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シェリ、もう怒ったんだから!

シェリィを縛る奴隷の首輪には、色々な呪いが掛かっている。

主として設定された者に対して危害を加える事が出来ない様にし、主の命令や意向に背くような言動や行動も抑制し、更には精神に干渉し反抗心そのものも抱きにくくしたりもする。。

然し行動抑制には、発動の際に黒いオーラが出て装着者が苦しんだり、光りながら装着者の首を締め上げたりと言った解りやすい動作が伴う訳では無い。

ごく自然に、ただただそういった事が出来なくなるだけである。

故に、それが呪いだと言う事を本人は気付きにくい。


(嫌だって言えない…きっと、怖くて言えない訳じゃない…)


シェリィは身体中に突き刺さる針の痛みをゆっくりと味わいながら、この事象の答えを自分なりに探し始める。


(…怖い夢を見てるみたい…ううん、どんなに怖い夢も、今のこの現実程じゃないかな…)


苦痛と絶望と恐怖がオーバーフローしてしまったシェリィは、一周回って今は無心に近い状態になっていた。


(痛い…凄く痛くて…暗くて…冷たい…一体どれだけ悪い事をしたら、この中に入れられちゃうんだろう…)


アイアンメイデンの中は孤独で静かだ。

反響する呼吸音だけが、虚しく響く。


(でも痛いって事は、シェリはまだ生きてるって事だよね…こんなにボロボロになってるのに…こんなに酷い世界なのに…まだ生きていられるなんて…シェリって凄い…のかな。)


痛みは、生物の体が持つ防衛反応の一つだ。

つまりは少なくとも、シェリィの身体はまだ生きようとしている。


(シェリ…まだ生きようとしてるんだ…こんな世界でもまだ…シェリ、この世界で生きていたいって思ってるんだ…)


でも何故だろう。

こんな世界に居ても、何も良い事なんて無いに決まってる。

どう考えても、早い所天国に行ってしまった方がずっと楽だろう。

もう何度も経験したので、今更死ぬのが怖いなんて言い訳はできない。


(そうだシェリ…まだ何もやってない…)


今諦めたらどうなる。

奴隷としてこき使われ、死んだらボロ雑巾の様に捨てられるだけだろう。


(そんなのやだ…そんなのシェリやだよ…!)


シェリィは元々、自我は弱かった。

他者の言う事は素直に受け入れ、嫌な事は笑って忘れた。

大人達から見たシェリィは、それはただの絵に描いたような良い子でしかなかった。

然し今回は、心の底から自身の運命を拒んでいた。


(シェリだって…生きたい…わがままかも知れないけれど…ただの奴隷じゃ無くて…奴隷シェリとしてでも良いから…生きていたいの!)


アイアンメイデンの中の気温が下がり始める。

壁の内外や針には霜が張り、シェリィの吐く息もまた白く染まる。


(はぁ…はぁ…痛い…痛いよ…痛すぎて頭がおかしくなりそう…でもこの痛みだけが…シェリのわがままを肯定してくれる…)


ミシリと音を立て、針の一つが折れる。

余りの急速冷凍に、金属が耐えきれなかった。


(そう考えると、何だか嬉しいなぁ…報われてる気分…)


シェリィの方を、生暖かい物が伝う。


(…痛い…痛くて痛くて、今にも気を失いそう…でも、その痛みが嬉しい…気持ち良い…)


周囲の温度を吸い続け、シェリィの身体は火照っていた。

血行が良くなり、針が刺さってできた穴からは再び流血が始まる。


シェリィが身じろぎすると、突き刺さっていた針は根元から折れた。

シェリィが頭突きをすると、極太の鎖で閉ざされた扉は吹き飛んだ。


「だってこの痛みだけが…シェリも正しいって証明してくれる…この世界でたった一つだけの物だから…」


シェリィは、吹っ切れた様な微笑みを浮かべていた。

全身の傷から流れ出る物が、血からブラックフラックスに変わっていた。


「はぁ…はぁ…あ。」


アイアンメイデンからの自力脱出を果たした後に、シェリィは自身の失態に気付く。


「あ、ごめんなさい!余りにも辛過ぎて、つい…」


所有物を壊してしまった事に対する謝罪をしようと、シェリィはビルジライミを探す。

然し幾ら地下室を見回しても、ビルジライミは見当たらなかった。

それどころか部屋の照明は全て消され、部屋は闇に沈んでいた。


「ビルジライミ様?」


シェリィは周囲を見回し、別な物を見つけた。


「…あ。」


シェリィを拘束していた首輪が今、ギロチン台に転がっている。


「シェリ…自由になってたんだ…」


シェリィは、奴隷として売り飛ばされてから始めて自身の首に直接触る。


「……」


シェリィは先程斬首された場所まで赴き、乾いた血で汚れた首輪を拾い上げる。

首輪には何処にも継ぎ目など無く、一見すればただの金属の輪でしか無かった。


「ううん。シェリはまだ自由じゃ無い。この首輪はいつか、シェリの手で外す。」


シェリはそう呟くと、首輪を自身の首に近付ける。

首輪は何も無い場所から突如開くと、シェリィの首に飛び付き、再びシェリィを、バルフェアの所有物に戻した。


「…?」


然し首輪は、シェリィを何処かに導く様な事はしなかった。


(ビルジライミ様…本当に何処行っちゃったんだろう…)


シェリィはそのまま、地上へと繋がるドアへと向かう。


「…すんすん…変な匂い。」


鉄の様な匂いに気をとられつつも、シェリィは地下を後にする。


「う…」


暗がりに慣れ切ったシェリィの目を、照明の光が襲う。

血の匂いも濃くなっていた。


「はぁ…」


また誰かが死んでる。

そう考えただけでシェリィは気が滅入ったが、アイアンメイデンの事を話さなければ行けなかったので、仕方無く、重い足取りで進んだ。


シェリィ自身が傷付けられると、勿論シェリィの体は傷付く。

シェリィが傷付いた誰かを見ると、今度はシェリィの心に傷が付く。

シェリィもその事は、これまでの経験で理解していた。


(シェリみたいに虐められてる人…他にも居るのかな…)


シェリィは血の匂いを辿って進む。

アイアンメイデンに入れられた時に出来た穴と言う穴全てから、一歩進む度に血とブラックフラックスの混合液を垂れ流していたが、当の本人にその事に気付く余裕は無かった。


(ここ…かな…)


シェリィは、辿った先にあった大きな二枚扉を開ける。

その向こうは、食堂、の筈だった。


「ひ…い…!?」


本来ならば多人数が座る用の長い机の上には、無数の死体が並べられていた。

バラバラだったり、切り開かれていたり、焼かれていたり、その状態は様々だった。

中には、シェリィと同じ年頃の少女の物もあった。


「ん?誰だい?」


そのおぞましい食卓には、ナイフとフォークを手にしたビルジライミが座っていた。


「び…るじ…らいみ…様…あの…えっと…」


「おお!君は…あ、えーっと…名前なんだっけ。スペンサー?セシリア?」


「シェリィです…」


「ああそうそうシェリィだ。いやぁごめんねー。アイアンメイデンに押し込めた君から絶望の感情が出なくなっちゃったからさ、てっきり死んじゃったのかと思ったよ。あはははは。」


「…ビルジライミ様は…何でシェリをいじめてたんですか…?」


「人が酒を飲む様に、魔族は魔力を飲む。ってのは知ってるしょ?私はその中でも、人間の絶望から来る魔力が大好きでねぇ。だからしょっちゅう人を攫っては、あそこで死ぬまで拷問してたって訳。なんか変?」


「…シェリの絶望…美味しかった…ですか…?」


「うーん。正直言ってまずかったね。なんて言うの?純粋すぎて原材料を齧ってる気分って感じ?」


「………」


「あーあ。君をフランケンの化け物みたいになるまで傷付けたのに、結局美味しい感情は出なかったなぁ。残念。骨折り損って奴?て事で、君もう要らないから、どっか行ってよ。」


「………」


「ん?どしたの?」


少しでも、役に立ててると思っていた。

自分が苦しむ事に、何か意義があるのかと思っていた。


「…ぃ…」


「何?」


それではまるで、食用の為に殺された家畜が、血虚き食べられる事無く廃棄される様だ。

その存在に、一片の価値も生まれなかったかの様だ。


「…さない…」


仮に本当にシェリィへの拷問が無意味な物だったとしても、せめて“苦しむ姿が面白かった”くらいは言ってくれても良かったのでは無いだろうか。

シェリィはあの地下室で幾度と無く生死の境を彷徨い続け、常に極限状態の中過ごす事を強いられてきていた。


「許さないんだからああああああ!」


本来であれば他者の拷問など、どんな理由であれ決して許されぬ行為。

然しシェリィは、ビルジライミを許す理由を一片でも良いから見つけ出そうとしていた。

シェリィはそれ程までに、優しかった。


「ねえビルジライミ様…自分のお腹の中に触った事ある…?すっごくぬるぬるしてて、あったかいんだよ…?他にもあの地下室で…シェリ、生まれて初めての体験が色々できたんだ…だからビルジライミ様にも…お返ししてあげるよ…」


だが自身の命すら顧みないシェリィの優しさにも、限界が来た。

シェリィは生まれて初めて、激昂した。


「あはは。許さない、ねぇ?シェリィ。君何言ってんの?誰が誰を許さないって?」


ビルジライミに、赤いオーラが纏わり付く。


「身の程わきまえなよ。人間。ゴミ以下の身分で、魔族の私にそーんな態度をとって良いとでも思ってる訳?」


荒野から時計を持たずに帰ろうとした時、バルフェアはシェリィを止めた。

然し今回はそれが無い。

更に首輪を付けているにも関わらず、ビルジライミへの敵意に何の制限も掛かっていない。

なのでシェリィは、とある確信を得ていた。


「多分、良いんだと思う。」

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