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「それなら魅了にかからないようにしようぜ!」  作者: イチイ アキラ


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06 父と母と政略と恋。


 政略、とは。

 メルヴィンとオーレリアの母フロレンツィアは帝国の公爵家の生まれである。

 しかもその母は皇帝の妹であり、彼女自身も皇帝の姪としてたいそう可愛いがられていた。

 属国の国にしてみたらとっても上のお方である。


 そんなフロレンツィアがどうして属国の国に嫁いだというと――そこは政略ではなく、帝国に留学していた父と出会い、恋に落ちたからだという。

 しかもなかなか、こちらもまた物語となり、帝国では演劇にもなっているという浪漫ある出来事だったらしく。


 フロレンツィアは皇帝の姪としてたいそう可愛がられていたのは何度でも繰り返し記せるほどに。

 そんな彼女だから求婚者はあふれるほどに。それこそ産まれた日から。

 それは皇帝の一族に名を連ねたいという下心あるものまで。

 なので母は、皇帝たちは、一つ頭を突き合わせて案を出した。


 フロレンツィアは帝国の学園入学中は身分を隠し、とある田舎出身の子爵令嬢として通うことにした。

 その子爵家にはかねてよりフロレンツィアの護衛となるために日々鍛錬をしている少女がいた。

 帝国にはそうした「影」なる家々があり。

 その家名を借りつつ、護衛である少女の年子の姉妹として。姉妹ならば常々一緒にいてもおかしくはなく。

 そうしてフロレンツィアは野暮ったい伊達眼鏡などでその美貌を隠し、子爵令嬢に合わせた黒髪に染めて地味に変身し。平穏に学園生活をおくる――はずだったのだが。


 そうした田舎の、今まで帝都に出てこなかったような下級貴族の少女を虐めたり、からかったり。果ては手籠めにしようとする輩がいたのだ。

 フロレンツィアのおかげでその代の貴族子息たちはだいぶ篩にかけることができたなぁと、伯父である皇帝は笑うことに。

 中にはフロレンツィアの嫁入り先にどうかなどと考えている家のものまでいたらしく。そのあたりは少し怖い笑みをなさったそうだ。

 そんな中、属国からの留学生であるのにフロレンツィアたちを助けてくれた青年がいた。

 それがアレクシス。

 メルヴィンの父だ。

 自分たちより権力がある不埒者に、時に真っ向から。時に搦め手で。彼女たちを庇ってくれたのだ。

 そりゃ惚れる。

 皇帝たちは属国の小さな国に可愛い姪を嫁に出すのを渋ったが、フロレンツィア自身がアレクシスに惚れてしまったのもある。

 今ではきちんと、フロレンツィアの夫と認めてもらえているアレクシスだから良かった。しかもアレクシスが優秀だから、帝国に来ないかと内密に皇帝からもお誘い話が来たくらいに。

 国のために公爵子息として勉強に来ているのにそれはちょっと、と。当たり前のお断りを皇帝が頷いてくれてよかった。それもまた何かの試しだったのかと、いまだにそわっとすると父は首すじを撫でる時がある。


 そしてアレクシスは属国とはいえ公爵家の跡取りだ。帝国の田舎の子爵家の娘では彼の方が身分ははるかに高かろうに。

 それでも別け隔てなく、身分隠したフロレンツィアにも優しく紳士であったことに。


 ――帝国の下心ある紳士たちより、はるかに。


 むしろ身分明かしたフロレンツィアの為に属国の自分では釣り合わぬと、身を引いたアレクシスをフロレンツィアが追いかけ嫁いで来たのである。おまけに護衛であった黒髪の子爵令嬢がお供に――二人で関所越えしてそこは皇帝が大慌てである。姪っ子の恋による機動力がこんなにもすごかったとは、と。


 ちなみにメルヴィンが父親似で良かったと思うほどにアレクシスも顔立ちは整っており。

 銀髪青眼の美青年だった父。

 留学生と仲良くする田舎貴族娘と、そうしたところで高位貴族の娘たちから嫌がらせをうけ――またそこにも篩が。

 皇帝(伯父様)、それもきっと、帝国の膿出しもしたわ。私を使って一石二鳥だったのよね。

 と、母は思い出して笑うほど。それは伯父様に似たちょっと怖い笑みだった。さすが皇族。


 ちなみに演劇では「影」を隠すためにそのあたりは上手くぼかしてある。膿出しであったと気がつき、教訓にする貴族もいるそうだ。


 そしてその年子の姉妹として一緒に通った女性は今もフロレンツィアと一緒にいる。侍女としてついてきたビアンカが実は護衛だと知る人ぞ知る。

 メルヴィンは自分にも優しく、オーレリアを可愛がってくれるビアンカのその温かい手に剣ダコと拳ダコがある理由がそこにあるのだと薄々気が付きつつ。


 帝国の血を引く母の血筋をこの国が迎え入れたいという、そんなところも見え隠れ。

 これが大人の世界のあれやこれ。


 姉妹だけど双子じゃなくて年子だから顔立ちはそんなに似ていないのだけどという、無理矢理な言い訳と変装を使いつつ、でした。

 パパとママもある意味物語の主人公をしてきて。

 薄々お気づきでしょうがゲームなどの続編、「次世代」とか「子世代」とか、そういうの割と好きでして。今作はすっ飛ばして子世代を書いている所存。


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