08 未来の役立たず一等賞。
「働けー!」
この度、少年たちに目出度く尻を蹴飛ばされたのは王宮付き魔法使いその人だった。
彼はジスラン。
メルヴィンの前世の記憶がささやく通りならば彼もまた攻略対象である。
が。
今のところは。
「王宮付き魔法使いのくせしやがって、何お前も魅了にかかってんのさ!?」
である。
だって王族に災いないようにと雇われている存在なのである。
それが彼は、いや、彼も、であるのか。自分たちを棚に上げてはならない。
ゲームが始まれば中盤にて彼は王宮付き魔法使いとして。王太子のレオナルドが在学するために、王宮より魔法の特別講師として招かれるようになるのだ。
優秀だが変わり者の魔法使い枠、だ。
だが今は王宮付き魔法使いになったばかりの男である。
「な、何するんだ……ですか?」
蹴ってきたのが王子と下手をしたら血統は王子より上の公爵子息だ。ジスランは渋々敬語に語尾を直している。王宮付きとして、変わり者でもそれくらいの分別はしているようだ。何せお給料は王宮からもらっているわけだから。
けれども目が言っている。「このクソガキども」と。
そうだったこいつ、天才て呼ばれてやがった。
メルヴィンは妹たちがテレビを占領中に読んでいた攻略本を思い出す。
ジスランはプライド高く偏屈で――そんな彼の興味を引くのが魔力高い「主人公」で。彼の偏屈な性格を気にしないでくる年下の主人公に彼はやがて……。
……年下?
「あ、ロリコン!?」
ジスランは現時点で二十歳前後。王宮に就職しているので成人しているのは当たり前。
それが一回りは年下の「主人公」と――!
そんなやつを妹に近づけるのは嫌だとメルヴィンは即座に警戒に入った。もう一回蹴りつけたい。
だって学園に教師として招かれるのに「主人公(生徒)」と恋に落ちるのである。
「あ、恋に落ちる同罪にならないためにここに来たんだっけ……」
ふぅ、と大きく深呼吸だ。棚上げ棚上げ。
それに現時点は幼女な妹と主人公だが、物語の舞台は十年以上後だ。その頃は妹たちも幼女から美しく成長しているところ。ロリコン扱いはまだ非道いかもしれない。
この時、主人公に対してそうした面では妹と同じく保護対象に入れたメルヴィンだ。そのあたりは人道外れたらならない。
それは、それ。
前世も歳の離れた妹たちがいたため、そのあたりは過敏になるメルヴィンだ。
妹たちの帰りが遅くなるときは絶対に送り迎えしていましたが何か? その時家が近所の子供たちも一緒に。それは兄として、年長者として――人として。
「だが、役立たずは確かだけどな」
「さっきから君はなんですか、失礼な」
失礼すぎるところではあるが。
まだ始まっていないのにそうした目は駄目だよなとメルヴィンも反省だ。
ジスランは水色の髪に神秘的な紫の瞳の美青年。現時点でこれだ。
ゲーム時は魔法使いらしく年齢不詳な見た目の美形枠でもある。
ちょっと年上の怪しい美形枠が、ゲームバランスとしても必要だったのだろう。
攻略対象は他にも毛色違いが必要なのだろう。皆同じでは攻略しがいがないのだから。
そこはわかるが、こうして年齢差や生徒に手を出すとなると話は別じゃんと、メルヴィンの同じく成人男性で真っ当な人間性が脳内でレッドカードをばら撒きまくる。
「……まぁ、これからだよな」
「だから何なんだよ……」
ブツブツ言うメルヴィンにジスランもブツブツ……一々反応するあたり、案外耳は良いようだ。
「さて、今日から貴方にはお仕事きちんとしてもらいます」
「働け」
メルヴィンとレオナルドに指を突きつけられて。
「……はあ?」
いや、働いているが、とジスランの心の声が聞こえたがそこは無視。
確かにお国からのお仕事はしているだろう。でなければ給料泥棒としてもう一回蹴っ飛ばす。だってそのお給料、税金から出ているんだもん。
「そのためにお呼びした方がいます!」
ダララララと太鼓を叩きたい気分でメルヴィンは登場を待っていていただいたその方を。
「帝国の宮廷魔法使いのゲルトルーゲ様です!」
――カッ。
そんなヒールの音を響かせて。
「……よろしくね、坊や?」
赤毛に緋色の瞳の妖艶な美魔女が――文字通り魔法使いで魔女であるが。
美貌は間違いなく。
背も高い。
全体的にゴツ――たくましい。
スリットからのぞく美しい脚線美は鍛えられ――うん、美しい。
ゲルトルーゲ。
彼女こそ母フロレンツィアが伯父である皇帝に伝手を頼って招いてもらった存在。
帝国でも三本指に入る魔法使いである。むしろ他の二人から尊敬されるほどの存在。
幼い頃から母も知り合いらしい。
「ちょっとクセはある奴だけど」と皇帝からの紹介状にはあったが。
姿をみたらその「クセ」は一目瞭然でした。
けれど、彼女に比べたらこんな属国の王宮付きなんて吹いたら飛ぶレベル。
「ゲルトルーゲ……爆炎の、緋色のゲルト?」
ジスランも唇を震わせながら。魔法使いである彼こそ目の前の存在のすごさがわかるのだろう。
緋色のゲルト。
かつてあった大戦で爆炎とともに戦場を駆け抜けた伝説の魔法使いである。
現在は皇帝に招かれ帝国の宮廷付きとなっているが。
「私、暇してたのでちょうど良かったのよ」
有能ゆえに、暇持て余し、というやつらしい。
「さぁて……魅了を予防するものの開発がお仕事よ、坊や」
「え、魅了?」
ジスランは「は?」という何度目かの顔をした。
「そんなもの、魔力の高い私が――ぶべっ!?」
気がついて解除すれば良いと言いかけた彼の口を、アイアンクローでゲルトルーゲは黙らせた。
「魔法使いを黙らせるには腕力よ」
と、ゲルトルーゲは笑顔で語る。
そしてその一瞬で間合いを詰めた瞬発力も。ヒールで。お見事です。
魔法使いだからこそ。己の弱点を対処したからこそのその肉体美。
純粋な暴力はやはりすべてを納得させる。
戦場育ちは説得力ありまくり。
実戦をこうしてこの国の未来を支える少年たちに指導し見せながら。
彼女にはすでに話してある。
将来、ジスランこそがその「魅了」にかかるのだと。
それを防ぐ側なのに。そのためにある「王宮付き」の肩書きなのに。
「良くって? これから魅了を防ぐ魔法から護符などの開発が私たちのお仕事よ? 尋ね返さないで、ね?」
にっこりと。
「返事は「はい」か「了解」だけ、よ?」
これからジスランは、少年たちに尻を蹴飛ばされたのはまだ優しかったと思い知るのである。
「あなた、ちょっと鍛えてあげるわ……性根も」
しかして「かつての大戦」である。
伝説通りならばすでに百歳を越えるはず。けれども彼女はまだまだ四十路にも――ンンン、年齢を言うのは失礼というもの。それもまた野暮の極み。
だってロリコン野郎に対抗できる人材を送ってもらいたかったので。
他の男性魔法使いだったら魅了の二の舞かもだったし。
自分のところの王宮付き魔法使いを頼りたくても、そいつがアレだったので。今も軽んじたこと言いかけやがった。アイアンクローかっこいい。
対抗対策できる相手どころか、とんでもない伝説級を送ってくれた。
大伯父さま、わかってますね。
メルヴィンは遠い帝国に向かい手を合わせる。
それに彼女なら主人公の「魅了」にかかりはすまい。
……でも。
「魅了、物理で跳ね除けるのできそう……」
「それね」
そう小声でいうレオナルドに、メルヴィンも小さく頷いた。
やはり筋肉はすべてを解決な、あれ。
後方支援役がいざとなれば前衛バリバリできる人だったとか、そういうの。浪漫。
封神演義の某美人三姉妹さんとか、とても好き。
某ニチアサの傭兵さんでパティシエさんもめちゃんこ好きなのが僕。




