55 貴族の学園だからね。
「今日は基礎学と音楽に……なんで一日に受けられる授業数が決まってるのかしら……」
それは教師や教室の都合です。
「さっさと卒業イベント見ないと……」
ヴェロニカ嬢がブツブツつぶやいている。
「また入学式からやり直すのめんどうだけど、次はもう少し可愛い名前がいいな」
「なるほど、これは確かに二周目狙いかも……」
ルカにも探ってきてもらうと、彼女はこのようなことを。
自分もこんなふうに探られていたんだなぁと、すでに慣れた取調室でお茶をすすっているリィナだ。
今日は寮から影急便で届けられたのではなく、オーレリアと共に宿題をして寮に帰る前にこっそりとお邪魔している。
「卒業イベント……」
また何やら不穏な言葉。
平穏無事に卒業してくれるなら良いのだが。
「選択科目も目一杯取っているようですね」
リィナはヴェロニカの詰め込みぶりも気になるようだ。彼女は「ガリ勉」と、何も知らないクラスメイトたちには思われているようだから。
そして学園のシステムにも首を傾げていた。
「この世界、学校終わるの早すぎません? 放課後時間が多いというか……」
前世の感覚では。
午前中の基礎学のあと、食事の後に選択科目を受けたらそれで一日の学業は終わりである。
ヴェロニカとやらがもっと授業数と望むのも少しわかるところだ。
「基本的に学園は貴族ばかりですからね」
そして前世はちょっと詰め込み過ぎではないかと思わなくもないメルヴィンの世代だ。学校終わっても塾とかあったなぁ、と。
「騎士となる生徒とかは放課後に訓練がありますし、貴族はそれなりに放課後にやることも多いんですよ?」
まだ新入生の彼女らには学園やそうした諸々になれてもらうことのほうが優先であろうが。
案外、貴族の子供たちといってもやることも多いのだ。
「高位貴族の令嬢たちはお茶会とかしてますし」
「お茶会! わぁ、やっぱりあるんですね!」
やはりそういった世界なのだと謎の感激だ。
「お茶会は情報戦ですから侮れませんよ?」
たまに「女はお茶飲んで菓子食っているだけだから楽だよな」などというふてぇ野郎がいるが、そうした野郎はまた「お茶会」の席で要注意者として回されることになるだろう。
「あれ? オーレリア様はお茶会にでなくて良いんですか?」
今日も学園が終わったらさっさと自分と帰宅して、わんこをもふっていた。
さっさと帰宅してくるのは、下手に学園にいたら「主人公」にあれこれ突撃突進されるかもだからだ。美術の時のように。そうなる前に危うきに近寄らず、である。
「ほら、オーレリアも王太子妃教育とかいろいろありますし」
「あ、そうでした」
わんこは大事な息抜きだ。
「オーレリアはむしろ開く側になるので……後期になったらよろしくお願いしますね」
「なるほど、了解です」
高位貴族令嬢のてっぺんでした。
今は新入生だから招待されることもすることもないが、学園の後期くらいになるとやはり将来の王太子妃とお近づきになりたいひとたちからお茶会なり、そうしたことを望まれるだろう。
学園在学中は身分の差がないという建て前で。
「まあ、学園在学中のお茶会は、またいろいろと目溢しもされますからね」
それもまた勉強というやつで。
「男爵家のご令嬢ならアルバイトとかする人もいるんじゃないです? そうしたサロンとかでメイドのバイトしてお小遣い稼いだり、将来の体験したり……」
働きに出たい男爵家の令嬢たちには高位貴族の侍女などという人生設計もある。リィナはまさにそのルートに。
「あれ? そういうものなんです?」
実は自分のクライシー家が裕福であるとそこでリィナは知ることとなる。
祖父が学費のことは気にせず過ごせと寮に送ってくれたのを思い出すが、そういうことであったのか。
「私、恵まれてた……」
両親の遺産のことはまだ彼女は知らないが、クライシー男爵はそこもきちんと考えてくれているのだろう。今、孫の将来に足かせになる親戚たちをバッサバッサとナタを奮っているとは、それはこの子どもたちは知らなくても良いところで。
「そしてリィナさんは、今のところオーレリア付きになるために勉強中と思われていますよ、きっと」
「そうでしたわーっ! 頑張りますよ、私!」
握りこぶしで決意だ。可愛らしく胸の前ではなく、天に掲げるのがまた好感がもてる。悔いなし。
「そのうち、オーレリア関連はうちから御駄賃出しますね」
学生のうちだから「御駄賃」。正式に雇ったら「御賃金」である。
「ありがとうございます!」
裕福であれどもらえるものはありがたく。こういう素直なところもまた割と気持ち良いリィナ嬢だ。
その御駄賃の出る勉強とは、今はこうして「主人公」対策を含んでいて。
レオナルドにも彼女のことは伝えてある。オーレリアにお友達ができたことを彼も喜んでいたし、それがメルヴィンのお眼鏡にかなった存在なら信頼できると。メルヴィンは幼馴染に、つまり自分が信頼されていることがちょっと嬉しかったり。
もちろん、顔合わせしたときに彼も自分の魔法印文が反応しなかったことにも安心したようだ。
「最近、突撃してくるのを避けるときに、たまに熱いんだよな……下っ腹……」
「うわぁ……」
やっぱり受けてて良かった魔法印文。
開発の王宮付き魔法使いの皆さんありがとうございました。
早くお茶会などの華やかで可愛いシーンを書きたいよぅ…!
それまで頑張れ私!




