シェリ、飛びます!
時刻は昼頃。
場所は屋敷の使用人室。
「ふわぁ…!」
シェリィは姿見の前で、ゴシックロリータな衣装に身を包んだ自分を眺めていた。
基本の色は黒。肩やスカートの裾には白いレース。肩がぎりぎり隠れる程度の短い袖。左足には黒タイツに、黒いトゥーシューズに似た靴。
「それ一式でお前の15倍の値段したんだ。間違っても汚すなよ。」
「そんなに高い物を…ありがとうございます!ご主人様!」
バルフェアは皮肉のつもりで言ったのだが、シェリィは素直に喜んだ。
「シェリよりも高い〜♪これでシェリはもっと高い〜♪」
それはもう凄く喜んだ。
喜ぶシェリィを見て、バルフェアもほんの少しいい気分になった。
悪魔としてのバルフェアは苦しむシェリィに心惹かれ、主人としてのバルフェアは幸せなシェリィが好きだった。
最も、バルフェア自身はまだ、そんな事は気付いていないが。
「それじゃあ行ってきます!ご主人様!」
シェリィは部屋のドアに駆け足で向かおうとして、襟をバルフェアに掴まれ引き止められる。
「ぐえっ」
「まあ待て。」
バルフェアは使用人室のドアから漆黒の闇に染まった場所へと入って行き、数秒程で戻って来る。
その手には、シェリィの1.7倍程の大きさの、一本の大きな銀色の剣を握っている。
先端と中腹の部分が僅かに膨らんだ形をした銀色の刀身。持ち手は黒色。
刀身が平均以上の大きさである事を除けば、剣はシンプルな見た目をしていた。
「両手を出せ。シェリィ。」
「ふぇ?」
言われるがままに出されたシェリィの手に、バルフェアは剣を乗せる。
「うわ!…あれ?」
確かにその剣は重かったが、両手を使えばシェリィでも十分扱える程度の重量しか無かった。
「危なくなればそれで戦え。その剣はプライスレスだが、お前よりは価値がある事は確かだ。」
「ありがとうございます!」
シェリィがその剣をどこに仕舞おうかと思った瞬間、剣は突如砕ける様な音と共に黒い煙に変わり、シェリィの右手首に纏わり付き、そこに銀の腕輪を形成した。
「…!それじゃあ、行ってきます!」
シェリィが黒い空間に繋がったままのドアを一度閉め再び開けると、ドアの向こうは屋敷の前に繋がった。
ドアの前で停留するドラゴンの周囲には、神話生物を一目見ようとする有象無象の野次馬達が集まっていた。
「今回は俺のを貸してやる。だが、そのうちお前もお前自身の移動手段を確保しろ。良いな。」
「ふぇ…それって、どうやれば…」
「まあ一先ず行ってこい。」
バルフェアはシェリィの背を蹴り飛ばす。
「うわぁ!」
屋敷から押し出され外に出たシェリィの背後で、ドアが勢いよく閉まる。
「じゃあ、行ってきます!」
何かにつけて暴力を振るわれるシェリィだったが、あまり気にしては居なかった。
バルフェアが悪魔だと言う認識もあったが、何よりシェリィはそう言う性格だった。
ドラゴンの前まで移動すると、シェリィはドラゴンの背に鞍が乗っている事に気が付いた。
だが、踏み台用の金具にシェリィの背では届かなかった。
「…どうしよう。」
その時、シェリィは自分の体が浮き上がる感覚に陥る。
ドラゴンはシェリィの首元を加えると、シェリィを背中に乗せてやった。
「…!ありがとう!ドラゴンさ…」
ドラゴンが一つ羽ばたき、周囲に物凄い暴風が吹き荒ぶ。
『捕まっていろ。人間。お前に合わせる気は毛頭無いぞ。』
「…ふぇ?」
ドラゴンが飛び立つ。
「ひぎゃああああ!」
風圧に煽られたが、鞍にしがみついたシェリィは間一髪で振り落とされずに済む。
不意にシェリィの腕輪が黒い煙になり、蔵の上全体を覆う半透明の半球型バリアへと姿を変える。
「た…助かった…」
シェリィは、這う様にして蔵の上に戻る。
ドラゴンは既に雲よりも高い所に居たが、シールドが気圧等の外部環境をシャットアウトしたお陰で、シェリィが高山病になる事は無かった。
「はうぅ…」
故に、シェリィのこの気絶は、度重なる心労に起因する物である。




