05 好きな子はいじめたいは、早々にぶち折ってやってました。良し!
「オーレリア……その、かわいいし良い子……好き……結婚したい……」
レオナルドはオーレリアが産まれたときから自分の婚約者と決められたことに不満はないようだ。それはまだ幼いということもあるだろうが。
それでも見ていたらわかる。
レオナルドがすでにオーレリアに惚れているのを。今も顔を覆って白状しているし。その覆っている手も、見える耳も真っ赤。
そりゃあ、こんな美少女いないよな、と……。
しかもオーレリアは性格も良い。兄としてそこは後方腕組して頷いている。
むしろレオナルドは自分が「王太子」だからオーレリアの婚約者でいられるのだと、それに気が付き感謝した。
ちなみに「レオナルドが婚約者にならなかったらお前の弟が婚約者になるぞ?」と、メルヴィンが現実を教えてやったからだ。
昨年だったか。
オーレリアと婚約していることに胡座をかいてか。好きな子はいじめたい的なことでまだ三歳の妹にちょっと意地悪をしようとしたレオナルドに、それはしたらあかんと兄馬鹿が発動したのだ。
可愛い妹泣かす奴は婚約者にしてやらないぞ!
別にお前じゃなくても良いんだからな!
お前がただのこの国の王太子になる予定だからだ!
ただの王太子予定だから。
今まで王子として、王太子たる父の長男としてちやほやされていて、このように叱られたことのなかったレオナルドには衝撃だった。
もしも王太子になれなかったら――と、じわじわと涙目になりながらもはっとした目をしたレオナルドだった。
それからだ。彼がこうして恥ずかしながらもきちんと好意を口にするようになったのは。
「好きな子はいじめたい、ってのは……いじめられた子にはただのトラウマしかないやい。オーレリアが傷ついたらどうすんだ」
けっきょくメルヴィンには妹思いなそれしかなかったのだけれど。思えば薄々、記憶がよみがえりつつあったのか。
メルヴィンの言葉に、公爵家や王家の守役や護衛の皆さまがひっそりと頷いていた。
これはきっと、ゲーム中の過去にもあるまい。
彼がこんな素直な性格だったとは、ゲーム中の俺様気味な「王太子レオナルド」とはキャラクター設定違いだ。
もしもメルヴィンがこの時諌めなければ、オーレリアとの仲がこじれて――魅了にかかる隙が生まれたのかも、だ。
ちなみに外見は王道基本攻略対象ルートとして、金髪に青い目の美少年だ。
メルヴィンの青い目も、公爵家にはこの国の王家の血も流れているからだろう。
そうしたことで兄馬鹿として、夢でみる前よりすでに改変しかけていたメルヴィンの三つ子の魂なんとやら、だ。
レオナルドもメルヴィンに感謝していた。
幼くも現実を。
何より自分が「王太子」から外されたらこの愛しい婚約者は弟のものになってしまう。
――まさにダスティン王のように。
近くに控えていた守役や侍女たちも、はっとした。
彼らはよもや公爵子息が、そこまで知っているのかと。
彼らはメルヴィンがまだダスティン王のやらかしを聞く前だったと後に知り、それなのにここまで考えていることに感心したという。さすが公爵家の跡取りさまの教育はきちんとしていなさると。
これは親が「夢でみた」と、妹を蔑ろにすると彼が言うのを信じるわけだ。
むしろ王子がそれを知らなかったことにも。
この婚約がどれほど大切なことなのかを。
このことがあり、守役たちからの報告を聞いた王家はレオナルドに予定より先んじてダスティン王のことを教えることとなったという。
それもまたオーレリアが生まれながらにして「王太子」の婚約者である理由だ。
この国には三つ、公爵家がある。
一つはかつてダスティン王の婚約者となり、王弟の妃となり――現王の後ろ盾であるお家。
もう一つは一番歴史あり、建国時から続くお家。
そしてメルヴィンのコーディング家だ。
コーディング家は二家に比べたらまだまだ若い家とも言えるのだが、とある理由で帝国に縁強く、またその理由で今では二家よりも重要視される家だった。
王太子となるレオナルドの婚約者がコーディング家にあてられるのは順当なところでもあろう。
コーディング家と他の公爵家との仲も現時点では悪くなかったのも幸い。
むしろ一番歴史ある大きな公爵家はメルヴィンたちの父方の祖母のご実家で、親戚である。
こうした横の血統も大事なところで。
政略の理由。
そして先にもあった帝国と縁強い理由。
それはメルヴィンとオーレリアの母にある。
母の母は。
彼らの祖母は。
帝国の王族なのだ。しかも現皇帝の妹。
母はつまり、皇帝の――姪。
そしてこの国は帝国の属国である。
メルヴィンが前世の記憶を思い出して一番頭を抱えたところでもある。
「……政略結婚だったのに、自分よりある意味地位が高いオーレリアを断罪してどうすんだよおぅ」
ゲームクリア後は、果たしてどうなる国だったのだろうか。
もしも「主人公」が現れなかったら――ゲームが始まらなかったら……。
きっとそれが一番なのだろうけれど。
だから巻き込んでやり、二人で「魅了にかからないようにしようぜ!」と。
――ところで。
「あれ、僕……とんでもない血筋だな?」
六歳児だけど大学生の知識でアップデートしたメルヴィンは、それに気がついて――ぞわっとした。
公爵家には王家の血も入っていて。
この目の色はまさにこの国の王家の血を引く証のようなもの。
そして何より皇帝の姪の息子。
この国は帝国の――……。
「……もしかしたら、僕、レオナルドより……」
それは今はちょっと気が付かないふりをしたい、まだ六歳児であった。
今回から数話は風呂敷(伏線)広げです。覚えておいておくんなさいやし。
好きだからとちょっかい出すのは微笑ましく見えるかもだけど、やられる側にとっちゃ嫌なことでしかねぇですよねぇ。




