63 特別講師登場!
魅了対策としてあれこれとしていたことで変わったことの一つ。
魔法のあれこれも変わりつつある。
適性の見直しや価値観の見直しも。
そうして本来は魔法の授業も進んだ後半から特別講師として学園に呼ばれる王宮付き魔法使いの登場も早まった。
けれども。
「帝国の宮廷付き魔法使いのゲルトルーゲよ。御縁があってしばらくこの国ですごしているの。特別講師を務めることになったわ。よろしく、ね?」
――カッ。
そのヒールの音も高らかに美と威厳を讃え。
「魔法も基本は体力勝負よ。魔力を蓄える器とは、肉体、よ?」
なんて説得力。
そのスリットのあるドレスから覗くお御足の美しくも――たくましい。
「自分自身の肉体よ。代えはないわ。自分が鍛えたこと、頑張ったこと、大切にしたこと。すべてが自分自身の結果なの」
そして重みがあった。
「器が頑丈でそして……美しくないと、ね? それが魔法の強さと美しさに繋がる、わ」
鋭い眼光からはその歴戦のオーラが溢れ。
「もちろん。魔法を扱うための知識と魔力の流れなどとも、すっごく大切よ。教えてあげるわ。皆、ついてきて、ね?」
しかしその瞳には学生にみせる優しさも。
「すごい……本物の、爆炎のゲルトだ……」
「かっこいい……美しい……」
「え、どうして帝国の宮廷魔法使い様が……」
「姉が今年の新入生が羨ましいって言っていたわ」
「うちの兄上たちも」
「二年や三年の先輩たちも授業を受けられないかと、学園に頼んでいるらしいわよ」
「あ、それ。王太子様が今年はまだ在学中だからだそうだよ。三年は授業みてくださるんだって!」
「やっぱりオーレリア様が今年入学されて、王太子様とその婚約者様がそろったからよね。同い年で良かったぁ」
「私たち、なんて幸運なのかしら……」
わかるものにはわかる。
宮廷付き魔法使いに教えてもらえるこの年に入学できたことを、幸運に感謝していた。
「なんで……ジスランは……?」
その中で、王宮付き魔法使いは美形の変わり者枠のジスランが来ると思っていた数人は首を傾げていた。
それは主に「二周目」狙いの少女たち。
彼女らがこれでこの世界はゲーム内容とは離れて来ているのだと気がついてくれたら良いのだが。
その頃。
王宮付き魔法使いのジスランは王宮の研究所にて、ゲルトルーゲに命じられた仕事に埋もれていた。
「ジスラン、この魔力計測……大丈夫!?」
先に魔法印文の研究により王宮付き魔法使いの仲間入りしたアルベルトは、その同僚が物理的にも魔法書に埋もれているのを発掘して助け出していた。訳すための辞書や関連書籍、まとめるためにあれこれ書いた紙が。そして彼の本来の仕事が溜まっていたり。
しかしジスラン。埋もれてはいたが、そのニヤけた顔は心底から楽しそうで。
「うふふふふ……見なよアルベルト、この古代魔法の文字の美しさ……」
「ああ、何年か前に王太子様とメルヴィン様が遺跡から見つけてきたやつ? ゲルトルーゲ様に解読任されたんだっけ?」
「そう、あのクソガキども、人の顔見るたびに変態だの言いやがる腹立つ奴らだけど、この魔法書を見つけてきてくれたのでチャラにしてやるぅ」
うふうふ笑うその姿はまさに変態であろう。
しかしアルベルトも同類の魔法使いなので、ここにはツッコミはいなかった。
「良かったねえ。そうそう、本来くじ引きで君が学園の特別講師になるところをゲルトルーゲ様が代わりに行ってくれているんだろう?」
それも良かったねぇ、と。
「本当に師匠には感謝しかない! 素人のガキどもに教えるなんて無駄な時間もったいなさ過ぎる。俺にはこの素晴らしい魔法書を解読するというとても貴重な時間なんだから!」
師匠。
この十年あまりでジスランはゲルトルーゲの直弟子に――彼が自分で言っているだけだが、ゲルトルーゲも受け入れてくれているようだ。
確かにメルヴィン達が尻を蹴飛ばした頃と思うと彼もたくましさが。きっと子供に蹴飛ばされても今の彼ならば踏ん張れるだろう。
「あ、そろそろスクワットしないと!」
師の教えと、彼は魔法書や解読書に埋もれた机から這い出してきた。
「あ、私も!」
アルベルトも一緒に。
両手を前に出し、前屈みにならないよう腰を真っ直ぐに落とす。膝はなるべく90度。内に向けずに外側に。
「ふん、ふん、ふん」
「ほっ、ほっ、ほっ」
薄暗い研究室の中で長いローブをまとったまま黙々と上下する魔法使い二人の姿。
初見のひとには何の儀式だと驚かれる。
健康維持の儀式です。
王宮付き魔法使いたちは机にかじりつくように仕事をしがち。しかしそれは身体に悪すぎると、ゲルトルーゲから皆が怒られたのだ。
「皆、数時間に一回はスクワットなさいね? 水分も摂るのよ? できたら食事も、睡眠も、ね?」
公爵子息の夢見の、思わぬ副効果。
様々な御縁で帝国の宮廷付き魔法使いを招くことができたことで、その実一番良かったこと。
王宮付き魔法使いたちの仕事体勢や健康も改善したのである。
彼女が学生達にも言ったように、身体こそ魔力の器。
それが健全でなけば。
国の魔法使いたちの上に立つ王宮付きたちこそ。
「師匠はなんて素晴らしいんだ!」
彼は弟子思いの師匠が自分の代わりに学園に行って教鞭を執ってくれていると感謝をしていた。
まぁ、あながち間違いではない。
「魅了される可能性があるなら、近づけなければよろしいのよ、ね?」
それに成り行きとはいえ、弟子にした以上は責任がある。そして可愛くも思う。
弟子が、王宮付き魔法使いであるというのに魅了にかかるという不名誉、不幸になるというならば。
「弟子の幸せを願うのも、師匠の役目」
それにこれからの世界を担う若人を教え導くことも、また大切。
「老後にこんな楽しさ、メルヴィン様に感謝、ね」
新章参ります。
対策がまだまだ足りないことも、穴あきもこれから徐々にあきらかに。
もう今さら説明する必要ないだろうけど、ゲルトルーゲは某妖精騎士とか、女子プロレスラーさんとかイメージしていただけたら。ナイスバルク!




