に体が揺れていく。目から勝手に涙も流れ出して、目を開けていられない。
こっちに近づいてきた足音が、止まったような気がした。
「ファ……ス!」
床に倒れこむ寸前で、背中に何かが当たる。大きな口を開いて、何かを必死に叫んでいる。
「……イージス……?」




