第17話:眩しすぎる憧れ
ひとしきり騒ぎが落ち着くと、ファルカスから一緒に団長執務室へ来るよう頼まれる。
ソファに座るよう示され、ファルカスの隣に腰を下ろした。向かいに座るのは、ウルスとアル。
ウルスが、黙ったままファルカスに顎をしゃくると、ファルカスが漆黒の髪を掻き上げた。
「処分は、一定期間、俺の指揮権停止と黒の団単独判断による作戦立案の禁止。行政府の監督下でのみ任務可能。まあ、こんなところか」
ファルカスは、一本ずつ指を折るところを見せる。全部で3本の指を折った。
「あと、何かあれば、俺は即時解任。下手したら黒の団は解散らしい」
続けたファルカスの言葉に、アルがひゅっと息を吸い込んだ。
ウルスは、腕を組んで唸っている。
「何が何でも違法魔法薬の捜査をさせないつもりだな」
「一定って、どの位の期間でしょうか?」
ウルスとファルカスを見上げるアルの声が、いつもより細い。
「さあなあ。1か月か、はたまた無期限か……」
ファルカスは、窓に目をやると、どこか遠くを見ていた。
ファルカスの報告が整理され、掲揚台の前に全員を集める。
掲揚台の上では、黒い布に金糸で縁取られただけの団旗が翻っていた。
「処分は一定期間とのことだ。1つ、俺の指揮権停止。2つ、俺たち単独の作戦立案の禁止。3つ、行政府の監督下でのみ任務を行う。これを破れば、俺たちは解散だ」
ファルカスの淡々とした説明に、団員たちがどよめく。即時解任の話は、しなかった。
「どこに正義があるっていうんですか?」
「行政府に従う意味があるんですか?」
思った通り。団員たちはファルカスに詰め寄りそうな勢いだった。
「やかましい」
ウルスにしては、大きくない声だったが、団員たちは一斉に団長の方を向いた。
「市民を護ることを考えろ! 分かったら戻れ!」
さらにウルスが、大きく太い声を響き渡らせると、団員たちは持ち場へ戻って行った。
今や、黒の団は下手に動けない。自分の捜査協力も一時中止だ。
さっきまで団旗をはためかせていた風は、もう止んでしまっていた。
団員達が解散すると、ファルカスと自分だけが残っていた。
「いろいろ手伝ってもらったのに悪かったな」
申し訳なさそうな顔で見てくるので、首を左右に振ってみせる。
「だけど、お前は、これで良いのか?」
ファルカスは団員たちが立っていた場所をぐるりと見渡した。今はもう、誰も残ってはいない。
「——俺はあいつらを護りたいだけだ」
両手を握りこんだファルカスが、顎を上げている。その視線の先には、垂れ下がってしまった団旗。
思わず目を眇めてしまう。太陽に照らされたコイツの横顔は、自分には眩しすぎる。
「10年前、黒の団が辺境に回されたのも、行政府による圧力のせいだ。同じ轍は踏めない。」
漆黒の髪が揺れると、切れ長の目がこっちを向いた。
「そのおかげで俺は、拾ってもらえたんだが」
珍しく片頬を持ち上げ、自嘲気味に笑っている。
「何かあっても俺一人なら、何とか理由がつけられる。だが、解散になれば……」
微かに震えるファルカスの唇が、その先を紡ぎだすことを止めていた。
かける言葉を探すも、見つからず、ただ隣の男を見続ける。
ふいに、すうっと風が吹き、自分の頬を撫でた。
見上げると、団旗が緩くなびき始めている。
——風が吹き始めた。
「解散しても、お前がいて、団長がいて、アルがいて。皆がいたら……そしたらそれは、黒の団なんじゃないか?」
隣に視線を戻すと、細くなった切れ長の目が、静かに凪いでいた。
皆がいれば、か……。
なびく団旗の下で、揺れる漆黒の髪。
何かを忘れかけているような気がするが、それが何かは思い出せなかった。




