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シェリの身体じゃ…

荒野の南、人間の領域より北にて。

六人の冒険者が、荒野を怪訝そうな表情で見つめていた。


「風が止んでる。ウーダロスがやられたのか。」


紺色の鎧を纏い、大剣を背負った金髪の青年。

名をフィルと言い、この集落を守るべく駐在している冒険者達のリーダーである。


「あの筋肉精霊がシンプルに負けたとも考えられないし、相手はきっと風に有利な属性の筈よ。」


魔女のローブを身に纏い、先端に赤い宝石のついた杖を持った、紺色髪の二十歳程の女性。

名はアーミュ、このパーティの火力支援担当だ。


「ま、良いんじゃない?最近はレッサーデーモンやら砂漠の魔物やら雑魚ばっかだったし、たまにはこう言うのもアリじゃねえの?」


全身を完璧に覆う黒装束を纏い、物々しい武具を身体中あちこちに隠した男。

名はシゲジ、隠密行動や妨害を行うアサシンだ。


「然し皆さま、油断は禁物ですよ。危うくなったら直ぐに私の袂に来てください。」


白い司祭服に身を包んだ、眼鏡をかけた背の高い、白髪の男。

名はクレメット、パーティの回復役である。


「がはははは!相変わらず頼もしいな!クレメットよ!」


重鎧と大盾で身を固めた、ガタイの良い中年男性。

名はドラノス、このパーティのタンクである。


「今日も、戦うんだね…」


腕は煌びやかな金色の薄鎧に守られている反面、胸部を覆うのは必要最低限の面積の金属の胸当て。前後面は下に金属の錘が付いた、垂れ下がる細長い布を腰に身に着けている他、足首にはそれぞれ金色の金属の輪が三つ、足にはかかとが上がったサンダルを履いている。

髪は艶のある黒髪で、目は深い緑色、頭部には一対の黒い猫耳が生えている。

名はニンナと言い、パーティではバッファーを務めている。


「どうした?ニンナ。やっぱり、怖いか?」


フィルは、怪訝そうにしているニンナに声を掛ける。


「ううん。違うの。いつになったら、魔族とも仲良く暮らせ…ふむぐっ!?」


ニンナの意見は、咄嗟に出たシゲジの手によって遮られる。


「だめだぜニンナちゃん。冗談でもそんな事言っちゃ。」


次いで、クレメットもニンナの元に来る。


「そうですよ。ニンナさん。魔族とは神々に相反せし存在、神々の敵であり、我等が光の民とは決して相容れない者達なのです。判りましたか?」


そこで漸く、ニンナの口から手が外された。


「うん。解ってる。ごめんなさい。」


「いえいえ。光の民とは過ちから学ぶ生き物です。そこも、我々と魔族の大きな差異ですから。」


パーティがそうこうしている間に、その背後に兵士達が集結していた。

皆、銀色の全身鎧を纏っている。


「ん?この者達は?」


フィルは兵士の一団の先頭の者に問い掛ける。


「我等が領の一大事と聞き、領主直々に選抜されし、アズメール領守護騎士団遠征部隊が助太刀する事となりました。」


遠征部隊を見てシゲジは喜ぶ。

隠密行動を生業とする者にとって、自陣の頭数は多いに越した事は無いからだ。


「おお!あのジジイもたまには良いとこ見せんじゃん!感謝するぜ!おめーら!」


「いえいえ。そもそもこれは我等が領の危機。異郷より参りし冒険者達の背で守られているだけでは、守護騎士団の名が泣きます故。」


フィルはそんな騎士達の想いに感服しつつ、前を向く。

自分達を守っていた風は止み、荒野は地平線が露わになっていた。


「敵はウーダロスを打ち倒せる程の力を持っている。皆油断せず、進軍開始だ。」


「「「はい!」」」


防衛団一行は、ウーダロスの反応が消えた方角へと進む。

と、正面を歩いていたフィルが最初に、地平線に歪みを発見した。


「皆、気をつけろ。何か居る。」


「早速お出ましね。ここは先手必勝![ファイアー…」


「待つんだアーミュ。何か変だ。」


一行を残し、フィルはアーミュとクレメットを連れて、その“何か”の元に向かう。

距離が縮まるにつれて、次第にそれの正体が明らかになってきた。

砂で汚れた、紺色がかった黒髪。黒と鳶色のオッドアイ。幼い体躯には目一杯切り傷を受け、着ている服も原型が判らない程切り刻まれている。。あどけなく愛らしい顔立ちは、疲労に曇り俯いている。

腕と足が一本づつ失われており、足の代わりを握っている剣に任せる事で、辛うじて進んでいる状態だった。


「…“魔隷”…ですか…」


クレメットが、忌々しそうに呟く。

魔隷。

この世界では、何らかの原因で魔族の奴隷に堕ちてしまった遍くを指す言葉である。


「なんて酷いの…」


アーミュは、今にも死んでしまいそうなその少女を見て指を咥える。


「一体どれだけ、あの子は酷い目に遭ってきたのだろうか。ウーダロスとの戦いも、決して楽では無かっただろうに。」


フィルはそう言いながら、剣を構える。


「ちょっとフィル!何してんのよ!」


アーミュはフィルの前に立とうとしたが、そんなアーミュの方がクレメットに制止される。


「良いんだ。アーミュ。彼が正しい。」


クレメットはそう言いながら、少女の首輪を指す。


「あの子が生きている間に解放される事は無い。ここで見逃して未来に待ち受ける苦難をあの子に与えるよりは、今ここで終わらせた方がずっと良い。…気持ちは解るよ。僕だって辛いさ。」


フィルは剣を構えたまま、少女の前に立つ。


「早く…見つけなきゃ…シェリが…家具にされちゃう…」


シェリィはぶつぶつと独り言を言いながら、ゆっくりと前進を続けている。

目からは涙を流し、黒い液体で覆われた傷口からは、時々液体と血の混じった物が吹き出す。


「シェリの身体じゃ…良い家具なんて…できないよね…」


トスっと、シェリィの頭がフィルの太ももに衝突する。

そこでシェリィは、漸く正面に人が居る事に気が付く。


「人だ…シェリと…おんなじ種族…ほんとに居たんだ…」


シェリィは息を切らしながら一歩下がり、片足立ちのまま片手で剣を構える。


「戦うんだ…戦って…シェリ…強くなるんだ…そうすればきっと…いつか…幸せになれるんだ…」


シェリィは独り言で自身を鼓舞しながら、血で殆ど潰れた目をフィルに向ける。


「これが悪魔の所業か…」


フィルもまた、少しだけ泣いていた。


「さあ来い!シェリ!」


フィルは、シェリィの名を呼んでやる。

名を呼ばれ、ほんの少しだけ意識を保ち直したシェリィは、バランスをとりつつ剣を構える。


「パパ…ママ…お兄ちゃん…見てて。シェリ、戦うから!うああああぁぁぁぁ!」


シェリィは地面に剣を刺す。

すると、シェリィの立っている地面一帯がフラックスの池に変化し、そこから王冠を被った巨大ネズミの頭が、丁度シェリィが口の中に立つように現れる。

ネズミはそのままシェリィを飲み込むと、残りの身体もフラックスのプールから出す。


“チイイイイイイイ!”


「な!?」


完全に予想外の能力を目の当たりにしたフィルは慌てて後退し、クレメットとアーミュに合流する。


「まさかシェイプシフターだったとは…フィルさん。怪我はありませんか。」


「ああ。クレメット。俺は大丈夫だ。…完全に油断した。」


フィルは剣を構え直し、目の前の現れた巨大ネズミと対峙する。


「ねえフィル。ここは仲間と合流した方が…」


アーミュがそう言った瞬間だった。


「仲間と、何だって?」


アーミュのすぐ隣には既に、シゲジが居た。


「うわ!?あんたいつの間に!」


「俺だけじゃねーぜ。そーだよなー!みんなー!」


気付けばフィル一行は、後方に残してきた筈の仲間達と合流していた。

それもフィルの気付かぬ間に。


「みんな…どうして。」


フィルは戸惑う。

ネズミの出現を見てから急いで来たとしても、到着が早すぎたからだ。


「いやはや。リーダー一行が去ったすぐ後にニンナ殿が、何か、嫌な予感がする、と申すのでな。あの後こっそり付いていったんだよ。そしたら案の定と言う訳だな。迷った時には獣人の勘に従えとは、よく言ったものですな!がはははは!」


ドラノスが愉快そうに事の経緯を説明する。


「あ…あの、余計…でしたか?」


ニンナは不安げに問う。


「いいや。良くやった。ニンナ。」


フィルはニンナの頭をポンポンと撫でると、巨大ネズミに向き直る。

仲間達もフィルに並び、後方では兵士達が武器を構える。


「総員に告ぐ!奴は間違い無く、我等が領域の脅威だ!ウーダロスを屠る程の力も持っている。きっと全員無事では済まないだろう。然し、我等がこの地で勝利を収めたあかつきには、我等より背後の者は全員助かる!人類の為に戦う勇敢なる戦士達よ!我が背に続け!人類の希望に向けて、進軍せよ!」

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