8.文化祭の演劇
数日後の水曜日、教室にて。今は六時間目のHRの時間だ。
「文化祭の準備を始めるぞ~!」
担任である木村篤先生が高らかに言うと、クラスの皆がザワつき始める。もう文化祭のシーズンなのか。
うちの学校は七月の初めに文化祭が開催される。今は六月の初めなので、準備期間に入っても何もおかしくはない。
しかし俺は約二ヶ月休んでいたので、出校してすぐに文化祭シーズンを迎えたことになる。まるで時間が飛んだような感覚だ。
「もう既に知っているとは思うが、二年生は全員演劇をすることになっている。内容については、学級委員長の咲良から発表があるそうだ。では咲良、前に出て発表しなさい」
「はい!」
呼ばれた委員長は元気に返事をすると、何やら台本のようなものを持って教卓の方へ向かっていった。
「今回、私達二年一組が演じる劇の内容は、私がオリジナルで制作したこの台本に書かれています!」
クラス全員に台本が配られる。オリジナルなんて委員長、相当気合い入ってるな。タイトルは『プリンセス&ナイト』か。
どれどれ、あらすじは……。『ソフィア姫によって治められている王国の民は、皆が幸せで豊かな生活を送っていた。だがある日、魔王サターンが王国を襲い、民は恐怖にさらされることとなってしまう。姫はこの状況を打破するため忠臣である騎士、グラント卿とともにサターンを倒すことを決意したのだった』と書いてある。
なるほど。少しありきたりな物語な気もするが、普通に面白そうだ。
続いてシナリオもチラッと見てみる。
①民が平和に暮らしているところに魔王サターンが現れ、民が襲われる
②サターンが王国を襲っていることを兵士がソフィア姫に報告。姫はサターンを倒すことを決意する。
③同じく報告を受けたグラント卿もサターンを倒し、王国と姫君を守ることを決意。グラントは兵士たちを率いてサターンと戦闘する。
④見事サターンの討伐に成功。王国は平和を取り戻す。姫はグラントに感謝を伝え、おしまい。
といったように四つに別れていた。自作とは思えないほどしっかりとしたシナリオだ。文化祭でやる劇のシナリオとしては申し分ない。さすがは委員長だ。
「面白そうだね、純」
「そうだな」
俺だけでなく、席が隣である苺も関心していた。
「皆だいたい読んでくれたかしら。早速ですが、役者と裏方を決めます! 役者はソフィア姫、グラント卿、魔王サターン、王国の兵士五人、サターンの手下五人、王国の民三人の計十六人。裏方は舞台装飾班十人、衣装班十二人の計二十二人。そして監督は、私と副委員長の二人でやっていきます!」
合計はちゃんと四十名。当たり前だがクラスの人数ぴったりだ。
「ではまず役者から決めましょうか。裏方はその次に決めるわね」
委員長がそう言うと、書記の人が黒板に役の名前を書き始めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
約十分後。HRは順調に進み、だいたい役者が決まってきていた。
ちなみに俺は兵士A役、謙信がサターン役になった。苺と四葉はまだ役が決まっていない。
本当は『グラント役に立候補しろ』という命令が神から下されたので、グラント役に立候補したのだが、委員長に「悪くはないけど、もっと凛々しさが欲しい」とばっさり切られ、代わりにイケメンの山本くんが抜擢された。
そしてグラント役を降ろされた俺には、せめてもの情けと兵士A役を与えられたのだった。
くそ……神の命令のせいで、とんでもない恥を晒してしまった。こちらからヤツに干渉する方法が分からないため、制裁を加えられないのが腹立たしい。
「あと決まってないのは……ソフィア姫役だけね! 誰か立候補する人いますか?」
俺の憤慨をよそに事態は進行していく。周りを見てみるが、手を挙げている人は見当たらない。そりゃ、自分から姫役に立候補するって相当勇気いるよな。
「う~ん。いないならランダムで決めちゃうけど、皆いいかしら?」
クラスの皆は首を縦に振り、賛同の意を示した。
「分かりました。じゃあくじで決めちゃうわね。もしものために用意しておいて良かったわ」
委員長はあらかじめ作っていたであろう、二年一組女子と書かれたくじを持ち出し、ガサゴソと中身を漁る。
そして中から折られた一枚の紙を取り出し、それを見ると満足げに頷いた。
「ではソフィア姫役は、鶴日苺さんにやってもらいます!」
「えーーーーーボク!?」
名指しされた苺は勢い良く立ち上がり、悲嘆の声をあげる。
『鶴日さんか。見た目もいいし、適任じゃないかしら』
『うおおおお! 鶴日さんのお姫様姿、超見てえ!!』
しかし反対に、皆の反応はとてもよかった。
「ま、待って……! そ、その、ボクなんかじゃ無理ですよ……!?」
苺は慌てて抗議する。確かに知らない人と話すのが苦手な苺は、大衆の面前で演技をするのも大の苦手だ。正直あまり向いていないだろう。
「んーでも、くじで決まっちゃったものはしょうがないわ。恥ずかしい気持ちも分かるけど、それは皆も同じだから。悪いけどお願い!」
「う…………。はい……」
「ありがとう、鶴日さん!」
とはいえ、個人の気持ちをいちいち考えていては、いつまで経っても役者は決まらない。
それを理解しているであろう苺は観念してしぶしぶ承諾し、へなへなと椅子に座り込んだ。優しい苺のことだ、頼まれると断れなかったのだろう。
「皆さんの協力のおかげで、役者は全員揃いました。次は裏方を決めたいと思います!」
委員長が手際よく事を進めていく。HRが滞りなく進行する中、隣からはずっとため息が聞こえていた。
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