29話
また時は巡り、私は小学2年生になっていた。
学校生活は順調で、2年生になってもクラス替えはなかったから、席も友だちも変わらなかった。
教室の窓から見える景色も、チャイムの音も、1年生の頃と同じ。
一方、我が家では、少し違うことがあった。
「行ってきます」
玄関で靴を履きながら言うと、後ろから聞き慣れた声がする。
「行ってらっしゃい、めごたん。帽子忘れてる」
振り返ると、累くんがしゃがんで、黄色い帽子を差し出していた。
ネクタイはきちんと締まってるけど、どこか眠そうな顔。
私が前世の記憶を得てから2年……。
15歳だった累くんは17歳になり、たった2年で一気に大人の顔に成長している。
行動は2年前から変わらず、妹LOVEだけど……。
「ありがとう」
帽子を受け取ると、いつものように私は頭を撫でられる。
「今日は夜遅くなりそうだから」
「……うん」
最近、こういう日が増えた。
累くんの、アイドルとしての歩みは確実に進んでいる証拠ではある。
それは良い事、なんだろうけど……。
少し、パパに似てきたな。
累くんは私のランドセルを一瞬だけ持ち上げる。
「重くない?」
「だいじょうぶ」
「ほんとに?」
「ほんと」
確認が多いのは、いつものこと。
だけど最近は、その確認が“早送り”みたいに感じて寂しくなってきた。
「じゃあ、行ってきます」
私は、累くんに気持ちを悟られないよう、いつもの笑顔で家を出た。
━━━━
学校に着くと、仲良しの優くんがもう教室にいた。
「愛姫ちゃん、おはよー」
「おはよう、優くん」
2年生になって、優くんは少しだけ背が伸びた。
前歯が抜けて、しゃべると少し息が抜ける音がするのが少しかわいい。
私は、ふと窓の外を見る。
高等部の建物の方角。
見えるわけないのに、つい兄の姿を探してしまう。
1年生の頃は、同じ敷地にいるっていう安心感があった。
でも最近は、違う。
(今は居るのかな?)
(もう、お仕事行っちゃったかな?)
なんて、考える時間が増えた。
「愛姫ちゃん?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「愛姫ちゃんのお兄ちゃん、忙しいみたいだね。僕のお父さんも忙しそうだもん」
「……うん」
「少し寂しいよね」
累くんが忙しくなれば、自動的にマネージャーさんも忙しくなる。
だから、マネージャーさんの息子である優くんにも影響が出ているんだろう。
父に似てしっかり者の優くんの口から“寂しい”が出るなんて。
「……うん」
子どもならではの悩み。
私たちは少し分かり合えた気がした。




