61 閑話 銭に花が咲く。2
リーゼロッテがどれだけごねても。
現王ハーロルトや王太子エドガーはレオナルドを新しい王太子に望んでいた。
帝国の跡取り争いと違うのは、パトリシアの実家、そしてレオナルドの叔父叔母となる隣国の方がこの国より大きく豊かなこと。帝国の属国ですらないほどに。
実は帝国の位置からはこの国は端にもあたり。
そんな小さめな国によくぞ可愛がっていた姪を――と、彼女がある意味駆け落ちめいたものをしてきたことなど、また別なお話。
つまり、後ろ盾が強いのはレオナルドの方なのである。
しかもレオナルドが産まれたことによって無事に婿入りできた叔父と、彼に恋する女王となった叔母はレオナルドのことを何かと気にかけてくれていて。
母親の後ろ盾も差がありすぎた。
この国の伯爵家出のリーゼロッテより、そんな大国の王家に近い家の出のパトリシアの方が、遥かに。
側妃選びにも難儀したように、実は正妃を決めるときにも難儀していた。
メルヴィンの代にも公爵家の跡取り同士の年齢がずれていたように、その父親世代も上手くずれていた。
世代がわずかに合うコーディング公爵家にはメルヴィンの父親のアレクシスと、普段は領地を管理してくれている叔父と。男兄弟しかおらず。
他の公爵家はさらに年上か、また年下過ぎて。侯爵家なども同じく。もしくは妃となるには問題ありの娘だけ。
エドガーと同世代で釣り合う高位貴族の女性が少なかったのもある。産み分けとは神々の差配のうちだが、偏るのは仕方もなく。隣国も逆に王女たちしか産まれず、ままならないものだ。
そうした理由もあり。リーゼロッテは伯爵家出でも王太子妃となれた。
国の女性の頂点に立てたと思った彼女の栄華は、なんとも短かった。
帝国の姫ともいう存在が公爵子息恋しと、嫁いで来たのである。
王家は「ああ、王太子の方に嫁いで来てくださったら」と、落胆した。
横槍を入れるのは自らの首を絞めるとさすがに理解していたから祝福したが。帝国とも縁ができるのはありがたすぎた故に。
その分、もしも年頃あう男女が産まれたらと期待して――その通りのレオナルドとオーレリアだ。
「……もしかして僕、男で残念がられた?」
ふと自分の誕生時の、王家の方々の気持ちを察してチベスナ顔をした公爵家の長男よ。
自分より遥かに高位な存在が、同じ国に。
女性の頂点に。
並んだ。
いや、公の場ではあちらが頭を下げることになるが、そんなものは形式だけのもの。
常に上だ。
姿、美貌も、所作も、頭脳も――価値も存在も。
その頃、跡取りが産まれないからと側妃の話も出てきていたのだ。
リーゼロッテは前述通り年の合う娘は、自分より下の家からしか側妃は上がらないだろうと考えて。だから自分から側妃をと口にしたのだが。そうしたら公爵夫人に対抗する仲間ができると期待して。
もしくは――下にできる存在がと。
まさかまた、自分より上の存在が嫁いで来るだなんて。
しかも彼女はあっという間に公爵夫人と仲良くなり――同じ年に子を産んだ。
しかも側妃のお陰で帝国ほどではないが大国の隣と縁ができたと夫たちも喜んで。
パトリシアの婚約破棄が、もっと早くに起きていたら、とも――リーゼロッテとの結婚の前に明らかになっていたら、だなんて。
そうしたらはじめからパトリシアを正妃として娶れていたのに。
そんな嫌な陰口はあちらこちらより。
本来は不敬だ。しかしそうした話を受け入れ、流せなくては妃ともいえない。
しかしリーゼロッテは斜め上を行った。
どうやったのか彼女も王子を産んでしまった。
そして「正妃の子の方が継承権は高いですよね!」などと口にするようになった。
「だからオーレリアの王太子妃教育は自宅でなんだよね」
それに教育ならば、帝国の公爵家の出である母の方が遥かに上である。
「母様に習うにも限界あるけどさ」
この国の歴史とか、そうしたところはさすがに専門家の方が。
メルヴィンが子供らしくないため息をつきながら。教師の皆様に出す茶菓子を作りつつ。
リーゼロッテに学んだらいったい何を植え付けられるか。
しかもオーレリアはこの国の王太子妃に、後々の王妃になることは決まっているので。
「レオンハルトの方をオーレリア様が気に入ったら……」
などまで言っているらしいのだ。
「……魅了話て、そうしたざまぁ落ち話も、ありそう」
ざまぁ返しされた王太子様の代わりに弟王子と、という落ちだ。
「オーレリアが本当にレオンハルトの方が良いっていうなら、お兄ちゃん協力するけど」
幼馴染には悪いが、こちらは妹一番兄馬鹿なので。比率は妹に天秤が上がりまくり。測るまでもなく。
「まぁ、今のところは? ね……」
オーレリアもまた、レオナルドを好きなようなので。幼馴染の親友としては嬉しいような、兄馬鹿としては血の涙を流すような。
レオナルドにも気をつけるように言うしかない。また再び「魅了にかからないようにしようぜ!」の誓いである。
しかしそのリーゼロッテ妃。
正妃としての仕事はきちんとしているし、さぼってもいないし、誰かに押しつけたりもしていない。
その方面での評判は悪くはないのだ。
そもそも彼女が妃に選ばれたのは家格がぎりぎり伯爵位であったこともあるが、彼女が優秀だったから。
気の毒だとは皆も思っている。
エドガーも情を残しているから、正妃として離縁しなかったということが裏目にでた。
王太子が子ができないから離縁したというのは他の貴族たちが大義名分にすることになり、同じように子ができない夫人の立ち場が悪くなる。
子ができなくても大事にすると、そうした姿の手本となるはずが。
そうしたごたごたがまだまだ燻っているものの、この度レオナルドが王太子になることに本決まりした。
彼が学園に入学する前に決めておきたいとなったので。
「王太子じゃなかったらルート外れるのでは」
そう思いはするが、現王のお年齢や、いつまでもレオナルドの父が王太子なままなのも。他国では彼より若い方がとっくに王様だったりするので国際的な話し合いなどで立ち場的に問題になったり。
いろいろ、またあって。
そうして始まりのレオナルドの駄々に話は繋がる。
「顔、やだー!!」
と。
「悪い人じゃあないんだけど」と、ため息を付くしかない人。そういう運とかタイミングとかが妙に悪いとしか言いようがない定めの人、いませんか?
リーゼロッテとパトリシア。
他の作品だったら主人公で彼女らで一つ二つ、話が書ける。
…つらい。
ダスティン王は実はまだ成仏できてないので甥たちに頭下げまくっていたりする。哀しみ。誰か、寺生まれのひと呼んだげて。




