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「それなら魅了にかからないようにしようぜ!」  作者: イチイ アキラ


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09 ゴリラって褒め言葉だよね。


 そういえばゴリラって頭も良いんだっけ。

 森の賢者って呼ばれているんだっけ。あれ、オラウータンだっけ? あれ?

 メルヴィンはそんなことを思い出していた。


 うん。ゴリラって褒め言葉だよね。




「ふんっ、ふんっ、ふんっ」

 木刀を持って素振りしている赤みある黒髪の少年。

「……十歳児でその太さだったんだぁ」

 子供が振るうサイズではないそれ(・・)。昔、何だったかの漫画でみたっけなあ。

 メルヴィンはちょっと前世に記憶を飛ばしつつ。

 彼は握りから上はもはや棍棒な木刀で素振りをしていた。


 テオドール。

 彼はメルヴィンたちより四つほど年上だ。


 そして彼も攻略対象の一人だ。

 年上の筋肉枠。ならば脳筋枠だろう、と――……。


「男児たるものっ、十歳にもなればっ、このくらいはっ」

 テオドールは見学に来たという尊き御二人に、模範として素振り稽古を披露した。

 愛用の木刀は、少しづつ重さを増やし……今や棍棒。


 攻略対象其の四――だろうか。順番があるのかどうかそのあたりは記憶があやふやなメルヴィンだ。いつか読んだはずの攻略本がほしい。

 一番手を王道ルート王太子レオナルド。

 二番手を悪役令嬢の兄枠と高位貴族枠を兼ねるメルヴィン。

 三番手を王宮付き――。

「そういやあのロリ――ンンン、ジスランは魔力上がらないと登場しない中盤キャラだっけ」

 ならば彼の方が順番的には三番手、だろうか。自分たちより四つ程度上ならまだ範囲内。ジスランと同類とは呼ぶまい。教師でもないし。


 テオドールは騎士団長の息子だ。

 将来は王太子の近衛騎士として抜擢され、学園に通うレオナルドに付くことになる。

 剣の才能ある彼。年が近い護衛もいた方が良いだろうという理由から近衛騎士に。


 ゲームの舞台は主人公が入学してから始まる。

 主人公と悪役令嬢はともに一年生。

 メルヴィンとレオナルドは二歳年上なので、三年に在学するときだ。


 そして年上のテオドールは先に卒業しているが、レオナルドに付くために学園に共に通うことになる。

 そういう設定なのだ。

 だから彼は作中で制服ではなく、近衛騎士の姿で描かれていた。

 年上の筋肉枠。まさに。

「いや、すでに筋肉完成してない?」

 つい先日も素晴らしい肉体美を拝んだばかりだが。完成形はあれ(・・)か。

 自分たちは、まだまだ、これから。これから。

 レオナルドがそっと自分の二の腕と腹を擦ってる。だからこれからだって。


 メルヴィンとレオナルドは同じように「魅了」にかかる対象に会うことにした。

 ジスランとは先んじて会う――仕事をやらせる必要があったので。


 何故、ゲルトルーゲたち有名な魔法使いを抱える帝国で全部やってもらわないかというと。

 如何に皇帝のお気に入りな姪っ子の縁としても、やはり「一属国にすぎない国の子供が夢をみた」。その程度にすぎないからだ。

 そんな程度に帝国の魔法使いたちを動かすわけにはいかない。

 ゲルトルーゲが「暇だから」という形にして、知り合いだった母に会いたいしという名目で寄越してくれたのも御の字だ。

 

 そして会う口実が作りやすかったのがテオドールだ。


 その口実――突撃、隣の騎士団長宅!


「いや、割と無理くりな理由だけどね」

「騎士たちの見学したいって、俺たちならではだよな」

 少年とは時に物語の騎士に憧れるもの。

 彼ら自身は守られる側だから、騎士にはなれないのが可哀想だから。そういう、「高い身分故に就けないお仕事」もあるのだと、前世一般庶民なメルヴィンにはちょっとカルチャーショックだったが。

 だから今の子供なうちならではのおねだりを、だ。

 やがて成長したら「見学」は「視察」というもっとややこしいものになる。

 騎士団長のご自宅は若手騎士たちの

寮や修練場のお隣だった。それは監督役というのもあり。

 騎士団長の息子であるテオドールは当然こちらに住んでいて。

 ちなみに騎士団長は世襲制ではないらしいので、テオドールの父が引退したらここから出て行かねばならないそうだ。

「きちんと住宅手当あるのかな?」

 そのあたりはまだまだわからない少年たちだ。きっと親たちが何とかしているのだろう。それがきっと人を雇うということ。


 ちなみに騎士を目指す少年たちには、いつか騎士団長になってあのお家で暮らすんだ、という目標にもなっているそうな。

 夢があるって良いね。


 そうしたことで「騎士団長さんの息子さんにもお会いしたいでーす」「腕前は常々、お噂聞いてまーす」「将来お世話になると思うんでぇー」と、若手たちの見学ついでというていで来たわけだ。


 あんまり「魅了」と騒ぎになるのは避けたいので。


 そうして、彼と会えた二人だったのだけど……。


「なるほど、魅了ですか……」


 テオドールはメルヴィンが「夢でみた」ということを真面目に聞いてくれた。冷やかしたり馬鹿にしたりしないで。

 あの王宮付き魔法使いはあの後ゲルトルーゲにも尻を蹴飛ばされたのに。

 テオドールは二人に頭を下げた。

「では、当方は役には立てません」

 判断が早い。

 え? とする年下の王子たちに、テオドールはまた真面目に申しわけなさそうに。

「私は魔力より剣術を。魅了と言われても分野外。せっかく会いに来てくださったのに解決策も思いつきません」

 謝らないでと慌てることになるのは二人の方だった。

「しかも魅了に抵抗できるほど魔力もありましょうか……己が情けないです」

「あああ、あの、あの、君だけじゃないから!」

「対抗策、僕らで何とか! 今もう魔法使いたちが頑張ってくれているから!」

「そうでしたか。ありがたいことです」

 謙虚。そして礼儀正しい。

 あの魔力自慢の王宮付きとの違いよ。


 テオドールも魔力はあるにはある。

 しかし、剣術優先なのだ。

 騎士団は基本的にそうした男たちの組織だ。女性もいるが。

 その分、魔力が強い者たちは魔法使いとなる――魔法師団だ。

 そう、ジスランも一応は魔法師団で優秀だったから王宮付きとなっていて。

 そうしたところもゲーム設定にあったなとメルヴィンは薄っすら思い出した。

「私は多少の治癒魔法程度でして……」

「え、それだけでもすごいから」

 魔法が使えない騎士もいる中、治癒が使えるのはすごい。

「ですが、多少の擦り傷や捻挫を治せる程度で……」

「充分すぎる!」

 謙遜するテオドールだが、彼が将来近衛騎士に抜擢されるのは、なるほど魔法も使えるからか、と。

「レオナルドがケガとかする可能性あるもんなぁ……」

「嫌だよ、俺ケガするの!?」

 まさかそれも夢でみたのかとレオナルドに首をガクガクされつつ。

「私にできるのはこのまま鍛錬することくらいしか……すみません」


 しかし二人はテオドールにはそれで良いと解った。 

 やっぱり会いに来て良かった。

 彼も魅了の被害者にしたくない。


 むしろ二人の方がそうした気持ちに。


「うん、テオドールはこのまま頑張ってくれ」

 彼の場合は魅了で厄介で下手な先入観を入れないで、このまま鍛錬を続けてもらって優秀な近衛騎士になってもらう方が良い。

 彼も魅了にかからないように、自分たちでなんとかしよう!

「魅了とかのはこちらがなんとかするから。任せて!」

 むしろ変なこと言いに会いに来てごめんなさい、だ。


「……ねぇ、テオドールて、なんかカッコよかった」

「うん、筋肉だけじゃなかったね」


 テオドール、脳筋キャラじゃなかったとメルヴィンは一人反省だ。彼は自分の得意不得意をきちんと把握していた。

 年上の筋肉キャラって良いな、と……恋愛ゲームしていた妹たちの気持ちがちょっと解ったメルヴィンだ。

 自分は恋愛じゃなくて憧れだけど! これ大事!




 けれど、二人が会いに来てまた彼も――良かった、ことになるのだろうか。

 わずか数年後だ。

 予定より早くテオドールは近衛騎士になっていた。設定では確かレオナルドの入学に合わせてだったはずなのに。

「御二人のお言葉で未来が心配になり、さらに精進し、魔力も高め、飛び級をして騎士団にて推薦を頂戴してまいりました! 人体について勉強し、治癒の方も上達を。今では骨折なども……」

「骨折治せるの!? そのレベルまで魔力も!? もう魔法師団にも入っちゃいなよ!? 給料倍出すから!」

「はい、王宮にいらっしゃるゲルトルーゲ様にもそのように褒めていだきました!」

「もう顔見知り!? だよね、その筋肉、絶対同類だよね!? かっこいいよ!?」

 テオドール、本当に優秀な近衛騎士であった。

「ゲームの設定よりも優秀キャラなんだけど……」

 これはメルヴィンが夢みたことで、自分たちが未来を変えてしまったことの明らかな、だ。

 結果オーライなのかしらと、メルヴィンはやっぱりテオドールをかっこいいと思うのだった。



 ――妹一号の推しキャラだったし。(血涙)



 自分で治癒できる前衛キャラって良いなぁと、常々…。


 ところで「こんなシスコン兄貴いるかい!」と思った方にはもっとすごい「シスコン番長」がいるゲームおすすめしてもよろしいでしょうか。もうすぐリバイバル発売するんです。我が神ゲー。


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