46話
夏休みが、始まった。
朝から蝉の声がうるさくて、カーテンの隙間から差し込む光が、やけに眩しい。
「……夏休みかぁ」
カレンダーを見上げて、私は小さく呟いた。
赤い丸が、ひとつだけ付いている。
去年のこの日を私は覚えている。
『めごたん……来年はさ。今年の分も、夏休みしよ』
そう言ってくれた累くんの顔を声を……私は忘れるわけがない。
夏休みが何もなく終わってしまう私を気にかけて、一緒にコンビニでアイスを食べて、約束げんまんをした日。
私は、その約束をちゃんと覚えてる。
でも……
ふと、回りを見渡す。
リビングは静かだった。
朝ごはんの匂いもしないし、テレビもついていない。
今日も、累くんはいない。
分かってる。
夏休みだからって、仕事が休みになるわけじゃない。
むしろ、累くんにとっては、一番忙しい季節だ。
私はカレンダーの赤い丸を、指でなぞった。
「……楽しい夏休み、だよね」
誰に言うでもなく、もう一度だけ、そう呟く。
その約束が、ちゃんと守られるかどうかなんて、まだ分からない。
けれど、少なくとも私は今年の夏を、お兄ちゃんの約束を、少しだけ信じてみようと思った。
ーその時。
私のスマホの通知が鳴った。
〈明日から、予定空けててね〉
突然の累くんからのメッセージだった。
「……明日から?」
急な申し出に、私は一瞬だけ驚いた。
本当に怖いくらい、妹の気持ちが分かるんだね……。
胸の奥が少しだけ、暖かくなる。
そして、私はそのメッセージに、
〈りょうかい!〉
と書かれた、かわいいクマちゃんのスタンプを送った。




