25:最終決戦
私たちは身を隠しながら、簡潔に情報共有をした。内容は、お互いに何の魔法が使えるかだ。
ノエルが使えるのは、風を操る魔法、植物を操る魔法。そして、サポート魔法だと、浮遊魔法と光の魔法。
対する私は、攻撃魔法が一切使えない。代わりにサポート魔法だと、魔力向上魔法、解除魔法、防御魔法、影の魔法、浮遊魔法、光の魔法、それらの六種類を使うことができる。
そして、ルカさんが使える魔法は噂で聞いた内容を信じるならば、火を操る魔法、水を操る魔法、風を操る魔法、植物を操る魔法、影の魔法、浮遊魔法、光の魔法の七種類だ。
「ノエル、ルカさんから魔法の杖を奪うことを目標にしよう。それと、無理に攻撃しようとしないで」
「うん、わかった。大事なのは長く戦うことだからね」
おそらく、ルカさんを倒すことは不可能だ。負傷させることすら、難しいかもしれない。
けれど、私たちがすべきことは、戦いに勝つことではない。助けが来るまで生き延びることだ。
それを再度確認し合うと、ノエルはわざわざ魔法の杖を持ちかえて、右手を差し出してきた。
「よろしくね、エンネ」
ノエルの顔はいつもよりも強張っていた。おそらく緊張しているのだろう。
圧倒的に不利な状況なのだから仕方がない。けれど、上がった口角からは絶望を感じなかった。
「俺たちならきっとやれる」
その言葉に、無意識のうちに狭まっていた視界が広がっていくのを感じた。
「うん。よろしく、ノエル」
私のパートナー。
そう心の中でつけ足し、私も魔法の杖を持ちかえて、利き手で彼の手を握り返した。
ノエルは握手した手にぎゅっと力を入れたあと、名残惜しそうに手を離した。そして、私を残して草陰の中から飛び出した。
「蔦よ、ルカさんを捕らえよ! “プラント”!」
ノエルの声が響くと同時に、彼にかかっていた影の魔法が消えた。
ルカさんはすぐさま振り返り、襲いかかってくる蔦を睨みつけた。
「落ちよ! 赤き怒り! “インフェルノ”!」
ルカさんのすぐ近く、地面から炎の柱が生まれ、空ともども襲いかかってくる蔦を焼き尽くした。
(あれが火を操る魔法…!)
私はいまだに身を隠しながら、その光景に呆然とした。
同級生に火を操る魔法が使える生徒はいない。だからこそ、実物を見るのは初めてだった。
(あんなにも威力があるんだ。下手をすれば火事が起こる)
マッチの火ほどのものを想定していたわけじゃない。けれど、あんなに広範囲を焼き尽くすものだとも想定していなかった。
(さすが、最高難易度の攻撃魔法)
一部の魔法使いしかたどり着けない境地だった。
ルカさんの強さを痛感すると同時に、彼女が冷静ではないことも再確認した。
(圧倒的な差を見せつけて、私たちの心を折ろうとした可能性もあるけれど…)
蔦を防ぐのであれば、風を操る魔法で十分だった。
(このまま、高火力な魔法を使い続けてくれたら、彼女の魔力が先になくなる)
私は息を吐き、魔法の杖に魔力を込めた。
そして ──。
「“ライト”!」
私がいる場所が明るく照らされ、それと同時に私にかかっていた影の魔法が消えた。
突如、目の端に現れた白い光にルカさんは驚いて顔を向けた。
その隙に、ノエルがまた杖に魔力を込めた。
「“ウィンド”!」
ノエルが風を操る魔法を放った。
ルカさんのものと比べると威力が劣っている。しかし、一陣の風はぶれることなく真っすぐにルカさんに向かっていった。
反応が遅れたルカさんは、飛び退いて、風を避けた。けれど、完全に避け切ることはできず、風はローブを破り、彼女の右腕に傷をつけた。
「この…ッ!」
思ったよりも深い傷だったらしく、ルカさんは魔法の杖を左手に持ちかえた。
(あれでコントロール力がかなり下がるはず…!)
その様子を確認しながら、私は光の魔法を解いて、走り出した。
わざと草にぶつかり、音を立てる。もちろん、ルカさんの注意を引くために。
「“ウィンド”!」
私がいる方角に向かって、ルカさんが風を操る魔法を放った。
けれど、私が走り回っていたのと、ルカさんが魔法の杖を左手に持ちかえたのも相まって、私には当たることはなかった。
風はまた木をなぎ倒し、土煙と地響きを起こした。
「“シャドウ”」
土煙と地響きが、皆の視覚と聴覚を奪う中、私はまた自分自身に影の魔法を使った。そして、息を潜めて身を隠した。
ルカさんはきょろきょろと辺りを見渡した。
「二人を相手にするのはさすがにしんどそうですね」
ノエルはあえて声を張って、ルカさんの注意を引きつけた。
彼の持つ杖の先端につけられたガーネットが光り輝いている。
「落ち葉よ、ルカさんを攻撃せよ! “プラント”!」
ノエルが再び植物を操る魔法を使うと、地面を覆っていた落ち葉がゆらりと浮いた。そして、まるでナイフのようにルカさんに向かっていった。
ルカさんは舌打ちをすると、それに対抗すべく、再び火を操る魔法を使った。
「“インフェルノ”!」
炎の柱が夜空に浮かぶ雲までもを赤く染めた。
一気に魔力を溜めたせいか、落ち葉を防ぐには過剰な威力だった。
(お願い、誰か気づいて…!)
そう願い、私は魔法の杖に魔力を込めた。
ルカさんもさすがに火を操る魔法を連発することはできない。そして、今は私の位置がわからない。ならば、攻撃対象は自ずとノエルになる。
ノエルとルカさんのガーネットが共鳴するかのように光り輝いた。
「木の根よ、ノエルを拘束せよ! “プラント”!」
先に魔法を放ったのは、簡単な魔法を選択したルカさんだった。
木の根が地面から盛り上がり、そしてノエルを拘束するために動いた。その木の根に向かって、私は魔法を放った。
「分解せよ、“アンロック”!」
木の根はノエルに届く前に威力を失った。その光景にルカさんが目を見開いたのと同時に、今度はノエルが魔法を放った。
「“ウィンド”!」
ルカさんは意表を突かれながらも、その身体能力を駆使して風を避けた。けれど、避けた先に地面はなく、背中から泉に落下していった。
上がった水しぶきが月光を浴びて、キラキラと輝いた。
的外れなほど、綺麗で静かな光景だった。
(やった…?)
一瞬、肩の力が抜けた。けれどすぐに力を入れ直した。
まだ、油断はできない。
私は僅かな変化も見逃さないように、注意した。
「ノエル、ルカさんの影の魔法に注意して!」
「わかった!」
ノエルにも忠告し、私は自分自身に魔法をかけた。今度は影の魔法じゃなかった。
「目覚めよ、内なる力。“チャージ”」
一番最近覚えた魔力向上魔法だった。
ぴちゃん、と水音が鳴った。それと同時に、泉の水が変貌し、まるで首の長い龍のように空を仰いだ。
(水を操る魔法だ…!)
かなりの魔力が込められている。しかも、泉の水が威力を底上げしている。
水の先端はノエルを睨みつけ、襲いかかった。
「“シールド”!」
防御魔法を使い、ノエルの前に透明な盾を作り出した。
水が盾にぶつかる。まるで建物を削るかのような大きな音が辺りに響いた。
魔力向上魔法で防御魔法の精度を上げた。それでも、最後の最後、水は盾を壊し、ノエルを飲み込んでいった。
「ノエル…!」
思わず声を上げ、彼がいた場所に駆け寄る。かなり吹き飛ばされてしまったのか、ノエルの姿は見当たらなかった。
「 ── あと一人」
背後からそんな呟きが聞こえ、私は慌てて振り返った。
ガーネットの赤い光が視界を覆った。
「“ウィンド”」
淡々としたルカさんの声が、呪文を唱えた。それに反射的に強く目を閉じた時だった。
「“シールド”!」
私のものでも、ノエルのものでもない声が響いた。




