60 閑話 銭に花が咲く。1
「やだー!!」
王宮にレオナルドの駄々が、響きわたった。
メルヴィンは十三歳になった。それは幼馴染で親友のレオナルドも同じく。
二年後には彼らも学園に入学する年齢となったわけだ。
――ゲーム舞台となる学園に。
かつてダスティン王が最愛の妃と出会った学園に。
それはそれとして。
王家はそろそろ決めねばならないこともあった。
今の現王ハーロルトのそろそろの引退と、王太子エドガーの即位のことを。
そして新しい王太子のことを。
レオナルドは帝国の血を引くオーレリアの婚約者に内定している。
彼女の婚約者の立ち場をしっかりとさせるためにも、この国は年若くても彼女の婚約者が王太子として立つことが許されていた。
現在王家には、王太子エドガーには三人の王子がいる。
そして妃は二人。
実はレオナルドとすぐ下の弟王子は側室腹であった。
それは正妃リーゼロッテに三年経っても子ができなかったので、側妃が娶られることになったのだ。
ここにもまた、ダスティン王と妃の残した痕があった。
ダスティン王のことがあり、妃に子ができなかったときはきちんと側妃をと。彼の出来事からの教訓で取り決めであった。
側妃探しは急がれた。
エドガーには年の離れた弟がいたが、政略で隣国に婿入りすることも決まっていたのである。
もしも側妃にも子ができねば、血の存続のため彼の婿入りを取りやめることにもなっていた。
本来、第二王子の役割とはそうしたスペアであろう。
しかしエドガーと彼の間にはもう一人の王子がいたのだ。
スペアとなる本当の第二王子が。
それ故に彼らは歳が離れていたのだ。
それにより本当は第三王子の彼は隣国に婿入りが可能であったのだが。
けれども。
本当のスペアであった第二王子は――落馬事故で、弟王子の婿入りが決まった後に亡くなってしまったのだ。
誰もがこの国より力ある隣国との縁を喜んでいたところに。
スペアがいなくなってしまった。悲しいことに。
しかし第三王子とその国の姫は長く文を交わして、度々国境でも逢うほど相思相愛。
姫しか生まれなかったその国も良好な彼らを割くのは悩ましかった。
弟も隣国の王配となるために教育されていたから。今さら話をなかったことにするには様々な問題もあり。
弟の恋路を割くのも兄として心苦しく、子ができぬことをリーゼロッテも妃として気に病んでしまっていたからだ。
彼女もそのプレッシャーから逃れたいからか「側妃を」と自分から口にするようになっていた。
なのでさらに国同士を繋ぐためにも。
弟の婿入り先より、その国の妃の姪――つまり従姉妹姫――だという娘が先んじてこの国の側妃として嫁いで来ることになった。
それがレオナルドの母のパトリシア。
本来ならば正妃待遇となってもおかしくはないのだが、彼女にも彼女のせいではない瑕疵があったために。そして長年正妃としての教育を受けていたリーゼロッテを慮り、彼女は側妃を受けいれて嫁いでくれた。
自分は王妃教育までは受けてはいないからと――できるできないは別として。
隣国は姫君たちしか産まれておらず、彼女らが女王として立つこととなっていたため、その世代では王妃教育というものを受ける必要もなかったのだ。むしろ王配選びで問題が起きたため、こちらの国にその白羽の矢が立ったほど。
――第二王子の事故は、それ故に疑わしきこともある。
パトリシアの側妃としての嫁ぎは、わずかながらのその疑いの詫びでもあった。
そしてパトリシアの彼女のせいではない瑕疵とは。
なんでも少し前に婚約者の浮気で婚約破棄をされて、彼女のせいではない醜聞で嫁ぎ先もなくて修道院に避難していたという。
こちらとしても妃として成り立ち合う家格の年頃の娘たちはすでに嫁いでいるか、難のあるものたちばかりで困っていたところ。
ここに利ばかりが重なった。
パトリシアは元気溌剌とした、明るい方で、王宮も明るくなった。
修道院にても併設された孤児院で子供たちを相手に走り回っていたというので、それは生来の性分だろう。
……パトリシアの婚約者だった男の浮気相手は、なんとも保護欲をそそるか弱き乙女だったそうなので、性格の不一致という婚約解消もあったのではと、パトリシアの親と婚約者の親は頭を抱えあったという。
しかし浮気は浮気だし、王家に連なる従姉妹姫のパトリシアに傷を付けたとして罰は受けているそうだ。
「チワワかと思いました」
浮気相手のことをそう評したパトリシアはからりと笑いながら期待を受けて輿入れしてきた。やはり合う合わないはあるかと思われる。
そして側妃の輿入れより一年半後には。
レオナルド誕生。
弟はおかげで予定通りに隣国の王家に婿入りすることができた。
レオナルドの後見人になると喜んで宣言すらして。
彼のおかげで無事に良い王配を迎え入れることができたと、隣国も感謝を。パトリシアにもまた持参の化粧領の増加を。
隣国はもしも婿入りが叶わなければ自国から王配を選ぶことになり。そうなると今や件のパトリシアに失礼した家の次男か三男が最有力。
国の中のパワーバランスも崩れる上に、姫自身も従姉妹に酷いことした家の者たちを嫌っていたために。
そうしたことでレオナルドには隣国の支持もある。
次いで産まれた弟にも。
しかし、ここで少しばかり暗雲が。
正妃リーゼロッテにも、子ができた。
今頃に、と誰もが驚いただろう。
けれどエドガーとリーゼロッテは離縁していたわけでもなく、正妃としてリーゼロッテは残っていた。パトリシアも隣国で王族に近しい高位貴族として育てられてたために、側妃としてのわきまえ方をきちんとしていたために。
リーゼロッテが鬱々とした感情をまず孕んでいたことに、気がつくのが遅れた。
パトリシアのおかげでと誰もが称える。
国も、王宮も、明るくなった。
そしてレオナルドの誕生で彼女は――……。
光が明るく強くなるほど、影がもまた深く暗くなるように。
そうしてパトリシアが次男のクロードを産んだ数日後、リーゼロッテも三男のレオンハルトを。
「正妃の子の方が継承権は高いですよね!」
そういうリーゼロッテが哀れでもあった。
名前もなんて、と皆が眉をひそめた。
レオナルドに寄せているが帝国風でこの国には古風な――より格調高い名を付けたリーゼロッテに。すでに神殿に届け出ているとエドガーが知ったのは後手に回った。
「どこも一緒だねぇ……」
跡目争い、しんどい。
そうしみじみと、後に眼鏡をかけた公爵家の居候はレオナルドの肩を叩いたものだった。
そろそろこの国の王家のお話。
オーレリアが何故にお家で教育されていたかの、本当の理由。
隣国の女王さまはメルヴィンの幼少時代にやっと結婚できたくらい、実はパトリシアとは十くらい歳が離れている設定予定です。エドガーの弟もまたそれくらいの歳の差で。
そらぁ、自分の為に他国に嫁いでくれた大好きな従姉妹のお姉さんに酷い事した元婚約者は隣国で彼女の治世では…言わぬが花。




