62 閑話 銭に花が咲く。3
顔、である。
この国、大陸。
実は通貨統一されていない。
帝国通貨が一番使われていて、国同士の遣り取りではこちらが使われてはいるが。
それは国々によって「顔」が違うからだ。
「計算、面倒くさいかと思ったけど、金貨は金貨で、同じ価値だからありがたいや」
メルヴィンはほっとしたものだ。
生前は円安ドル高などいろいろあったと、まだ学生な頃は。後に同じ生まれ変わり存在のリィナの方がその手の話にガクガク震えていたから、もしや株でもやっていたのかと――メルヴィンはそっとしておくコマンドを選んだり。
帝国とその属国たちは同価値で取り引きが許可されていた。もちろん偽造などは許されず、通貨を造る際にも様々な取り決めがあるらしい。
属国同士以外とはまた価値が変わるので旅行などでは注意必要だ。
そうして代替わり。
すなわち通貨に彫られる「顔」も変わるわけで。
「コインに王様たちの顔」
日本の紙幣は偉人たちだったなぁと思い出したり。
メルヴィンは「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」なひとが一番馴染みある。「諭吉さん」である。
「勉強、頑張らなくちゃ」
と、身分ある世界に生まれ変わりながら身を気を引きしめるメルヴィンである。
さて、そうした「顔」だが。
今のこの国の金貨、銀貨、銅貨。
金貨は現王ハーロルトの前――ダスティン王のお顔である。
銀貨は若い頃のハーロルト。王に即位した頃の。
そして銅貨はエドガーの。その王太子になった頃の。
つまりは、そういうことである。
代替わりの度にデザインは決まるのだ。
ダスティン王の金貨を、そろそろお役御免にしてあげたいという――。
そうしてこの度、顔を代えるかとなったときに、王太子になるレオナルドが猛反対なのだ。
「みんなに顔覚えられたら、もう冒険者やれないじゃん!?」
それ? そこ!?
王家の皆様が呆気に取られたり、一緒に呼ばれていた大叔父のバルドルがため息ついて項垂れたり。
「あー……確かに……」
バルドルは王弟である。その親戚として冒険者ギルドに所属しているレオナルド。皆は薄っすらとレオナルドの正体を察しているが、それは王太子の顔を知らないためにそういう接し方をしてくれてもいるのだ。
もしも顔を知ってしまったら……。
「まあ、まあ! レオナルド様がそのように嫌がるならば……――」
ほくほくと賛成する正妃リーゼロッテであった。どうせまた「それなら王太子もレオンハルトに」って言ってくるぞと皆が身構えたり。
しかし、彼女もたまたまレオナルドと一緒にいたために同席していたメルヴィンの話を聞いて「是非、デザイン変えましょう!」と頬を引きつらせて賛同していた。
たまたま、そう、たまたま冒険者として活動していたメルヴィンも城からの迎えにレオナルドに腕を掴まれ、ついついつられて来ていたので。テオドールとルカも当然一緒である。バルドルは引率役だ。
顔のスケッチなんて退屈だから付いてきてな、お願いが……まさかスケッチの理由が悲鳴を上げる案件だった。
「仲良いね、君たち」
すでに慣れたエドガーとパトリシアに笑われたり。パトリシアの溌剌としたところをレオナルドは良い感じで引き継いでいるし、エドガーもそんな彼女に支えられているなぁと思うところだ。
テオドールは冒険者の姿のままいつもの近衛騎士の立ち場に戻り。ルカも公爵家の使用人としてメルヴィンの三歩ほど下がった場所にそっと移動していたり。
そんなメルヴィンが思い出してしまったのだ。
「そういえば、革命起きて逃げる途中で、コインに彫られた顔から王様ってばれて民衆に捕まったのって、あれ本当な話なのかなぁ……」
何それ怖い。
王族の皆様は震えあがった。
メルヴィンはコインにまつわる逸話で思い出してついつい話してしまい。慌てて「遠い遠い国の昔話ですん!」としたのだけれど。
遠い遠い国とは。
帝国に伝わる教訓話しかしらと皆様はまたさらに震えあがり。
リーゼロッテも、すんっと表情を変えたり。
彼女も決してエドガーを嫌っているわけではなく、妃としても妻としても愛していた。彼がもしもそうして何かで逃げるときに顔ばれしていたら。それはレオンハルトも同じく。
先ほどまで、広く民たちに己たちの顔を知らしめると意気揚々としていた王様たちは。
皆、すんっとしていた。
「デザイン、替えよう」
現王ハーロルトの言葉に、王家の皆様はそれは勢い良く頷かれた。
デザイン案は「花」に決まった。
金貨は「薔薇」に。銀貨は「百合」に。銅貨は「菫」に。
国民の皆様にも花の方が受けが良かったのはなんとも言えないが。人間の顔より手触りも良いという。人間の顔を持つより、気分的にも。
「王族の顔で取り引きって、そもそも……」
メルヴィンが一万円札を「諭吉さん」と言ってしまっていたようなことを、民の皆様も。金貨や銀貨を、そんな呼び方で。世界変わってもそういうことは同じく。
――ダスティン王などは金貨となってもさらに不敬な渾名もあったり。
それに花にしておけば、代替わりの度に造り直す手間も金もかからないという別な方面で予算も浮くようになり。製造年月の刻印の変更だけならばお安くすんだので。
けれどもそれではコインを造る人たちが食いっぱぐれてしまう。
そこにメルヴィンがまた提案した。
「貴族の人たちや欲しいマニアな方々にだけ、買ってもらうようにしたら?」
この国に記念コインが爆誕した瞬間でもあった。
貴族たちが王様たちのお顔を知らないのは問題があるし。
「もしもなんかあったときに「余の顔見忘れたか!」ができなくなっちゃうし」
某貧乏旗本の三男坊さん的なやつ。
その程度ならレオナルドも受け入れて。
貴族や、そうした収集癖のある方ようにだけ、やや高めなコインの販売を。
それは案外上手くいった。
コインを専用の飾り額に入れて販売することも提案したら、貴族はそれを部屋の一番良いところに置くのが当たり前となり。
実際に使えるコインではあるが、滅多に使われることもなく、世間に流れたらびっくりされたり。
そうして、国に何か慶事がある度にそうした記念コインも販売されるようになった。
コイン造りの者たちも職にあぶれることもなく、常に違うデザインを造れることは飽きもなく、腕が鈍ることもなく。創作意欲にも繋がり、悪いことにはならなかった。
やがてそれは他の国々にも――帝国にも広まり、通貨の統一に繋がるのだが、またそれは後の話。
メルヴィンのした遠い遠い国の話も、ひっそりと帝国の誰かたちの耳にも入ったので。
帝国の大伯父さんのお顔はもはや帝国、属国中にも広まっているけれど、兄貴たちの顔はまだまだ。
居候の眼鏡が「いやだー!」とレオナルドと同じ反応し。まさに顔が広まったらこうした家出もできなくなっちゃう。
「銭の花が咲くってあったけど……意味なんだっけ?」
メルヴィンはあまりそうしたところまでは詳しくなく。いつ「遠い国とはどこぞ?」とツッコミされないかどきどきしながら。
「この場合は、銭に花が咲いた、てことで」
おあとがよろしく。
銭の花は白いをはじめに知ったのは某落第忍者の原作でした。
かの馬車に乗る男がコインと同じ顔と気が付かれたお話。本当だとしたら、なかなか切なさもありますね。人間関係も怖や怖やな革命…。
次より第四幕。




