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49話

夏休み旅行の夜は、累くんと2人きりの時間。

さすがに、マネージャーさん親子とは部屋が別になっている。

私は、夕食の高級ビュッフェを食べ終えて、ベッドの上で余韻に浸っていた。

ふと視線を向けると、累くんはテーブルの書類と睨めっこをしていた。

びっしり書き込まれた、何かの台本とスケジュール。


「……お兄ちゃん?」

「うん?」


累くんは、書類から目を離さないまま返事をした。


「……お仕事?」

「うん。次のやつ」

「……難しいの?」

「そうだね……でも、逃げたくないんだ」


累くんのペンを握る指に、力がこもる。

そのあと、書類から目を離した累くんは、私の顔を見た。


「……めごたん」

「なに?」

「……次は、ちょっと忙しくなるかも」


もしかして……。

私の転生前の記憶が呼び起こされる。

私の記憶が正しければ、そろそろ“あれ”の時期だ。

その“あれ”は、累くんにとって人生を変えるきっかけになる出来事。


「じゃあ……いまは、頑張る時間だね」


私のその言葉に、累くんは少しだけ驚いた顔をして、ふっと微笑った。


「ちゃんと、お兄ちゃんのこと、見ててよ」

「うん」


約束みたいに、短く返す。

すると、ベランダの向こうが突然色づき始めた。


——ドンッ。


低い音と同時に、夜空に大きな花が咲く。

赤、青、金色。

ホテルの上層階から見る花火は、少しだけ近く感じた。


「……花火だ!」


思わず、声が漏れる。

私はベランダへ出て、柵に手をかけ、花火を見上げた。


「めごたん!危ない!」


大慌てで、累くんもベランダに出ると、私を後ろから抱きしめる。

急な体温に、びっくりしてしまう。

心臓に悪い。

でも、今のは私が悪い。

こんな高層階で、小学生の子供が身を乗り出すなんて、大人は怖いに決まっている。


「……ごめんなさい」

「ううん。花火、見たかったんだよね」


累くんは、そのまま私を抱き上げた。


「お兄ちゃん、ありがとう」


その瞬間、今夜一番大きな花火が、夜空いっぱいに広がった。

光はすぐに消えてしまうけれど、

きっと、この夏の記憶は、消えない。


「オーディション頑張ってね」


そう、“あれ”とは、LU:CENT結成のきっかけとなる大きなオーディション。

累くんは、私の言葉に目を丸くした。


「え?お兄ちゃん、オーディションって言ったっけ?」

「……マネージャーさんから聞いた」


私は、ニコッと笑う。

こういう時、マネージャーさんを使うのは役に立つ。


「そっか」


累くんは、私の頭を優しく撫でる。

大きな打ち上げ花火が、2人を照らすように上がり続けた。

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