25話
ある日曜日の午後。
累くんは、朝からマネージャーさんを呼び出していた。
かなり深刻な様子で電話をしたようで、大急ぎでやってきたマネージャーさんだったが、呼び出された理由を知り、累くんを正座させていた。
「……で?あまりにも深刻そうだったから、急いで来てみれば??スマホが死にかけていると???」
「……はい」
累くんは、スマホを差し出した。
「容量……見てください」
「……」
マネージャーさんは画面を見て、固まった。
「……お前、これ……」
「はい」
「写真、4万以上あるんだけど」
「はい」
「動画、3000本超えてるけど」
「はい」
「……何撮ってんだよ」
「めごたんです」
真顔で即答する累くん。
「朝起きた時、歯磨きしてる時、ご飯食べてる時、テレビ見てる時、寝てる時、寝返り打った時、寝息が変わった時……」
「待て待て待て」
マネージャーさんが止める。
「後半、完全にホラーだぞ」
「成長の記録です」
「……監視では?」
「違います。俺はただ、お兄ちゃんとして、いつでも見られるようにしてるだけ」
「それを世間では監視って言うんだ」
マネージャーさんは頭を抱えた。
「容量課金、上げててこれなのか」
「足りませんでした」
「今すぐ、消せ」
累くんは、しょんぼりしながら続ける。
「……消さないと……ダメですか」
「当たり前だ」
「……全部ですか」
「当たり前だ!!!」
数秒の沈黙。
累くんは、私の方を見た。
「……めごたん」
「なあに?」
「写真、消してもいい?」
「うん、いいよ」
私のあっさりした返事に、余計しょんぼりする累くん。
「……じゃあ、バックアップ取ってから消す」
「意味ねえ!!!!!」
マネージャーさんのツッコミが炸裂した。
「あ、でも……もし消えて、見られなくなったら、困るから、もう1ヶ所バックアップ先を……」
ぼそぼそと、恐ろしい一人言が聞こえる。
お願いだから、その空気で言うのやめてほしい。
テレビを見ながら、話を聞いていた私は、累くんの隣へ駆け寄り、スマホを覗き込む。
「え……」
累くんのスマホの画面いっぱいに映るのは……
寝癖だらけの私。
口を開けて寝ている私。
よだれの跡までしっかり写っている私。
全部、私。
「お兄ちゃん……これ、消そう?」
「それはダメ」
「なんで!?」
「めごたんの寝顔は、世界遺産だから」
そんなアイドルヲタクが言うセリフを……
マネージャーさんは、今日一番大きなため息をついた。
「……なあ、愛姫ちゃん」
「なあに?」
「大きくなったら……強く生きろよ」
私は、うなずいた。
この家で生き抜くには、確かにそれが必要そうだった。




