44 ある意味王道主人公設定。
「死後、私のすべてはドール沼に引きずりこんでくれやがった従姉妹に頼んでありましたから」
過労死おいたわしいと、メルヴィンもリィナには涙する。カウントダウンで身辺整理できた自分と違い、過労で突然では心残りも多々あろう。
まだ就職前の大学生で、そうした荒波を経験することなく終わったメルヴィンには、社会に少しばかり憧れもあるがそうした話には怖さも。
「……両親や妹にはビタ一文渡したくなくて。ずっと前からそう話して頼んでありましたので」
リィナの前の人生は、なかなか闇深そうだ。先ほど「普通のOL」と言う前にも謎のためがあったような気もする。
キラキラネーム、何となく察した。
そんな彼女は家族愛あるメルヴィンをまぶしそうに。
「私にもまともな家族がいたら……普通て、それだけで幸せなんですよね……」
それは誰しも望むもの。恵まれていたら気がつけないところだ。
メルヴィンは前世も今世も恵まれていることに感謝する。
それを維持するためにこうして頑張っているのだ。
妹を不幸にしないために。
「カウントダウン、それはそれで……まあ、見られて困るものはなかったし。きっと従姉妹がうまく……」
迷惑かけたがきっと、姫も、形見として大切にしてくれていると信じて。
その代わりにこの世界の、姫――オーレリアを拝みたい。
入学式にて一目みてすべてが蘇り。
ある意味、一目惚れともいうのではないか。
「生きてる……動いてる……微笑み、尊いぃいい……」
遠くからでかまわない。
あのオーレリアの生きて動く姿を。
拝める。
リィナ・クライシーのこの人生の楽しみであった。
――そうしたら、物騒にも攫われた。
「……そこはごめんなさい」
しれっとしているルカに後で謝らせないと。
「まぁ、私も不審者ですみません……」
「あ、それはそう。止めてくれます?」
妹に対してはちょっと過剰に壁を作るメルヴィンである。
「あ、はい。本当すみません」
そこはリィナも反省だ。
しかし、それによりこうしてメルヴィンの目に止まったので。
「まあ、結果オーライかもですが」
カツ丼、美味しかったし。
そして前世の記憶があり、オーレリアを護りたいという存在と知りえたことは。
ガッデムとコントローラーをぶん投げた記憶よ。
「こうした事前の情報、打合わせは、何より重要」
やはり年上だからか、リィナの目には重みがあった。
そして彼女はメルヴィンが頑張ってきたこと、魅了対策に「グッジョブ」と褒め称えるばかりだ。
良くやった少年!
いや今は自分の方が年下なのだが。
そしてリィナは年下――つまりは「主人公」の学年生であるわけで。
その目線で気がついたことがある。
「あの学園、「主人公」になりうる存在がたくさんいませんか?」
と。
同じクラスの少女たち。
例えば急に貴族の隠し子だと引き取られた少女。
例えば若い頃に引き裂かれた恋人同士の。再会したときには娘が。
例えば孤児院にいたらその器量の良さに引き取られた少女。
例えば……エトセトラ。
「そして私のように流しの商人だった父母が、実は駆け落ちしていた貴族の息子とか……共に事故で亡くなって、途方に暮れていたら祖父登場」
「リィナさんはそのパターンですか……いや、お悔やみ申し上げます」
彼女は今世でも幸せな家族を手に入れることはできなかったようだ。
「三年前に親が二人ともいなくなって、近くにいた優しいひとたちが葬儀とか、教会の共同墓地にいれてくれてありがたいけど……その教会でお世話になっていてもどうしようと困っていたら、急にずっと探していたと祖父が駆けつけてくれて。平民だった母との恋を反対していて、すまんと……家に帰ってきて欲しい、両親を許せなかった自分を許して欲しいと頼まれ、今ここ、です」
それもまたお約束だが、途方にくれていたリィナには救いとなったろう。何せ三年前は前世の記憶もまだない、本当にただの少女だったのだから。
「おじいさんが本気だしてもっと早くに探してくれていたら、とは……いやでも、そうしたら父母は引き裂かれてたかな?」
たぶんだが、祖父はずっと息子を探して――既に見つけて、見守っていたのではと、良い方にも考えたい。でなければタイミングが良すぎるところもある。
「……ある意味、王道な主人公設定では……」
「……マイナスからのスタートが王道……」
本当に、それなー……という、しおしお顔二人。
「おじいさんは、まあ……」
言い悩むリィナに、メルヴィンは少しでも優しい方が良いなと思う。人として優しいところを信じたい。
「どうでしょう……もしかしたら許してくれていたかもでしょ? なにより学園に入学するまで三年しか準備期間もなかったみたいですし?」
「そう! それ、本当に大変で! 絶対に今年入学できるようにあれこれ覚えろって大変で!」
平民育ちの少女を三年でそれなりに。貴族としての立ち振る舞いからあれやこれ。リィナの幸いは、父により多少は読み書きを覚えていたこと。
それでも三年の詰め込み勉強。
「三年前に記憶取り戻していたら……まだ楽だったっ!」
「お疲れ様です……」
先にも言ったが、王太子レオナルドのせいだろう。
貴族たちは王族の誕生にあわせて、近くに子をもうけることがある。
リィナの祖父もそのつもりで息子に良き貴族から妻を取らせるつもりだったそうだが、リィナの父は母と恋をして、貴族の身分を捨てて暮らしていたのだそうだ。
しかし――リィナの存在。今年十五歳。
クライシー男爵にしてみたら孫がぎりぎりセーフで王太子と同じ時期に学園に通えると。
それだけで息子夫婦、とくに平民出の嫁を迎える価値もある。
きっと、そうした心を祖父の方が準備できなくて――許してもらう言葉などを探していたら出遅れてしまったのではないだろうか。
リィナに対しては、息子の忘れ形見という気持ちもちゃんとあるのだろう。
ルカが調べたところによると、寮の部屋も悪くない。制服など、きちんと準備されて入学しているようだ。
「王太子にお近づきになるなんて大層なことは考えてはいませんが」
それは乙女ゲームの良識ある家族のパターンならば。
「おじいさんはせいぜい、王族にあわせて増えた高位貴族の子息にお近づき……な、腹つもりだと」
男爵や子爵な下位貴族ならばそのあたりが狙い目だ。
乙女ゲームのようにまさか「王太子」「公爵家」といった大物だと――結婚したあとの方が下位貴族だと大変だと思われる。
おじいさんにしてみたら、この相手を見つけやすい時期に入学させて、良い相手を見つけなさいという気持ちなのだろう。
――きっと。
それが不器用な祖父の、孫が幸せになれる、本当に不器用な思いやり。
「つか、私……「主人公」。王太子と結ばれたらとんでもないことになりません? クリアエンディングの後」
「ほんそれなんですよ」
何せオーレリアは帝国の。その血を濃く現す金橙色の瞳。
王太子と公爵令嬢の婚約は――政略。
それを無視するゲーム内容。
そして「主人公」たち。
「第二、第三の「主人公」……」
その可能性があったか。
「主人公」が一人であると、なぜ思っていたのか、
キャラメイクがあれほど自由度が高かったせいもあるのか。
「……学園、潰しておくんだった……」
ちょっと物騒なことを口にする公爵子息を、ちょっとドン引きな目で見る男爵令嬢であった。
リィナ嬢の過去もやはり「主人公」です。がんばれ。
雨、どうぞ皆様…川や田んぼを見に行かないでッ!




