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シェリ、お勉強します

ミリアの秘密の実験場にて。

ドンと言う爆発音と共に大砲より放たれたのは、圧縮されたフラックスの砲弾。

大砲はネズミの頭に当たると、一気に気化して爆発する。

ネズミの頭は、首元からえぐれるようにして無くなる。


"ボコ…ボコボコボコ…"


断面から新たなフラックスが湧き出し、そこに新たな頭を形成する。

ミリアは着地し、息を切らしながらネズミと相対する。


(くうう…当然の権利の様に再生するかぁ…実質青天井の魔力とかチートかよぉ。)


ミリアの魔導書がパラパラとページを捲る。

大砲の砲身に新たなフラックスが流し込まれ、次弾が装填される。


「だが、《操魂化身》にも弱点はある!食らえ!《ウィンドスライサー》!」


ミリアが手を二度薙ぎ払うと、手の軌跡と同じ形の風の刃が二枚放たれる。

ネズミは跳躍しようと、その身を屈める。


「そこだ!《グラビト》!」


黒いオーラがネズミに纏わりつく。

重力増大を受けたネズミは、屈んだ姿勢で動かなくなる。

風の刃がそんなネズミに到達し、両の後ろ足を切断する。

更にフラックスの大砲も放たれ、今度はネズミの胴体に着弾し爆発した。


「はぁ…はぁ…はぁ…やったか…」


フラックスの爆風が晴れる。

その向こうには巨大で浅いフラックスだまりが出来ており、そこにネズミの頭も転がっていた。

ネズミの頭も次第に溶けていき、中から本体であるシェリィが現れる。


「こほっ…けほっ…こぽ…」


シェリィは咳き込んだりフラックスを吐いたりしながら、ネズミの頭から体を引っ張りだしていく。


「はぁ…はぁ…こんなんじゃだめ…もっと頑張らなきゃ…もう一回…!」


付近のフラックスが、磁力か何かで引き寄せられる様にシェリィの元に集まってくる。

完全復活とはいかずとも、次の変身の足しくらいにはできる。


「え?まだやれんの?ちょっとちょっと!ストップ!もう負け!あたしの負けだから!」


ミリアはフラックスを解除し、魔導書も地面に落とし両手を上げる事で降参の意思を示す。

二つのスキルから成るシェリィの特異な力に対し、ミリアは何の回答も持ち合わせていなかったからだ。


シェリィへと向かおうとしていたフラックスが力を失い、ただの液体に戻る。


「え…じゃあ…」


「君の勝ちだよ。シェリィ。全くバルフェアの奴ぅ…とんだバケモン掴ませやがってぇ。」


ミリアは後頭部をかきながらシェリィに近付いていく。


「シェリの…勝ち?」


「おうよ。ヒヒ、こりゃビルジライミをヤったってのも嘘じゃ無さそうだ。」


ミリアは、まだ右半身がフラックスに埋まったままのシェリィに手を差し伸べる。

シェリィは、フラックスで汚れた左手でその手を取る。

ミリアが力を込めると、シェリィはフラックスの塊から引っ張り上げられた。


「さて。君の実力は良ーく分かった。戦闘面は問題無さそうだから、座学を中心に勉強していこっか。」


「はい!」



~~~



バルフェアの屋敷の地下室にて。


(ふむ…実に興味深い。)


バルフェアは顕微鏡から目を離すと、今見た物とそこから導き出される事実をレポートに書き記した。


'生物より抽出した魔力は、宿主の魔力回路の情報を保有している。

情報は幾ら性質を変化させようとも失われる事は無いが、その情報を読み取る事もまた不可能である。

此処までは、既知の魔法医学でも解明されている事実だ。

だが人間を使った今回の実験により、私はその回路の記憶を発現させる事に成功した。

以下、実験の方法である。


前提条件

・生物Aは【ブラックフラックス】を保有している。

・生物Bはスキルが未発現である。

実験手順

1.生物Aより全ての魔力を抽出し、標準的な変換器を用いる事で全てを雷属性に置き換える。

2.生物Bに、手順1にて用意した雷属性魔力を、骨伝導によって強制的に通過させる。

結果

生物Bに【ブラックフラックス】の発現を確認。


以上の結果から、特定の魔力を用いた魔力の刻みつけにより、回路の情報を取り出す事が可能である事が実証された。

この事から、生まれ持って保有している魔力回路が、自然発生では無く外部からの魔力流動により生じる可能性を考慮する事が可能となる。

被検体とした生物Bは現在でも生存しており、生物B本来が持つ回路の発現の有無など、今後も経過観察を続ける予定である。'


レポートに自らのサインを書いた瞬間、その羊皮紙からは文字が消えて行き、瞬く間に白紙に戻った。


(自由研究のつもりで始めたのだが、運が良ければ幾らか病院に金を入れれるかも知れないな。)


一仕事を終えたバルフェアは、椅子に深く腰掛けコーヒーを嗜む。

バルフェアの背後の解剖台には、腹を切り開かれ内臓を全て取り出された少女が横たわっていた。

いつかシェリィと共にバルフェアによって購入された、心を殺された少女である。

もっとも、今はその身も骸と果てているが。


(さて、次は…)


解剖台を照らしていた照明が、右にずれる。

次に照らされたのは、シェリィと同じ日に買った、修道服の少女の骸だった。


(アルデモウゴス博士の理論が正しければ、蒸留法によって死者からも魔力を抽出できる筈だ。)



~~~



ミリアの実験場にも、夕暮れが訪れていた。


「つまりシェリの魔力は、その魔力回路って言う模様の通りに流れてるの?」


「おうそうさ。まあ模様って言うよりかは、道路に近いかな。」


「道路?」


「ああそうさ。道路には歩道と車道があったり、信号や交通ルールもあるだろ?魔力回路もそれと同じさ。回路にも色んな形があって、色んな交通ルールがある。」


ミリアは右手でおわんの形を作る。

おわんの中は直ぐにフラックスで満たされ、溢れた。


「そんな回路の形や交通ルールの違いが、この世界にスキルの多様性を生んでるのさ。」


「へぇ!凄い!」


「だからシェリィ。もし痛い事をされて、気持ち良い、って思っちゃっても、それは君が持ってる二つ目のスキル【スーパーアブゾーブ】のせいだから決して変な事じゃあ無いよ。解ったかい?」


「…その、すーぱーあぶぞーぶってなあに?」


「魔法は勿論、自身に降り掛かる物理的エネルギー、更には周囲の熱エネルギーまでもを、ぜーんぶ吸収して自分の魔力にしちゃう大変崇高なパッシブスキルさ。普通だったら体に貯めれる魔力の許容量が超えると使えなくなっちゃうんだけど、シェリィの場合はそのままそれをフラックスにして使えちゃうからね。」


ミリアは、シェリィの頭をぽんぽんと撫でる。


「つまり君は、一撃で許容量を超える威力の攻撃を受けない限り、戦っても痛い思いはしなくて良いって訳。」


「ほんとに!?」


「ただし、物理エネルギーの変換には結構な労力が必要らしくてね。やり過ぎると疲れちゃうし、疲れたら使えなくなっちゃうから注意してね。」


夕日が沈み、東の空からゆっくりと夜がやって来る。


「さ、シェリィ。そろそろ帰ろっか。今日はねぇ…バルちゃんが焼いてくれたパイがあるんだよぉ。」


「ほんとに!?」


それを聞いた瞬間、シェリィの腹の虫が鳴る。

クラーケンの所で真水は腹一杯飲んだが、いつかの留守番の最初の日に飲んだスープを最後に、今の今までシェリィは何も食事を摂っていなかった。


「ケケケ。おめぇほんとに可愛いなぁ。んじゃ、行こっか。」


ミリアがそう言った瞬間だった。

真上からの不自然な突風が、実験場に吹き付ける。


「ッチ…はーサイアク。そういや今日だったわ。チキショウが。」


ミリアは一転して不機嫌になり、悪態をつく。

実験場に、夜と共に一体の黒いドラゴンが舞い降りる。

着陸の際に発生した突風でシェリィは吹き飛ばされそうになったが、ミリアに抱え込まれた事で無事に済んだ。

突然の事に恐怖したシェリィだったが、ミリアの鼓動音が齎す微かな安心感がシェリィに落ち着きを取り戻させた。


「約束通り、7002度の満月を待ってやった。時間だ、ミリア。」


ドラゴンから、一人の男が降りてくる。

長く細い長髪。青白い肌。頰が若干こけた、細長い顔。血の様に赤い瞳。

頭以外の全身が黒い鎧で覆われており、鎧には金の刺繍で様々な紋様が施されている。

男は吸血鬼であり竜騎士でもあった。


「ははは。あれからもうそんなに経ったっけか。時の流れってのは早いねぇ。」


ミリアはいつも通りに振る舞う。

ただその手は、シェリィの頭をポンポンと撫で続けていた。

まるで、別れを惜しんでいるかの様だ。


「者共。即刻儀式を始めろ。これ以上ミラディア様を待たせる訳には行かぬ。」


男は右手を掲げる。

いつの間にか、ミリア達の周囲には黒ローブの集団が居た。


「み…ミリア様…?この人?達って…」


「大丈夫さ。シェリィ。借り物を返す日が来たってだけさ。へへへ。すっかり忘れちまってたけど。」


黒ローブの集団が、指を組み合わせて跪く。

風鳴りの様な低い声の詠唱が始まり、そこにミリアを中心とした赤く輝く魔法陣が出現する。


「か…借りた物って…」


「アタシの命さ。」


「え!?」


ミリアは、右手でシェリィの頰に触れる。

相変わらず冷たく、どこか硬い。


「冷てーだろ?だってアタシ、もう死んでるもん。」


「し…死んでるって…でも…」


「このミリアって名前も、魔神ミラディアから渡されたもんさ。元々は人魔戦争が終わるまでの間だったんだけど、いかんせんこの世界が恋しくなっちまってな。延ばしてもらったのさ。ちゃちゃっと生贄を用意してな。」


次第に、シェリィの見る景色は赤くなっていく。

魔法陣が光を増したのだ。


「…へへ。て事で、急で悪いんだがお別れだ。シェリィ。あーあ。バルには悪い事したなー。わざわざ借金の肩代わりなんてしなくても良かったのに。」


魔神ミラディアは、元々は死のみを管轄としていた。

だが魔族の勝利後に、命の女神アシャンティアからその権威を剥奪することによって、晴れて生と死の神、命を司る魔神へと昇華した。


「そんな…やだよ…やだよ!ミリア様!」


「おいおいおいそんな泣くなって。まだ会って1日だろぉ?」


「だって…だってミリア様は…本当に優しい魔女なのに!」


「…へへ。」


ミリアは、シェリィを抱く力を僅かに強める。


「あたしはそんな良いもんじゃねーぜ?後であたしの家漁ってみなよ。アタシの悪ーい一面をたんまりと知れるからよ。…でも、ありがとな。シェリィ。」


「ミリア様…」


「気に入った。アタシのもんは好きなだけ持ってきなよ。あと、残った身体はテキトーに森ん中にでも埋めといてくれよな。そんじゃ。」


不意に、魔法陣が消える。


「…ミリアさ…」


シェリィは顔をあげる。


「ひ!?」


そこには、シェリィを抱く枯れ果てたミイラがあった。

骨と皮と燻んだ朱色に染まった髪のみになった驚く程軽いそれは、夜風に煽られ、シェリィの傍へと倒れた。

これがミリアの、本来の姿だった。


「ミリアさまあああああああああ!」


シェリィは跪き、大声で泣く。

仕事を終えた黒ローブの魔術師達は、黒い霧となって消える。

儀式を見届けた竜騎士は、次の仕事に向かうべくシェリィに背を向ける。


「…魔女の身で誰かに泣かれるか。ミリア。立派になったものだな。」


男は龍にまたがり、帰ろうとする。


「…ん?」


黒龍が、その場を離れようとしない。


“…肉…”


龍が一歩、シェリィの元に歩む。


“美味そうな…人の子だ…!”


「なるほど。そういう事か。」


竜騎士は、龍より降りる。


「どうりで感受性が豊かな訳だ。」


騎士は龍より少し離れ、事の成り行きを見る。

日は落ち、満月が昇り、黒龍の目が赤く輝く。


“人間んんんんんんん!”


ドラゴンが、シェリィに向けて突進を始める。


「ぐすっ…ひっく…森の中…だよね…解った…でも、ちょっと待っててね。」


シェリィは静かに立ち上がる。


“喰わせろおおおお!”


「…やだ。」


シェリィが手を触れると、ミリアの乾き切った胸部の皮膚は簡単に割れた。

その奥に、それはあった。


「…やっぱりあった。」


乾いた肋骨の奥にある、黒色の肉塊。

ミリアが仮初めの命を得ている間、ずっと動き続けていたコア。

活性が失われた今はもう、何かを復活させる力は無い。


「死んじゃってたんだったら…心臓の音なんて聞こえない筈だもんね…」


シェリィはそれを指でつまむと、口に放り込んだ。

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