45 生まれ変わりのよしみ。
ちなみにリィナは。
彼女は王道というか、一番オーレリアと関われる「レオナルドルート」だったのだそうで。
むしろオーレリアに逢える選択肢を選んでいたら、レオナルドルートに入っていたようだ。
「っていうか、それしかクリアしてなくて……ゲーム内容はほとんど、オーレリア様尊い、しか覚えてなくて……」
オーレリアが相手ルートにてメルヴィンも出てきたが、一番王道ルートとして選びやすいのはやはりレオナルドだったのだろう。
そのクリアエンディングでのオーレリアへの仕打ちで、エンディングも途中で電源を落としてしまったそうで。コントローラーは作中何度もぶん投げていた。投げる先にベットを、枕を選んだのはまだ理性。
その後、気になってそうした作品を、世界観を調べたそうだが、悪役令嬢が酷い扱いなのに嫌気もさしてしまったようだ。もともとそれほど興味もなかったゲームであるし。
「お役にあまりたてなくて、すみません……」
ゲーム知識があればこれから先のこともまた対策できたのだが。
しかしメルヴィンにしてみたら「主人公」が悪さしない――すなわち、妹の破滅につながらないならそれだけでも。危険値のメモリが一つ減るというのは、どんな程度でも良いことだ。
「いやむしろ、あなたが「主人公」になりうるのが他にもいると気がついてくれて助かりました」
彼女が「主人公」にならないとしても、第二、第三の「主人公」が現れるかもなのだ。
やはり、準備しておいて良かった。
そう、しみじみ思う。
数日後に、まさか――……。
「でも、もしも他にも何か思い出したり、気がついたりしたら知らせて欲しいです。あ、前世の感覚なやつでも。何か思いついたら、僕でできることもあるでしょうし」
ついつい、中の人があるから敬語になるメルヴィンだ。
「はい、私でお役に立てるならば!」
リィナにしてみても思い出した記憶により、日本のことをあれこれと。それを話せて、理解し合える相手がいることはありがたい。
メルヴィンもそれを察する。一人は遠い帝国だが、三人寄れば文殊の知恵というのもあるし。
「あ、帝国の第三皇子さまもお仲間なんですよ?」
帝国にもう一人いると伝えたらリィナはその身分に震えた。この世界に生まれ変わって、さすがに身分差というものも理解しているからだ。やはり彼女が「主人公」で良かったと思う。常識と良識のある方で。
目の前の気安い銀髪も実は公爵家の跡取りなのだが。
「あ、リィナさんは隠しキャラとか、クリアエンディング後の強くてニューゲームとか……」
「……わからないです」
あまりゲームに詳しくなかった方には、強くてニューゲームはやはり通じず。
フリードリヒが二周目キャラだということも、コントローラーをぶん投げていた彼女はご存知なく。
しかし話をしてみたら世代はメルヴィンよりフリードリヒの方が近いのではとも。生まれ変わるにも時差や誤差はあるようだ。
「じゃあ……僕からも、生まれ変わりのよしみで」
何か思い出したらの情報代なんてケチ臭いことは言わない。これは帝国の江戸っ子からのお裾分けでもあるし。
「これから在学中は毎週末に、日本食をお届けします!」
「え……」
「お米、食べたくないです?」
「食べたいです!」
最高ですかよおお!
跪く少女に、ルカが頷いている。さすが我が主という後方腕組み。
ちなみに自分がおかもちで寮までお届け係になるとはまだ、彼も。まだまだ。
もちろん、メルヴィンもリィナが妹を好きだと言ってくれているからだ。そうでなければ生まれ変わりでもよしみを持とうとは思わなかったろう。
「今週ならサラダ巻きが届きます」
「大好きです!」
野菜と一緒に食べられるお寿司は妹や母にも好評。オイル煮にした鮪、つまりシーチキンとマヨネーズは男性陣にも人気。中の具材をこのカツやエビなどのフライに変えたものも人気。食べ盛りである。
「この世界、マヨネーズが作れました」
これもまた直伝の作り方。サラダ巻きの具となる玉子焼きも。
「なんと……私も記憶読みがえってから日本食が恋しく……いや、本当にそんなに食いしん坊じゃなかったんですがっ!」
「わかります」
「ほんっとうっ、ありがとうございますうう!」
その感謝感激がいっそ清々しい。気持ちが良いひとだ。
「ぬか漬けも付きます」
「ぬか漬け、美容にも良いですからね!」
お、わかってますねとメルヴィンは嬉しくなる。遠い帝国で頷く兄貴も。
「あ、あれ? お寿司……作れるんです?」
酢とか海苔とか?
リィナはそれに気がついた。
そうだ、米もまだまだ流通していない。このカツ丼もどうやって?
そしてなにより。
この公爵子息が、料理?
ほとんどが帝国からの個人直輸入。
影急便とはどう説明するべきか。
「海苔巻きくらいなら僕も、なんとか」
本格的な握りはさすがに。キュッと絞る手毬寿司ならなんとかだけれども。
帝国の第三皇子からのお裾分けだと聞いて、リィナは帝国の方角を拝んでいる。メルヴィンも気持ちは同じく。
「はぁ……世には料理男子もいるのですね……」
ちょっとまだ生きてきた男尊女卑な時代観があるリィナさんだ。
「それ、僕、常々疑問なんですよね……」
家庭では料理は女の仕事という割には、料理人やパティシエは男の世界にもなる。職人という色がつくと、そうなるのが。
不思議。
メルヴィンは普通の一般ご家庭生まれであるが、妹たちの世話もあるから料理や家事は一通りできたし、なんなら一度は製菓の道を本気で選びかけていた。
「いや、海苔巻き作れる男の子、すごいと思いますが……」
「ああ、それはこないだ帝国で作り方を教わって。生前にも少し……」
そもそも稲荷寿司なども生前には作っていたりしたメルヴィンである。妹たちの運動会とか、そうしたときに。安定。
「だから帝国で改めて習って。いやぁ、プロの技を教えてもらえて僕も――」
そうした、話をしたら影――ということわざもあるように。
「メルヴィンくんがまた美味しいものを作っていると聞いて」
――代わりに。
影急便。
ちょっとだけ亀急便をイメージしていたり。(わかる方は握手!)




