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トリンケットボックスの原石たち:魔術学院寮長殺人事件  作者: 青ノ さと


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25/28

25:最終決戦

 私たちは身を隠しながら、簡潔に情報共有をした。内容は、お互いに何の魔法が使えるかだ。

 ノエルが使えるのは、風を操る魔法、植物を操る魔法。そして、サポート魔法だと、浮遊魔法と光の魔法。

 対する私は、攻撃魔法が一切使えない。代わりにサポート魔法だと、魔力向上魔法、解除魔法、防御魔法、影の魔法、浮遊魔法、光の魔法、それらの六種類を使うことができる。

 そして、ルカさんが使える魔法は噂で聞いた内容を信じるならば、火を操る魔法、水を操る魔法、風を操る魔法、植物を操る魔法、影の魔法、浮遊魔法、光の魔法の七種類だ。


「ノエル、ルカさんから魔法の杖を奪うことを目標にしよう。それと、無理に攻撃しようとしないで」

「うん、わかった。大事なのは長く戦うことだからね」


 おそらく、ルカさんを倒すことは不可能だ。負傷させることすら、難しいかもしれない。

 けれど、私たちがすべきことは、戦いに勝つことではない。助けが来るまで生き延びることだ。

 それを再度確認し合うと、ノエルはわざわざ魔法の杖を持ちかえて、右手を差し出してきた。


「よろしくね、エンネ」


 ノエルの顔はいつもよりも強張っていた。おそらく緊張しているのだろう。

 圧倒的に不利な状況なのだから仕方がない。けれど、上がった口角からは絶望を感じなかった。


「俺たちならきっとやれる」


 その言葉に、無意識のうちに狭まっていた視界が広がっていくのを感じた。


「うん。よろしく、ノエル」


 私のパートナー。

 そう心の中でつけ足し、私も魔法の杖を持ちかえて、利き手で彼の手を握り返した。

 ノエルは握手した手にぎゅっと力を入れたあと、名残惜しそうに手を離した。そして、私を残して草陰の中から飛び出した。


「蔦よ、ルカさんを捕らえよ! “プラント”!」


 ノエルの声が響くと同時に、彼にかかっていた影の魔法が消えた。

 ルカさんはすぐさま振り返り、襲いかかってくる蔦を睨みつけた。


「落ちよ! 赤き怒り! “インフェルノ”!」


 ルカさんのすぐ近く、地面から炎の柱が生まれ、空ともども襲いかかってくる蔦を焼き尽くした。


(あれが火を操る魔法…!)


 私はいまだに身を隠しながら、その光景に呆然とした。

 同級生に火を操る魔法が使える生徒はいない。だからこそ、実物を見るのは初めてだった。


(あんなにも威力があるんだ。下手をすれば火事が起こる)


 マッチの火ほどのものを想定していたわけじゃない。けれど、あんなに広範囲を焼き尽くすものだとも想定していなかった。


(さすが、最高難易度の攻撃魔法)


 一部の魔法使いしかたどり着けない境地だった。

 ルカさんの強さを痛感すると同時に、彼女が冷静ではないことも再確認した。


(圧倒的な差を見せつけて、私たちの心を折ろうとした可能性もあるけれど…)


 蔦を防ぐのであれば、風を操る魔法で十分だった。


(このまま、高火力な魔法を使い続けてくれたら、彼女の魔力が先になくなる)


 私は息を吐き、魔法の杖に魔力を込めた。

 そして ──。


「“ライト”!」


 私がいる場所が明るく照らされ、それと同時に私にかかっていた影の魔法が消えた。

 突如、目の端に現れた白い光にルカさんは驚いて顔を向けた。

 その隙に、ノエルがまた杖に魔力を込めた。


「“ウィンド”!」


 ノエルが風を操る魔法を放った。

 ルカさんのものと比べると威力が劣っている。しかし、一陣の風はぶれることなく真っすぐにルカさんに向かっていった。

 反応が遅れたルカさんは、飛び退いて、風を避けた。けれど、完全に避け切ることはできず、風はローブを破り、彼女の右腕に傷をつけた。


「この…ッ!」


 思ったよりも深い傷だったらしく、ルカさんは魔法の杖を左手に持ちかえた。


(あれでコントロール力がかなり下がるはず…!)


 その様子を確認しながら、私は光の魔法を解いて、走り出した。

 わざと草にぶつかり、音を立てる。もちろん、ルカさんの注意を引くために。


「“ウィンド”!」


 私がいる方角に向かって、ルカさんが風を操る魔法を放った。

 けれど、私が走り回っていたのと、ルカさんが魔法の杖を左手に持ちかえたのも相まって、私には当たることはなかった。

 風はまた木をなぎ倒し、土煙と地響きを起こした。


「“シャドウ”」


 土煙と地響きが、皆の視覚と聴覚を奪う中、私はまた自分自身に影の魔法を使った。そして、息を潜めて身を隠した。

 ルカさんはきょろきょろと辺りを見渡した。


「二人を相手にするのはさすがにしんどそうですね」


 ノエルはあえて声を張って、ルカさんの注意を引きつけた。

 彼の持つ杖の先端につけられたガーネットが光り輝いている。


「落ち葉よ、ルカさんを攻撃せよ! “プラント”!」


 ノエルが再び植物を操る魔法を使うと、地面を覆っていた落ち葉がゆらりと浮いた。そして、まるでナイフのようにルカさんに向かっていった。

 ルカさんは舌打ちをすると、それに対抗すべく、再び火を操る魔法を使った。


「“インフェルノ”!」


 炎の柱が夜空に浮かぶ雲までもを赤く染めた。

 一気に魔力を溜めたせいか、落ち葉を防ぐには過剰な威力だった。


(お願い、誰か気づいて…!)


 そう願い、私は魔法の杖に魔力を込めた。

 ルカさんもさすがに火を操る魔法を連発することはできない。そして、今は私の位置がわからない。ならば、攻撃対象は自ずとノエルになる。

 ノエルとルカさんのガーネットが共鳴するかのように光り輝いた。


「木の根よ、ノエルを拘束せよ! “プラント”!」


 先に魔法を放ったのは、簡単な魔法を選択したルカさんだった。

 木の根が地面から盛り上がり、そしてノエルを拘束するために動いた。その木の根に向かって、私は魔法を放った。


「分解せよ、“アンロック”!」


 木の根はノエルに届く前に威力を失った。その光景にルカさんが目を見開いたのと同時に、今度はノエルが魔法を放った。


「“ウィンド”!」


 ルカさんは意表を突かれながらも、その身体能力を駆使して風を避けた。けれど、避けた先に地面はなく、背中から泉に落下していった。

 上がった水しぶきが月光を浴びて、キラキラと輝いた。

 的外れなほど、綺麗で静かな光景だった。


(やった…?)


 一瞬、肩の力が抜けた。けれどすぐに力を入れ直した。

 まだ、油断はできない。

 私は僅かな変化も見逃さないように、注意した。


「ノエル、ルカさんの影の魔法に注意して!」

「わかった!」


 ノエルにも忠告し、私は自分自身に魔法をかけた。今度は影の魔法じゃなかった。


「目覚めよ、内なる力。“チャージ”」


 一番最近覚えた魔力向上魔法だった。

 ぴちゃん、と水音が鳴った。それと同時に、泉の水が変貌し、まるで首の長い龍のように空を仰いだ。


(水を操る魔法だ…!)


 かなりの魔力が込められている。しかも、泉の水が威力を底上げしている。

 水の先端はノエルを睨みつけ、襲いかかった。


「“シールド”!」


 防御魔法を使い、ノエルの前に透明な盾を作り出した。

 水が盾にぶつかる。まるで建物を削るかのような大きな音が辺りに響いた。

 魔力向上魔法で防御魔法の精度を上げた。それでも、最後の最後、水は盾を壊し、ノエルを飲み込んでいった。


「ノエル…!」


 思わず声を上げ、彼がいた場所に駆け寄る。かなり吹き飛ばされてしまったのか、ノエルの姿は見当たらなかった。


「 ── あと一人」


 背後からそんな呟きが聞こえ、私は慌てて振り返った。

 ガーネットの赤い光が視界を覆った。


「“ウィンド”」


 淡々としたルカさんの声が、呪文を唱えた。それに反射的に強く目を閉じた時だった。


「“シールド”!」


 私のものでも、ノエルのものでもない声が響いた。

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