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35話

「カット!!! はい!OK!」


頭の中が真っ白の私の耳に、監督の声が響いた。

……終わった?

私の出番、終わった?

よく分からないまま、私のシーンは無事撮り終わったらしい。


もう、帰ろう。

一刻も早く。

そう思って更衣室へ向かおうとした、その時だった。


「愛姫っ!!!」


聞き覚えのある声。

振り返ると、そこには、焦った様子の累くんが立っていた。


「大丈夫!?転んでない!?暑くない!?水飲んだ!?」


矢継ぎ早に飛んでくる質問。

全部が同時に聞こえた気がする。

現場が、ぴたりと静まり返った。


「あ、いや……その……」

「……あ」


言葉に詰まる私を見て、累くんも我に返ったらしい。

累くんは、大きく深呼吸をすると、こちらを見ているスタッフさん達に向け、ひと言。


「……親戚の子です」


とっさに、嘘をついたけど、空気が明らかに怪しくなる。


「あれ? さっき、歩くんの親戚って……」

「いやだなぁ。“累くん”の親戚の子ですよー」


現場の隅にいた歩くんが、爽やかに笑う。


「俺、自分の親戚の子とは言ってないですし」


ずるい。

完全に、ずるい。


「おい、歩。ちょっと来い」


累くんが歩くんの手を掴み、歩き出す。

あ、これ。

累くん、めちゃくちゃ怒ってる。

これは……終わった。



━━━━



駐車場の隅まで移動した3人。

周りに誰もいないことを確認した累くんが、歩くんに詰め寄った。


「おい、歩」

「ごめんって……」

「めごたんを、現場に連れ出すな」

「え、でも親戚の子でしょ?」

「……」


その沈黙が、すべてを物語っていた。

私は2人の間で、ただ縮こまるしかない。


「お兄ちゃん、ごめんなさい……私がついて行っちゃったの」

「めごたんは悪くない。悪いのは歩」

「だから、ごめんって」

「歩、もう帰れ。……明日連絡する」


歩くんは肩をすくめると、私の前にしゃがみ込む。


「でもさ、愛姫ちゃん」

「うん?」

「堂々としてて、よかったよ」

「……ありがとう」

「将来、有望だなぁ」


歩くんの悪意のない言葉に、累くんのこめかみが、ぴくっと動いた。


「……向いてなくていい」

「過保護だねー」

「黙れ」



翌日。

累くんは、歩くんに私の存在をちゃんと話したらしい。

案の定、歩くんは私が実の妹だと、とっくに勘づいていた。

今後のお互いのため、誰にも言わない。

そう約束はしてくれたみたいだけど……

私は、少しだけ心配だった。

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