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シェリ、悪い子じゃないよ

かつてミリアの住居だった洞窟の中。

シェリィはミリアの副葬品を探す為、ミリアの私物を漁っていた。


「ぐすっ…」


シェリィはまだほんの少し泣いている。

定期的に響く鼻をすする音だけが、主人亡き洞窟に虚しく反響する。

もう、床を埋め尽くすガラクタ達が独りでに動き出す事は無い。


「物がいっぱい…ほとんど魔道具だ。」


シェリィはガラクタを掻き分けながら、ミリアの思い出が詰まっていそうな物を探す。


「あそこの壁にあるのは…ハンモックかな。」


シェリィはミリアのかつての寝床らしき物を見つけ、そこに進み続ける。

洞窟の中は広い上、床面積のほぼ全てを物品で占められている為、前進は困難を極めた。


(大事な物はきっと、寝る場所の近くに置くよね。少なくともシェリはそうだもん。)


シェリィは床のガラクタを足で掻き分けながら、ミリアの寝床を目指す。

その途中シェリィは、不意に奇妙な視線を感じた。


「ひぅ!?」


そこには、姿見以外は何も無かった。

視線も、鏡に映った自分の物だった。


「なんだ…ただの鏡か…ん?」


そこでシェリィは、久方振りに自身の姿を見る。

胸と腰には包帯が巻き付けられている。

首輪は相変わらず付けられている。


「ふぇ…」


それで、シェリィが今身につけている物は全部だった。


「ふえぇぇ…は…恥ずかしい…」


その事に気付いたシェリィの心は、一瞬で悲哀から羞恥心に塗り変わる。

シェリィは両手で胴体を抱えながら、その場にしゃがみこんでしまった。


(どうりで寒いと思ったよ…うう…)


シェリィを唯一守る包帯も、戦いによる汚れや痛みによって限界を迎えようとしている。

シェリィは予定を変更し、衣類の物色を開始した。

幸いにも、シェリィとミリアはほぼ同じ背丈であった。


「うーん…うーん…ん?」


ガラクタを掻き分けた先に、シェリィは小さな箱を見つけた。

それは黒く平べったく長方形をしており、金色のリボンでラッピングもしてあった。


「?」


シェリィは箱を持ち上げ、裏返してみる。

箱の裏には白い紙が貼り付けられており、そこには“適合武装”と書いてあった。

紙の右端には値段の書かれたシールが何重にも貼り付けられており、上に行く程安い値段が表記されていた。

最初は金貨4000枚だった物を、最終的にミリアは鉄貨一枚で買った様である。

しかしその箱には、開けられた形跡は無い。


「………」


シェリィは箱を巻いていたリボンを払い、中を開けてみる。

箱の裏には捻じ曲がった文体で、“made in ziddo”と書かれていた。


「?」


中には、深い紺色をした布が折り畳まれて入っている。

布はビロードの様な艶があり、厚みもあった。


「なんだろう…」


シェリィは布を持ち上げてみる。

広い面積とは裏腹に、布はとても軽かった。

シェリィはそれを、徐に頭から被ってみる。


「あったかい…これで一先ず…」

『生体情報の読み込みを完了しました。スキル【ブラックフラックス・メタモルモデル】【スーパーアブゾーブ】を確認しました。これよりデザインの最適化を実行します。』

「ふぇ?」


布が独りでに動き出し始める。

ハサミも無しに裁断され、糸も無しに縫い合わされ、ヴェールの様に薄くなる場所や、圧縮され金属の様な物に変わる所もあった。

次第に一枚の布だった物は幾つかの部位に分かれていき、シェリィに装着されていった。


「す…凄い!魔法で服ができるなんて、絵本のお姫様みたい!」


シェリィは垣間見た奇跡に興奮しながら、再び姿見を見る。


「………え?」


最初シェリィは、胸に一本の黒いリボンが巻かれているのかと思った。

しかしそれには背中の部分に金具があり、肩甲骨の部分に引っかかる事でその変わった形の胸当てをそこに固定していた。

シェリィはパンツも履いていたが、それは公序良俗に間一髪で反しない程度に、それでいてシェリィが多大なる不安を感じるのに十分な程度で小さい上。


「や…や…あ…あ…え…あ…」


羞恥心がオーバーフローしたシェリィは、次の瞬間には顔から煙を出して気絶する。


「こんなの海にも着てけないよ…」

“ガシャン!”


不意に、洞窟の壁際に溜まっていたガラクタが崩れる。

シェリィは直ぐに目を覚まして立ち上がる。

シェリィ足元には、先程まで身に付けていた包帯がズタズタの状態で散乱していた。


“ホホホ…ホホホホホォォォォォォ!”


不気味な笑い声をあげながら、ガラクタの下から大きな藁人形が起き上がってくる。

身長は4m程で、顔も何も無く、ただの束ねられた藁が動いている様な状態だった。


「こんばんわ。ミリア様のお友達ですか?」


常人ならば叫んで逃げ出す様な状況だったが、シェリィは特段驚きもしなかった。


"ホホホ…ホホホホホホホホォォォォォォ!”


藁人形が両腕を上げると、洞窟内を満たしていたありとあらゆるガラクタが一斉に浮かび上がる。

この藁人形こそミリアによって作られた、洞窟を管理するシステムそのものだった。


“ホオオオオオオオオオ!”


シェリィを外敵と認識したシステムは、浮遊させたガラクタ達を次々とシェリィに向けて飛ばす。


「な…なんで!シェリ悪い子じゃ無いよ!」


大きな物や鋭利な物や重い物が当たるたび、シェリィはスタミナがごっそりと減る感覚に襲われる。


「ゴフッ…やめて…お願い…」


大きなタンスがシェリィのお腹に当たった時、シェリィの【スーパーアブゾーブ】は早くも切れる。


“ホホホホホォォォォォォ!”


大小様々な10本のナイフがシェリィに襲い掛かる。

シェリィは横に転がる事で最初の2本は回避できたが、追尾してきた残りのナイフがシェリィを切り裂く。


「痛い…痛いよ!やめてったら!」


シェリィの肩や背中に、赤く細い傷が幾つも入る。


「なんでいっつも戦わなきゃいけないの!」


円形のフラックスのプールがシェリィの背後に現れ、プールからは厳しい鎧を身に纏ったフラックスの騎士がせり出してくる。

騎士は両手に持っている二本の剣を合わせ一つの大剣の様な状態にすると、それでシェリィを縦に両断した。


「「もう許さないんだからね。藁人形さん。」」


真っ二つになったシェリィは声を二重に響かせながら、フラックスへと沈みながら次第に色を失っていき、最後はただのフラックスとなってプールにバシャリと落ちた。


《操魂化身・()(めつ)の狂戦士》


姿は2m50cm程の人型。

鎧はトレンチコートの様な形状をしており、頭に被っている兜は、大きな二本の角を生やした雄牛を象っている。

両手に持った二本の剣は単体でも十分大きいが、二つを組み合わせると更に巨大な大剣になる様にできている。


(わぁ…かっこいい!強そう!でも…)


その狂戦士にも、足は無かった。

魔女の場合は地面とくっついていたが、狂戦士の場合は逆に、地面より少し浮いていた。


(足が無いと歩けないんじゃ…)


その時、一体どこにあったのか、巨大な鉄製のハンマーがシェリィに向かって飛んでくる。


(わわ!何あれ!)


危ない、と思った瞬間には、シェリィは既に着弾予測地点より遥かに離れた場所に居た。


(え?)


的を外したハンマーが、地面で一回バウンドした後に壁に叩き付けられる。

その衝撃で洞窟は大きく揺れ、そのまま地鳴りと共に崩落が始まった。

天井より垂れ下がる鍾乳石が、天然の石の槍となり地面に降り掛かる。

シェリィの真上にも落ちてこようとしていたが、直撃する瞬間にシェリィは右に移動して難なく回避する。


(凄い…この身体、凄く早い!)


シェリィはそのまま、全ての元凶たる藁人形の元へと向かう。

狂戦士の移動はシェリィの手持ちのどの変身体よりも素早く、比較的小さい為小回りも利き、落石の回避も容易だった。


“ケケケケケ…ヒョーヒョーヒョーヒョーヒョー!”


向かってくるシェリィに向けて、藁人形はその身より無数の藁を伸ばす。

シェリィはそれを回避、又は斬る事で容易に回避し、あっという間に藁人形を間合いに収める。


“ザシュ!ザシュ!”


二筋の斬撃が閃き、藁人形の両腕が切断される。


(これで…終わり!)


二本の剣は合体し、再び大剣となる。

シェリィは最後に、その黒いオーラを帯びた大剣によって藁人形を叩き切った。


“ヒョオオオオオオオオオオオオオオオ!!!”


風鳴りの様な奇声をあげながら、人形はばらけてただの藁へと戻っていく。

戦闘終了と同時に狂戦士を形成していたフラックスが剥がれ落ちていき、中からシェリィが戻ってくる。


「ふぅ…何だったんだろう…」


シェリィは一先ず安心する。

がしかし、洞窟の崩落は収まらなかった。

天井より降り掛かった石槍が、藁人形の残骸を串刺しにする。


「わわわ!ミリア様の家が!」


石槍が、シェリィの頭にも落下する。

幸いダメージにはならなかったが、シェリィはハードな筋トレをワンセット終えた後の様な疲労感に襲われた。


「ごめんなさい!でも逃げなきゃ!」


シェリィは大慌てで出口へと向かう。

洞窟は瓦礫に埋もれて潰れたが、シェリィは間一髪で脱出に成功した。


「は…は…はぁ…」

(結局…何も見つけられなかった…この恥ずかしい服以外…)


露出度は更に上がったが、安全性は包帯と比べれば遥かにマシだった為、シェリィは暫くそのままで過ごす事に決めた。


「?」


ふとシェリィは、岩の隙間に何かを見つける。


「なんだろう…」


シェリィはその細い腕を生かして隙間に手を突っ込み、それを引っ張り出す。


「わぁ。かわいい。」


それは針金と髪の毛で藁が人型に纏められただけの、簡素で小さな藁人形だった。

形は、先程戦った藁人形そのものである。

ただかなり年季が入っており、よく手入れされて綺麗な状態でもあった。

シェリィは、ミリアの副葬品をこれにする事にした。


「よいしょ。」


シェリィは崖から飛び降りる。

夜の冷たい空気が、下からの風へと変わってシェリィを包む。


(うう…すっごくすーすーする…)


身体のの95%程が外気に晒されていたが、それによってフラックスを発生させる際の自由度が増し、攻撃をわざと受ける場面において服をダメにする事も、中途半端な防御力によって得られるエネルギーが減衰する事も無い。

これは【ブラックフラックス】と【スーパーアブゾーブ】双方にとって、大変都合の良いデザインであった。


「わぷっ!」


シェリィはうつ伏せで落ちた。

ただの人間が、数十メートル上から華麗に着地する事など出来る筈が無かった。


(でも不思議。寒い事は分かるけど、なんだか身体がずっとぽかぽかしてて、寒くても平気。どうしてだろう。)


シェリィは立ち上がり、腐葉土の地面を裸足で踏み締める。


(落ちた場所は合ってる…じゃあ、後は真っ直ぐ行くだけだね。)


実験場で起きた戦闘により、周囲の木々は折れたり倒れたりしていた。

倒れている方向とは逆に進めばいいだけなので、シェリィが実験場への道を迷う事は無かった。

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