10.人見知り克服作戦、実行開始!
翌日の昼休み。苺の友達作り作戦一日目。俺は苺と二人で廊下を歩いていた。
「純、これから何をするの?」
「何って、友達作りだよ。初対面でも話しやすそうな人に声をかけておいたから、今からそいつに会いに行くんだ」
「昨日のアレ、やっぱり本気だったんだ……」
苺は露骨に嫌そうな顔をする。
「そんな顔するなって。確かに嫌かもしれないけど、早く人に慣れるためには仕方ないんだ。苺だって演劇を成功させたいだろ?」
「それはそうだけど。やるしかないかあ……」
嫌々ながらもやる気を出してくれる。文句を言いつつもあがり症を克服しなければならないことは自分でも分かっているのだろう。
廊下を歩き続けているうちに目的の生徒を発見する。
「お、いたぞ。あの子だ」
苺を連れて黒髪ロングヘアーの女子生徒の元へと駆け寄る。
「悪いな東条さん、突然呼び出して」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
東条さんはニコッと優しく微笑む。その表情からも仕草からも、良い人オーラが溢れ出ていた。
実際、この人の評判はすこぶる良い。去年同じクラスだったので面識があったのだが、気配り上手で誰とでも分け隔てなく接する、優しい人だったのを覚えている。
彼女ならばきっと、苺を拒絶することなくすんなり友達になってくれるだろう。
「私に用があるって話でしたけど、何ですか?」
「いや、用があるのは俺じゃなくて、俺の後ろに隠れているヤツなんだが」
俺が東条さんに話しかけた辺りから、苺はずっと背中に隠れていた。おいおい、隠れていても人見知りは克服できないぞ?
「あら、用があるのは柳沢くんじゃないんですね。急に呼び出されたからてっきり、柳沢くんに告白されるんじゃないかって思って。ちょっぴりドキドキしていました」
「な……!」
照れくさそうにいう彼女の言葉に、思わず赤面してしまう。
「こ、告白とか、そんなことするつもり全然ないって」
「全然、ですか……。そうですよね、私なんか魅力ないですもんね」
「いや誤解だ! 東条さんは十分魅力的な人だから……って俺は何を言っているんだ!?」
「まあ、魅力的だなんて。ありがとうございます~」
「う……。ひょっとして俺をからかってないか?」
俺は恥ずかしさで赤面しっぱなしだった。この人、意外と小悪魔なところがあるのかもしれない。
「そんなことないですよ。仮に本当に告白だったとしても、私じゃ柳沢くんに釣り合わないですね」
「いやいや逆だって! 俺の方が釣り合わがはあっ!?」
突然背中に、思いっきり殴られたような痛みが走った。もちろん犯人は一人しかいない。
「急に何しやがる苺!?」
振り向いて苺の方を見ると、あからさまにすっとぼけた表情をしていた。
「……別に何でもないよーだ」
「何でもないのに殴るな!」
何故殴られたのかは分からないが、今はそれを問い詰める時間じゃない。ここは一旦冷静になって話を進めよう。
俺は気を取り直して、再度正面を向く。
「(あんなにデレデレして。純のバカ……)」
背中から何やらぶつぶつと声がしたが、よく聞き取れなかった。
「あの、大丈夫ですか? 今、がはあって……」
「いや、平気だよ。それよりこいつがお前と話したいってさ」
「きゃっ!? ちょっと純、待って……!」
後ろに隠れている苺を強引に前に立たせてやる。
「あらあら、あなたはいつも柳沢くんと一緒にいる……」
「ほら苺。ここからはお前が彼女と話していく番だぞ」
「わ、分かってるよ……!」
俺は一歩引いて、彼女らを一対一で向き合わせる。
苺の足を見ると、プルプルと震えていた。やっぱめちゃめちゃ緊張してるな。
「初めまして、東条すみれと言います」
相手の方から先に挨拶をする。
「は、は……」
次は苺が答える番。さあ、まずは基本の挨拶『初めまして』からだ。頑張れ!
「は……拝啓、お元気ですか?」
「(手紙か!!)」
予想の斜め上の挨拶に思わず脳内でツッコんでしまった。マズイぞ。あいつ、緊張のしすぎで頭が正常に働かなくなってるんじゃないか?
「はい、元気ですよ~。面白い挨拶の仕方ですね」
幸いなことに、東条さんは疑問を持たずに受け止めてくれていた。
良かった。普通の人だったら多分困惑していただろうに。やっぱり東条さんを選んで正解だったな。
「もし良かったら、あなたの名前を聞かせてもらってもいいですか?」
「う、うん……。つ、鶴日苺……」
よし、名前はちゃんと言えたな。偉いぞ~苺。って俺は保護者か。
「鶴日苺さんですか、可愛い名前ですね~。何とお呼びすればいいですか? 鶴日さんか、それともフレンドリーに苺ちゃん、なんて!」
「う……」
ここは、名前か渾名で呼んでもらうべきだな。名字だとちょっと堅苦しいし。苺、頑張れ!
「い、い…………。いち、ろー……で」
「(野球界のレジェンドか!! 確かに母音は一緒だけど!)」
緊張しすぎて、舌が回らなかったのだろうか。そのせいでとんでもない渾名が出来上がってしまっていた。
「分かりました」
「(いや分からないで東条さんーー!)」
何で簡単に受け入れるんだよ! この人もちょっとおかしいだろ!
「ストップストーップ!」
いい加減にしないと話がおかしくなりそうなので、俺が止めにいく。
「悪いな東条さん、ちょっと待っててくれ。苺、ちょっとこっちに来い!」
テンパっている彼女を後ろの方へ引っ張って、東条さんに聞こえないように背を向ける。
「苺お前、東条さんにイチ◯ーって呼んでほしいのか!」
「そんなわけないでしょー!」
「いや自分でそう言ってただろ!」
やはり、他人を前にしてすっかりあがってしまっているようだ。
「それより大丈夫か? 結構テンパってるみたいだけど……」
「うう、心臓がバクバクして頭もぐるぐるしてる……」
よく見ると顔も真っ赤だし、目の焦点も合っていない。相当参っているようだ。
「あー……。じゃあ、今回は無理するな。後は俺が話つけておくから、ここは一旦退いて落ち着こう」
「え、いいの?」
「ああ。苺に無茶をさせといて言うのもアレだが、友達作り以前にお前の体が一番大事だからな」
「っ……! 今そういうこと言うのズルい……」
「ん、なんて?」
「な、何でもない! じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
「分かった。それじゃあ東条さんに話をつけてくるから、後ろの方に隠れてていいぞ」
「ん、ありがと……」
相変わらず、いやむしろさっきより顔を赤くしている苺。まさかここまであがり症がひどいとは。これは演劇関係なく直していかないとマズイな。苺の将来のためにも。
「待たせてすまん」
「いえいえ、気にしないでください~」
何事もなかったかのように笑顔で迎えてくれる東条さん。まるで女神だ。
「苺はちょっと体調が悪いみたいなんだ。また明日、改めて話してやってくれないか?」
「あら、そうなんですか。全然かまいませんよ。お体大事になさってくださいね、イチ◯ーさん」
「呼び方は苺でいいからな!?」
律儀に言われた渾名で呼ぶ東条さん。その呼び方はさすがにいろいろとマズイので、しっかりと訂正させてもらう。
「ふふ。柳沢くん、今日はありがとうございました」
「いや、礼を言うのはこっちの方だよ! 突然呼び出してごめんな」
「いえいえ。面白い人を紹介してもらえて、私は大満足ですので。何も謝ることはありませんよ。明日もぜひお話しましょう?」
おお、何て良い人なんだ……! 苺のことを面白い人とまで言ってくれるなんて。
「本当に感謝するよ。明日も宜しくな」
「はい、楽しみにしています!」
「それと、東条さんは面白い人って言ってくれたけど、普段の苺はあんなおかしな発言するやつじゃないからな。誤解するなよ」
今日のが苺の素だと思われたら困るので、一応弁解しておく。
「そうなんですか? じゃあ柳沢くんから見た本当の苺さんってどんな人ですか?」
「え?」
予想外の質問をされる。俺から見た苺か。長いこと一緒にいるのに、あんまり考えたことなかったな。
「うーん。ちょっと人見知りな所もあるけど、真面目で頑張り屋さんな、とっても優しい女の子かな」
「(っ……!?)」
「まあ……!」
俺の言葉を聞いて感動したように目を輝かせる東条さん。なんだこのリアクションは?
「そうなんですか~。柳沢くんにとっての苺さんは、真面目で努力家で、とっても優しくて可愛い女の子なんですね~。素敵です!」
「そうそう、って可愛いまでは言ってないぞ。否定はしないけど」
「はうっ……!?」
何やら後ろから、驚いたような声が聞こえた気がした。
「あらあら、いいですね~。なおさら苺さんとお話してみたくなりました」
何故だろう。心なしか東条さんがニヤニヤしているように見える。
「ん? な、なら良かったけど。それじゃあ明日また頼むな」
「はい、こちらこそです~。それでは」
楽しそうな笑顔を浮かべてそう言うと、東条さんは機嫌良さそうに去っていった。
「よし、俺達も教室戻るか……って苺!?」
「ふしゅ~~…………」
振り向くと、顔を茹でダコのようにした苺が目を回しながらフラフラと揺れていた。やがて俺の方へと倒れ込んでくる。
「だ、大丈夫か!? 目眩でもしたのか!?」
「うう、もうダメ~……」
「おい苺!? 苺~~~~!!!」
俺の質問に答えることなく、苺は意識を失った。
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