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シェリ、精一杯がんばるよ

シドフォスの腕の断面がぼこぼこと膨張していき、直ぐにそこに新たな腕を形成した。


「ッチ…テメェよくも!」


シドフォスの振り上げられた拳は、小さな手で押さえられた。


「なあ大将。もうやめろって。流石にみっともねえぞ?」


ジュディがゆっくりと首を振りながら、シドフォスを諭していた。


「…チィ!」


シドフォスはジュディの手を振り払うと、つまらなそうにそっぽを向く。


「うう…ケッホケホ…ラーナちゃん…シェリの首どうなってる…?」


「うわー…がっつり焦げの手形が付いちゃってるね。痛々しい…」


シェリィはラーナスタンドにもたれかかりながら、辛うじて立っている状態である。

声も上げる事も無く、ただ包帯の下から涙を零すシェリィを見たラーナは、胸が締められる心地を感じた。


「それで、バルフェア殿。これはどう言った了見か説明して頂けると幸いなのですが。」


今度はデュルーフェスがシェリィの前までやって来る。


「ううん。シェリはご主人様じゃ…」


「わたしは、バルフェアに聞いているのです。そこに居るのでしょう?」


デュルーフェスの視線は、シェリィの少し背後に向けられている。

しかしながら、そこには何も無い。


「ねえ、ラーナちゃん。」


「ううん。やっぱりどこにも見当たらな…」


次の瞬間、ラーナは一瞬顔を硬ばらせる。

シェリィの背後に、バルフェアが佇んでいたのだ。


「…居る。」


「え?」


確かにシェリィの背後には、ついさっきまで何も居なかった。

しかし突如出現したバルフェアを見つけたラーナは何故だか、最初からそこに居た者、と認識しまった。

ラーナにはそれがとても不思議で、不気味だった。


「久しいな。デュルーフェスにジュディ、そしてシドフォス。ご機嫌よう。」


バルフェアは直進するが、シェリィと触れる場所だけ黒い霧の様になって透過した。


「ご機嫌よう。じゃねえよテメエ!」


バルフェアの姿を見た瞬間にシドフォスがズカズカと接近し、バルフェアの胸ぐらに掴みかかろうとする。

しかし今度は、デュルーフェスに手首を掴まれた事でその手は止められた。


「大将。どうか落ち着いて下さい。事を解決する方法は、何も暴力だけではございません。それに今回は、何をどう考えても勝算はありません。」


「…ッチィ!」


シドフォスはデュルーフェスの手を払うと、そのまま腕を組んだ。


「茶番は終わりか?」


バルフェアは冷たく言い放つ。


「これはこれはご機嫌様。バルフェア殿。どこも変わり無い様で何よりですとも。」


「お前もな。デュルーフェスよ。監獄での待機、ご苦労だった。」


バルフェアは懐から、液体に浸された2つの眼球が入った小瓶を取り出す。


「早速で悪いが、牢獄に俺自身で無くシェリィを生かせた事に関しては、一つ謝罪をさせて欲しい。こちらも今、色々立て込んでいてね。」


バルフェアは片手で器用に瓶の蓋を開きながらしゃがみこみ、シェリィの眼腔を覆う包帯を取る。


「お前達は確かに、投資と信頼に値する仲間だ。だが今の俺にとっては、こいつも同じだ。」


バルフェアはスーツの内ポケットに右手を突っ込み、仕込んでいたビニール手袋をはめた状態で引き出す。


「こいつを買ってから、俺は知ったんだ。人は脆い。少しでも扱いを間違えれば、直ぐに傷付き、死んでしまう。」


バルフェアは若干粘性のある液体から眼球をつまみ出し、シェリィの眼腔にはめ込んでいく。

新たな眼球のサイズは、元の物とピコ単位で一致していた。


「人間は俺達の事が憎いんじゃ無い。ただ、恐れているだけなのだ。」


施術を終えたバルフェアは立ち上がり、デュルーフェス達の方を向く。


「計画を一部変更する。人間は根絶やしにはしない。この儚くか弱い種族は、我等魔族の管理下に置く。個体数を管理し、保護区を設けて観察し、勿論叛骨の意思は摘んでいく。」


「はぁ!?テメェ正気か!?」


シドフォスは怒鳴る。


「シドフォスよ。復讐を成就させる手段は、何も暴力だけでは無い。人と言う種そのものを完全に我らが掌握下に置き、長い時間をかけ、何世代もかけ、人類に自らが劣等種と言う認識を植え付ける。それこそが、我等が受けてきた痛みに対する、最大限の報復と言う物だ。そう思わないか?」


バルフェアのそんな解説に最初に反応したのは、デュルーフェスだった。


「実に興味深い構想ですな。詳しくお聞かせ願いたい所です。」


「良かろう。ジュディも呼べ。詳しくはあちらで話そう。」


バルフェアはそう言うと、デュルーフェスとシドフォスを連れて、他の脱獄犯達の方へと向かっていった。


「ねえシェリィ…大丈夫?」


ラーナは不安げにシェリィを呼ぶ。

バルフェアに瞳が与えられてからと言う物、シェリィは夥しい量の涙を流しながら、ずっと両目を抑えていた。


「なんだか、目の奥が凄くチクチクするの。でも、きっと大丈夫。」


シェリィは先程までのバルフェアの話を、全て聞いていた。

故にシェリィは、バルフェアに対してとある信頼を抱いた。


「ご主人様はきっと、シェリの事を愛してくれてるから。」


悪魔と付き合い続けたシェリィもまた、気付きを得ていた。

魔族と人間には根本的な所で思想や生態の違いがり、バルフェアは決して、邪悪では無いと言う事を。


「ご主人様の愛は、ちょっぴり痛いけどね。」


シェリィは久方ぶりに目を開ける。

視界は水の中で目を開けた時の様にぼやけていたが、大まかな地形や光の明滅の判別は付ける事ができた。


「ねえラーナちゃん。シェリの目、どうなってる?」


「凄く綺麗だよ。海の底みたいな夜空みたいな深い青色と、魔人みたいでかっこいい、黒い白目に赤い瞳の目。」


「へえ。シェリも早く見たいな。」


時が経つ毎に眼底の痛みはひけていき、次第に視界がはっきりとしてくる。

新たな目を得たシェリィが最初に見た物は、こちらに向かってくる自身の主人の姿だった。


「目の調子はどうだ。シェリィ。たまたま病院に余ってた在庫を適当に持ってきたのだが。」


「ありがとう。ご主人様。シェリ、良く見えるよ。」


「そうか。それは良かった。」


バルフェアは屈み、チューブに触れないようにシェリィをそっと抱き寄せる。


「え…?」


母親以外の体温を感じるのは、シェリィには初めての経験だった。

バルフェアの身体は毛で覆われており、山羊に近い身体なので人間よりも体温は高かった。


(ふわぁ…凄く…ぽかぽかする…)


バルフェアは、シェリィの耳元に近付く。


「シェリィ。」


バルフェアが囁く。


「何ですか?」


「もし死ねと言ったら、お前は死んでくれるか。」


「…はい。勿論です。だってシェリは、ご主人さまの奴隷だから。」


「では俺を殺せと言ったら?」


「………」


シェリィは少し考える。

どう表現するかを迷っていたのだ。


「…精一杯、頑張る。」


自分がそんな勇気を持てるのか、覚悟を持てるのか、実行できるだけの力があるのか、シェリィには分からなかった。

しかし少なくとも、どんな命令にでも準ずる意思はあった。


「そうか。」


バルフェアは立ち上がり、シェリィの頭を一度ぽんと撫でる。


「ではその時が来たら、頼むよ。」

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