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「それなら魅了にかからないようにしようぜ!」  作者: イチイ アキラ


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10/14

10 影の一族(忍者な認識じゃだめ?)


 さてさて本日。

 メルヴィンはレオナルドと、そしてビアンカに同行してもらっていた。

 公爵家の大きく広いお庭に。


「ビアンカ、よろしく」

「かしこまりました若様」


 メルヴィンとレオナルドにはビアンカの手首が軽く翻った――だけにしか見えなかったのだが。

「びゃあっ!?」

 鳥の断末魔のような声をあげて、近くの木から何かが落ちてきた。

 それは黒装束に身を包んだ少年だった。

 ビアンカが手首のスナップを利かせて投げた石が彼にぶち当たったのだ。

 それが額に見事に命中し、目を回して隠れていた木から落ちたのである。

「さすがビアンカ」

「痛み入ります」


 ビアンカ。

 かつて母の護衛としてともにこの国に来てくれた女性である。

 現在は母の侍女として。

 そしてこうしてメルヴィンたちの子守まで。


 その生まれは帝国の――影の一族。


「やー……僕もう、親に助け求めてゲルトルーゲ様を呼んでもらえたので大勝利で、もうやること終わっても良い気がしてはいるんだけど」


 先日会ったテオドールのこともある。

 何も知らせずそっとしておくのもあり、だよね、と。


「でも放っておくのも気になるよね」


 ――手が届くところにいるのに。


 というわけで。

 気絶しているうちに身包み剥いで持っていた武器やら暗器やら、携帯食やらをぶんどられた少年が目の前でふてくされていた。

 顔を隠していた布さえ。

 忍者みたいとメルヴィンは思ったが、きっと誰にも伝わらないから飲み込んだ。

 彼はギリっとこちらを睨む。額が赤い。ナイフじゃないことを感謝しろとビアンカの目が言ってる。

 黒髪に黒目の、隠れるための黒装束を剥いでも平民の中に隠れられたら一見目立たなそうな色合いだが、その鋭い目つきはさすが「影」だ。

 見つかったことがやはり不満だったらしい。蝉のごとく木から落とされたことも。

「若様になんて目です」

 不敬。

 ビアンカがベシッと引っ叩いた。

 とうとう黙っていられなくなったらしい。

 ひえっと、小さく悲鳴をあげたのはレオナルド。だってその手首のスナップで目の前の少年は落とされたばかりだから。

 案の定、すごく痛かったらしい。

「……黒蛇ビアンカ」

 少年が痛み堪えた赤い目でつぶやいた恨めしい声に。

 ビアンカ、そんな二つ名あったのかとメルヴィンはちょっと驚きつつ。うん、ビアンカなのに黒蛇なんだ…。

 そりゃあ皇帝のお気に入りの姪に、当時はこんな属国に嫁入りするとは思ってなかったから腕利きをお付けになるよね……と。


 さて、この少年は二つ名はともかくお名前はというと――……。

「……じゅうく」

 ビアンカが真っ先に解って、いつもは平静な表情をかすかに曇らせ、眉を寄せた。

「ジューク? ……あ、番号?」

 名前かと思ったが響きはそちらだ。番号だ。

 まだまだお子さまなレオナルドが口に出して首を傾げ、大学生の知識がよみがったメルヴィンは察してビアンカと同じように――痛ましいと。

 攻略本には彼は――……。

「……影に番号をふる家もあります」

 そしてそうした「影」は――使い捨ての「影」だ。



 彼はメルヴィンにつけられた影であった。

 メルヴィンには低いけれども帝国の継承権がある。それは同じ血を引くオーレリアにもなのだが、女の継承権は低いためにメルヴィンよりさらに低い。

「おそらく、五歳を越えたらつけられましょう」

 ビアンカに説明されて「あ、七五三みたいな」、とメルヴィンは理解。ある程度「生きる」と確証ができたら影がつくのか。

 ビアンカが彼の存在を把握したのは昨年ぐらいらしいし。

 ちなみにビアンカは気がついていたが知っていて知らないふりをしてやっていたそうな。同じ影出身として。武士の情け的な。

 彼がメルヴィンに悪さしない限りは。害がないうちは。

 一応護りではあるが監視の面もある。帝国へ敵意がないと報告されるのは大事だから。

「……ですが、番号をつける家のものでしたか」

 孤児や捨て子を拾ったりして影の数を増やす家らしい。

 まあ、孤児の面倒と就職先をとしたら良い面もあるのかもしれないが……番号である。どういう扱いか察した。

 なので一属国の国の公爵家の息子には、彼程度がつけられたのだ。

 ちなみに帝国の影なので、コーディング公爵家は知らないし、関わってはいない。

 母に影の家の中でも、表向き爵位すら持っている家のビアンカがつけられたのは、当時の母は皇帝の姪としてまだ継承権が高かったためと、当の皇帝が姪を可愛がっていたからだ。

 まさかその影がここまでとんでもない腕利きに成るとは。そしてフロレンツィアをここまで護るとは皇帝も読み違いか。

 現在、ビアンカはフロレンツィア個人に雇われている。帝国からは離れてコーディング公爵家に、侍女として。こうして子守として。


 一応コーディング家にも影的な諜報役な存在はあるが、この国程度では帝国の――この番号の少年にすら及ばないだろう。

 それが帝国の凄さ。


「さて、君をどうするかだけど……」

「……っ」

 見つかった自分の処遇がどうなるのかと19はびくりと身をすくめた。自分が不審者だという自覚はある。

 帝国からつけられた影だとしても、公爵家に入り込んだ不審者だ。

 そんな存在を許すはずがない。

 影となり修行をつけられたとしてもやはり死ぬのは怖い。

 ……まだ子供だ。

 覚悟まだ固まらず顔色悪い19に、メルヴィンはにっこり笑顔で提案した。


「一緒にご飯食べよう!」


「……は?」


 視界の端で19の持っていた携帯食に興味引かれたらしいレオナルドが口に入れて何とも言えない顔をした……いや、毒味してないの食うなよ、お前王太子予定だからな!?



 影の一族て、忍者みたいだなぁ、と?

 ビアンカとは白なイメージでしょうが、はてさて…(私が正反対なイメージの二つ名つけられるキャラが好きなのがありましてな!浪漫!)


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