07 政略は続くよ。藪蛇つんつん。
帝国の血を引く母の血筋をこの国が迎え入れたいという、そんなところもえ見え隠れしているならば。
王家に姫が産まれていたらきっと血統的に、メルヴィンこそが王家に婿入りし――帝国としては、そうしたかっただろう。
そして。
「つまり僕が女だったら、僕がレオナルドの婚約者になっていたわけだ」
「やだー!」
「おま……即答すんな!」
すぐさま悲鳴めいた声を挙げた友に頬を引きつらせつつ。
まぁ、それだけレオナルドはオーレリアが良いというわけだからぐっと我慢をしてやりつつ。
オーレリアは金髪の母から髪色こそは受け継がなかったが、大伯父である皇帝や帝国の祖母などから「幼いころのフロレンツィアと瓜二つ」と遠くから可愛がられるほどに。
そう、お忍びで祖母と遊びにくる「大伯父ちゃま」こそ、皇帝陛下そのひとだったんだと、メルヴィンは前世を思い出してそわっとしている真っ最中。
ちなみにメルヴィンも可愛がってもらって――抱っこしてもらっているときにお膝でお漏らししたことあるらしいけど記憶にございません! 許して!
帝国の一属国にすぎないこの国にとっては、棚からぼた餅すぎるフロレンツィアだったわけなのだ。
おかげでこの国は属国ではあるがなかなか良い立場に。それは可愛がっている姪が幸せであるようにと――大事にせえよお前ら、とされているわけで。
公爵子息を帝国に留学させたら、海老で鯛どころか鯨をつれて来ちゃったと、きっと大変だったろうなと、大学生だった経験から合掌してしまう。それが父母だ。今は領地にいるおじいさんおばあさん、お疲れ様でした。
そんなフロレンツィアでさえ婚約者の見極めが大変だったのだ。
母が苦労した経験を踏まえて。
だからこそオーレリアにははじめからこの国の「王太子」という婚約者を当てることに。
つまりは一番上を。レオナルドこそがオーレリアの虫除けなわけだ。かわいそうだから互いに虫除けの良い関係としておいてあげよう。
下心ある者たちからあれこれ来ないように、と。
恋愛結婚をした父母は少しばかり悩ましいようだが。
娘にも好きな人と結婚させてあげたかったと。
娘だけでなく息子にも……なのだが。
ちなみにメルヴィンには婚約者がまだいない。
普通は長男にこそ虫除け――いや、それはやはり女性には失礼すぎるが、考えるものではないだろうか。
そのところをこうして前世を思いだすまであまり気にしていなかったメルヴィンだが、妹や友人の、そして父母のことをみて気になって。
するときちんと理由があった。
王家にレオナルドと弟と、まだ王子しかいないことがまず第一に。
もしも姫たる存在が産まれていたらまた関係が変わるために。
そうしてこちらが大きな理由。
父が帝国に留学して母に出会ったように。
メルヴィンも他国に留学する可能性があり。むしろ帝国の祖母や大伯父からは留学してこいと今から圧が。
それは低くもメルヴィンにも帝国の継承権があるからだ。
そうしたら出会いが増える。
またおなじように恋に落ちるかもしれない。
その時に婚約者がいたら。
留学することにより、婚約者の令嬢をその留学期間中またせることになる。
「私には婚約者はいなかったが、何故か婚約者気取りの幼馴染がいてな……いやお父さんにはまったくそんな気は、本当にぜんぜんっ。本当にまったくっ。むしろ帝国に留学したのも……うう……」
――おぉっと。
父と母の浪漫にはまだまだなにかありそうだ。つついたらいけない系の。藪蛇藪蛇。
父には婚約者はいなかったが、それを頼んでいないのに自称すような何かしらがいたようで。
メルヴィンにはそうした厄介な存在がいないのはありがたいばかりだ。
それは父が自分のようにはと、息子の周りに気をつけていてくれたからだ。そんな厄介な歴史を繰り返さないように、と。
だからメルヴィンの幼馴染はレオナルドだけで――レオナルドの幼馴染も、また。王家もまたレオナルドにダスティン王以外のやらかしを伸し掛からせたくなかったために。
――までが、とりあえず、だ。
この国の「王太子」が「オーレリアの婚約者」と決まっている以上。
今後、もしも他の国と政略を繋ぐことになったら。
そのためにこの国の王子たちの席が既にオーレリアで埋まっている以上は。
王家に近しい公爵家たちが引き受けることになる。
そうした理由もまたあるのだ。
幸いなことにこの国は帝国の覚え目出度く、今のところはそうした国同士の話は表向きは出てきていない。来ているものは藪蛇を察しできていないと、こちらからお断りするような国ばかり。つついたらいけないものがここにも。
おかげでメルヴィンはゆっくり相手をみつけることができそうです。
それに妹の幸せと結婚優先で。ここ大事。それなら自分のは後回しで良いです。
……彼女なし年齢だった自分には、ひっそりと婚約者という響きにドキワクしていたのだが。
ゲームでメルヴィンルートでもオーレリアが悪役枠、障害枠だったのは、つまりは相手たる婚約者がまだまだいなかったからだったのだ。
そうした理由から、父母はオーレリアに恋させてやれなかったと悩ましいようだった。
しかしそれもこの数年は心穏やかになっているようだ。
メルヴィンが悟らせたことにより、そしてレオナルド自身がオーレリアに恋をしている様子に。
オーレリアが将来「こいつ生理的に無理」とレオナルドに言わない限りは――。
この国も幸いだ。ダスティン王の二の舞を演じることなく――演じることなどできようがない、最高な婚約者を与えられたのだから。
それなのに――もしも。
「……つまり、オーレリアに婚約破棄とか言う権利、俺になくない?」
「ないよ」
「……そんなことしたら俺、つかこの国、帝国に喧嘩売ることにならない?」
「なるよ」
「ぃゃー……」
とうとうレオナルドは蚊の鳴くような声に。
「僕もオーレリアを……妹を蔑ろにしたら、さすがに……」
皇帝と母の、ちょっと怖い方の笑みを思い出すメルヴィンだ。彼にもその血が流れている笑み。
少年たちは改めて。
「魅了にかからないようにしようぜ!」
こうした裏設定がある世界感です。伏線風呂敷広げ広げ…ここまでまずはお付き合いありがとうございます。
次より攻略対象(?)




