48 ふたりは「主人公」と「悪役令嬢」。
「……なんで誰も言わないの?」
目の前で、名もまだ知らない同じ新入生の男爵家の女が、彼女が崇める少女に言いがかりをつけている。
明らかに男爵家の彼女の方がぶつかって行ったのに――悪いのに。
誰も、それを言わない。固まったように動かない。
このままでは――っ!
「私! 見てました! ぶつかって行ったのは彼女の方です! オーレリア様の方が被害者です!」
――本当にどうしよう。
リィナは内心で頭を抱えていた。こんなはずでは。
崇拝対象に近づくとその眩しさのあまりに燃えて灰になってしまうのはオタクのさが。
でも、オーレリアのピンチを、その無実を晴らせる場所にいるのに、黙っていることは彼女にはできなかった。
勇気を出したとクリスティアンは言ったが、本当に、であった。
「ありがとう……!」
そしてオーレリアにお礼を言われてしまい。崇拝対象に近づくとその眩しさのあまりに塩の石像になってしまうのはオタクのさが。
固まる彼女に、生きた女神はなんと。
「どうか私と、お友だちになってくださいませんか?」
そんな、お願いを。
崇拝対象に近づくとその眩しさに蝋が溶けて羽落ち墜落するのがオタクのさが。
けれどもリィナは気づいてしまった。
オーレリアもまた勇気を出してくれていると。
その煌めいた瞳も、願うように組まれた手も。
――震えていた。
ああ、崇拝対象に(以下略)。
しかし、推しのお願いを叶えないのは、またなにか違う。
自分だって、自分だって……――。
「お友だちになりたいです……っ!」
リィナはまた、勇気を出した。
「……清水の舞台から飛び降りました」
「それほどの決意でお友だちに……生還ありがとうございます」
取り調べ室、再び。
今日はカツ丼はなく。
その飛び降りた先は奈落かそれとも……まずは、灰色の小机があるお部屋。
とりあえずは相談できる相手がいて良かったとリィナは感謝しつつ。
誘拐二回目は、むしろ覚悟完了して待ち構えていたくらいだ。ルカ愛用のナイフの出番もなく。
色々言いたそうであったメルヴィンも。色々と葛藤した後に、小さく溜息ついてから。
「えー……と、まずは妹を助けてくれてありがとう」
まずは、そこで。大事なことを先に。
今日はお茶とクッキーを。
ご用意したのは執事らしくルカである。
彼もリィナがオーレリアを助けたということは感謝しているのか、今日は殺気もない。
それだけでホッとしつつ。
「でも、ちょっと……申し訳なく……」
リィナは自分からオーレリアに関わる気はないと、していたわけで。
怖いこの保護者たちへどう弁明しようかと――いやもう、言い訳はなしだ。
「やっぱりオーレリアさまと、お友だちになりたいです……許してくださいっ!」
その望みは心底からだ。
頭を下げながら自分の前言を撤回していた。
オーレリアがどれほど勇気を出して言ってくれたらを思えば、この怖いお兄さんたちなんて――っ。
「妹と仲良くしてやってください」
え……。
顔を上げたリィナの目には、ちょっと困ったような笑顔をした悪役令嬢の兄がいた。
「いや僕、妹の交友関係を頭ごなしに反対するような兄だと思われていたんですか?」
それは前世で十分躾けられたので。
「オーレリアが自分で選んだお友だちですよ?」
「い、良い子たちすぎるでしょおおお!?」
前世のお姉さんがついつい顔を出す。
しかも人間で初めてのお友だちだ。
自分が初めてだと聞いて、リィナはそれだけでまた灰になりかけたが。
「でも、問題はあります」
「ですね」
身分差だ。
「でも、学園の中ならば平等という建前があります」
メルヴィンとて、三学年生の今では学園内に男爵家の友人がいる。授業では同じ組になったりもする。
「学園の外でも、今日みたいに公爵家の中ならば」
外から見えなければいいのである。
「これはオーレリアにもあとから言います」
公爵令嬢として教育を受けてきたオーレリアこそがその線引を理解しているだろう。
本来、自分たちに対等な友人というものは難しい。
メルヴィンにはレオナルドという幼馴染にして親友がいるが、それをオーレリアはずっと羨ましかったのだろう。
近しい公爵家に、オーレリアと同じ年頃の姫が産まれていないこともある。同性の同じ地位や立場な存在が。
そして立場。
そしてオーレリアの未来はもう、決まっていることからも。
「オーレリアが将来の王妃であるということを、きちんと……まぁ、あなたならその辺りは大丈夫でしょうが」
「わきまえております。王妃様にお友だちとして取り入るような下種なことはいたしません」
それは権力の前借り。虎の威をかるなんとやら。
ひっそりとメルヴィンが苦手なところ。
「よろしい」
わかっていると頷くリィナのことは、その辺りはすでに信用ができる。先にもメルヴィンにも、同じ生まれ変わりとして高位貴族な格差に羨んだりも、ゴマをするようなこともなった彼女だ。
例の魔法印文も全く反応せず。
ひっそりと好感を持っていたのはメルヴィンの方なのだし。
「で、やっぱり問題なのは……」
ふたりは「主人公」と「悪役令嬢」。
なのである。
ちょっとコンビ名にもゴロが悪い。
「何か強制力かなぁ……」
頭を抱える悪役令嬢の兄枠と主人公。
「あ、僕、そういえば一応攻略対象なんだった……」
「あ、そういえばそうでしたね……」
強制力なにそれ怖いと引きつるリィナ。
もう一つ思い出した。
「ちなみに彼が19」
「……じゅーく……19!?」
そういえばバラす、いや教えるタイミングなかったやと思い出したメルヴィンは、自分の後ろの執事を。
「え、嘘でしょう?」
リィナの驚きようにイタズラ成功なのだが、今はそれどころではなくなったのがちょっと残念で。
「いや、別人でしょ。あんまり覚えてなくて詳しくないけれど19てあれでしょう? 帝国からの影で、陰気なくせに食い物にホイホイつられる裏切り――」
でも、殺気で信じてもらえました。
「リィナさん、これはもう……ジョブチェンジしませんか?」
「ジョブチェンジ」
「「主人公」から……「取り巻きA」枠に」
チェェェェェンジ・ゲッ(自主規制)




