53 「主人公」その一型。
リィナ嬢、実に有能だと――出会えて陣営に引き入れることになったことを。実に得難い存在であると。
「今のところやばそうなのが、三タイプほど……いや、四つかな」
銀縁眼鏡がきらり。
「主人公」でありながら「取り巻きA」のリィナ嬢だ。
彼女は上手いこと公爵令嬢に取り入りやがったとの、まさにそんなやっかみを受けながら。
「そんなこたぁ小せぇですよ。ガキども、小物がうぜぇってやつです」
かつてブラック勤めであった人間をお舐めじゃないよと、心配するメルヴィンに素敵にお笑いになり。
中身三十路のお姉さん。やっぱりちょっとただものではなかったのではとメルヴィンもそのあたりは触らぬ神に祟りなしだ。
人は誰だって知られたくないことがあるのだから。
彼女は取り巻きとしてのやっかみを受けながらもそれを受け流す強さもお持ちだった。
これもやっぱり生まれ変わりの強み。
「ふるいになってますわ……」
公爵家の、オーレリアの近くに配したかった者たちの。
そんな彼女をすでに将来の仲間であると認めることができているものと、やっかみ引かないものたちと。
そのあたりはメルヴィンがどうにかしなければならないところ。ツメが甘いと皆にも言われるが頑張らねば。
何せ未来の公爵家はメルヴィンが統べねばならないのだから。
ただ菓子や飯作りに精を出していれば良いのではないのだ。
ただ妹の心配だけでなく。
「リィナさんがはじめに仲間になってくれたの、ありがたすぎるんでは……」
しかしやはり妹の行く末は家の興亡――いや、ある意味国の興亡にも繋がるので。
「今週末のご飯、奮発します。リクエストあります?」
「あ、じゃあ……炒飯良いですか? 焼豚入りで、ネギ増し増しの」
「お、ガッツリコースですね! レオナルドも喜びます。唐揚げとスープもつけますね!」
「うふふふふふ、若いうちしか食べられないてありからね……次の日胃もたれしない……生まれ変わり、このあたりも最の高かよ……!」
まだまだ食べ盛りのメルヴィンには察するしかできないが。三十路になったらわかりますよ小僧――とリィナ嬢の中の人が。遠い帝国でもきっと頷く兄貴が。
いつしか週末は王太子様も晩飯を食いに来ているので。公爵家は週末はこの将来の頭領様が厨房に、である。調理人たちにも定休日与えられて一石二鳥。
妹たちには軽めにレタス炒飯にしようかなと考えつつ、リィナの銀縁眼鏡の調べてきた話に戻りつつ。
リィナは同じ男爵家や子爵家などの下位貴族の教室で、眼鏡――ではなく、目を光らせて。メルヴィンでは調べ難いことをしてきてくれていた。「取り巻きA」としての初仕事だ。
「でも報告先が悪役令嬢の兄枠……」
そこは少々気になるが、クライシー家が家門に入れてもらえたので、今やリィナもメルヴィンの配下でもあるわけで。
「おそらくですが、生まれ変わりです。私たちと同じ前世持ちです」
同じ生まれ変わりの視点だから気がつけた。
「いったいいつ思い出したのか、どれくらい思い出しているのか気になるところではありますが……」
「あなた、前世の記憶がありますか、なんて尋ね辛いですよね……」
「頭おかしいんですか、なんてこちらが思われますわ……」
あ、と察したリィナ。だからあの方法だったのか。
「メルヴィン様のカツ丼、やります?」
取調室、である。
「あれ、リスクもありますし……」
あれ、その実は――誘拐だ。
誘拐された被害者は眼鏡の向こうで「そういえば」と目を半眼にしていた。
「認識阻害眼鏡、頂戴して良かったです。あのままだったら、私……警戒されていたかと」
今では「取り巻きA」としての、モブとしての空気で教室に溶け込めているリィナだ。
「たぶんだけど、ゲームやり込み勢ですね」
それが自分たちと違うところ。
「オーレリア様を……悪役令嬢を、悪役令嬢にしようとしている……」
ややこしい言い回しだが、メルヴィンにはそれで伝わる。
すなわち、ゲーム通りに。
オーレリアに酷い扱いをさせようと――彼女に悪いことをさせようとしている。
……やはり、リィナを先に引き当てられた幸運よ。
それは警戒しなければならない。下手に仲間にもできないやつだとメルヴィンもため息を付く。
「三人か四人ですか?」
「あ、それなんですが……全員ではなく、えーとタイプ分けっていうのかな? 一型というか……主人公のお約束、廊下でぶつかる、そんな感じで王太子様に突進してませんでした? だからかなぁ、と思ったんですけど……?」
「あ」
そういや、やたらとレオナルドの視界にちらちらしているのがいたような。
「こないだぶつかろうとしてテオドール達に止められてた――の、何人目だっけ?」
「え? そんなにたくさんいるんです?」
「わりと。レオナルドが入学してから。暗殺者の可能性もあるから怖いよね」
何それ怖いとリィナの顔が引きつる。
ちなみにオーレリアにぶつかって勝手に転んだ男爵令嬢は、何でもしばらく休学するようだ。男爵家の庶子であった彼女は「まだまだ貴族となるには早かったですね?」と、学園からも通達が行き。
高位貴族とお近づきになるために引き取った駒が、せっかく高位貴族が多い時期に学園に入れることができたのに逆効果なのでは目論見が外れたことだろう。
もう少し家庭で勉強してからと、学園よりまだ優しく言われた方だ。
「もしかしたら貴族のことに不慣れを言い訳に近寄るパターン……」
だった、のかもしれない。
今判明した第一型だ。
改めて早めに遠ざけられて良かった。
「私も三年で詰め込まれましたけど、そういうの……きちんと覚えてから入学させないと、お家の方が恥になるんじゃないですか?」
「本当にそれ」
貴族のことがわからないからと無邪気に振る舞い、それが真新しく感じる――。
「あ、それがレオナルドルート……」
突撃されるの、そういうことか。
貴族令嬢が走ったりしてひとにぶつかるはずがない。そんなはしたないことをするはずがない。
――その頃レオナルド。
「きゃあああ!?」
「あぶねっ!?」
角を曲がったらありえないことに駆けてきた女生徒が。
しかしレオナルドはひらりと避ける。
「廊下は走らない!」
それどころか当たり前過ぎて規則にもないことを女生徒に。
受け止めてももらえずすっ転び、ポカンとしてこちらを見上げる彼女に、レオナルドはさらに続ける。
「良いかなぁ、新入生みたいだから大目に見るけど、廊下走ったらこうしてぶつかったりして危ないだろ?」
「あ、ごめんなさい。私、ついこないだまで平民だったから、貴族のお嬢様みたいな――」
そこでちらりと足すら見せて――。
「いや、平民だって廊下は走らんだろ。はしたない。露出狂か君は」
一刀両断。
ちらりしていた足を、つまり「痴女」とされた女生徒よ。
「はぁ、君がそんなだと平民の皆が皆、はしたないと思われるだろうが?」
「はひぃ……」
「わかったら良いよ。医務室に誰か連れてってやって、あ、女性が良いよな? 頼むわ」
それでも王太子さまとしてフォローはしつつ。彼女も国の民ではあるので。
ちなみに王太子だから近くには近衛騎士たちがついている。彼らはレオナルドの要望で少し離れてもらっていたので、ぶつかる前に止めなかったのは仕事をしていないわけではない。何人かは「だから言ってるでしょ」という顔だ。そしてこういうことが多々起きるので、女性の近衛騎士も導入された。
「いや、殺気のないのは気がつけないよ」
と、ぶつかる直前まで接近を許したのはお互い様。そして貴族令嬢が走ってくるというありえないことにも驚くのもお互い様。
「平民が皆、あんなだったらなぁ……うん、それはそれでなぁ……」
むしろ貴族の側では頭を下げて通り過ぎてくれるのを待つのが平民のほとんどだ。早く通り過ぎてくれという顔で。
町の皆さんより洗礼を受けていた。
冒険者の格好をした自分と、王族の格好をした自分への、その明らかな違い。
女生徒を側にいた女性の近衛騎士に預けながら、これが大叔父の教えてくれた現実だと――ちょっぴり切なく笑うレオナルド。
「メルヴィンとこ行って甘いもん食わしてもーらお。オーレリアとお茶して、ついでにルツもふってやろっと」
しかし彼には大事な存在がある。
それもまた、大事な現実、現状。
それが、癒し――平民の明るさもの珍しさに惹かれることなく。
彼の祖父と大叔父の気持ちとともに。
その一型。王道ルート狙い型。
王様と大叔父さんがそうならないようにとした結果が、ちゃんとなレオナルド。




