52話
翌日。
私は部屋で1人、宿題をするフリをして考えていた。
このままじゃダメだ。
オーディションの募集締切は2日後。
累くんが応募しなければ、
LU:CENTは生まれない。
……いや。
正確には、生まれたとしても、
私の知っている未来とは違うものになる。
私は意を決して、リビングへ向かった。
そこには、ソファでスマホをいじってくつろいでいる累くんの姿があった。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「……オーディション、やりたくないの?」
その言葉に、スマホを操作していた指がピタリと止まった。
「めごたんには、関係ないよ」
そう伝える累くんは、こちらを見ることはなかった。
「ある」
「ないよ」
「あるもん!!!」
つい声が大きくなってしまった。
累くんが、驚いた顔をして、やっとこちらを見る。
「めごたん、なんでそんな顔するの」
「だって……」
「めごたんは、本当に心配性だね。ほら、隣おいで」
泣きそうな私を心配してか、優しい顔をした累くんは、自分の隣をポンポンと叩いて呼んだ。
そっと、隣へ座る。
しばらく、黙ってなにかを考えた累くんは、そっと口を開いた。
「……やりたくない訳じゃないよ」
「じゃあ、なんで?」
「向いてるか分からない」
……は?
私は、一瞬フリーズした。
向いてるに決まってるじゃん!!
これから国民的アイドルのセンターになる人が何言ってるの!?
私の頭の中はツッコミでいっぱいだ。
累くんは、そんな私の心中も知らず、続ける。
「俺、子役だからさ、歌もダンスも、事務所にはもっと上手い人がいる。子役上がりがアイドルやるなって言う人もいるしね」
「……」
そっか。
LU:CENTのRUIは、周りの言う事なんて気にしない、自分の信じたことを一生懸命にする。
それが、累くんなんだと思っていた。
けど、違かったんだ。
私はなにも知らなかった。
妹なのに。
本当は、彼にもコンプレックスがあったんだ。
「……お兄ちゃんは」
「ん?」
「やりたいの?」
気がついたら、その言葉が自然と出ていた。
「やりたいなら、やった方がいいと思う」
「でも……」
「お兄ちゃんが、やらないで後悔するの、めごは嫌だもん」
「……めごたん」
累くんは、そっと、私の頭を撫でた。
「ありがとう、めごたん」
━━━━
その日の夜。
愛姫が寝た後、一人で応募用紙を見る累。
ペンを持ち、応募用紙に名前を書く。
ふと、ペン先が止まる。
脳裏に浮かんだのは、妹の言葉だった。
『やりたいなら、やった方がいいと思う』
累は小さく笑う。
「……敵わないな」
そして、ペンを走らせた。
「ありがとう、めごたん」




