36話
冬の夜は、やけに静かだ。
エアコンの音と、テレビの音だけが、リビングに流れている。
ソファに座った私は、毛布に包まりながら、ぼんやりとテレビの画面を眺めていた。
累くんは隣ではなく、少し離れた位置でスマホを手にしたまま、ほとんどテレビを見ていない。
「……今日、あの日だよね」
夏に撮影していたドラマが、今夜から放送される。
今日の回は、私が歩くんにそそのかされて、エキストラで映った回。
何気なく言ったつもりだった。
けれど、累くんの指がぴたりと止まる。
「……そうだね」
短い返事。
ドラマが始まり主役2人の顔が映ると同時に、累くんのスマホが小さく震えた。
累くんは、スマホを伏せる。
画面を見ないふりをしているのが、逆に伝わってくる。
きっと通知の正体は、SNSだ。
「……」
私は、累くんのスマホをチラッと確認し、再びテレビに集中した。
テレビ画面では、ちょうど私が映るシーンに差しかかっていた。
子どもたちが歩く……そして、ほんの一瞬だけ映る私。
「あ!」
反射的に声が出た。
直後に、累くんのスマホが震える。
今度は、隠すこともなくスマホの画面を見つめはじめる。
「……やっぱ、現場に連れてくべきじゃなかった」
「え?」
低く、ひとり言に近い声。
私が顔を上げると、累くんは視線を逸らした。
「変なこと、言われてる」
私はスマホを覗こうとしたが、累くんはさっと画面を伏せる。
「……ガキが映ってたとか。エキストラの子、可愛いとか……そういうの」
吐き捨てるような口調。
(……怒ってる)
ドラマが一旦、CMに入った。
途端に、累くんはスマホをテーブルに置き、同時にリモコンでテレビを消してしまった。
「あー、なんで消すの!」
「……もう見なくていい」
乱暴だけど、どこか優しい言い方。
「えー。せっかく録画もしてるのに」
そう言って、私はリモコンを奪い、録画画面を操作する。
「お兄ちゃん、制服似合うね」
私が録画画面で止めたのは、私の映る場面……ではなく、累くんの顔がはっきり映るところ。
私の言葉に、累くんがぴたりと動きを止めたのが分かった。
「……は?」
「なんかさ。テレビの中だと、遠い人みたいなのに。今ここにいるの、不思議だね」
累くんは、小さく息を吐いた。
「……そういうの、言うな」
声は相変わらず低かったが、さっきまでの棘は、もうなかった。
「なんで?」
「……調子、狂うから」
累くんは私の頭に手を伸ばして、いつものように軽く撫でた。
その口元はほんの少し、緩んでいた。
「めごたんは、テレビに映らなくていい」
「なんで?」
その質問をした瞬間、累くんは、私の顔にぐっと近づく。
顔が……近い。
その目はまっすぐ私を見つめていた。
「俺だけ独り占めしたい。俺のそばにいろ」
……反則だ。
ファンとしては、致命傷。
私は、今にも鼻血が出そうになっていた。




