42 取り調べといったら…?
「ひぃえええ命ばかりはぁあ!?」
ルカの丁重なご招待により、リィナ・クライシー男爵令嬢はコーディング公爵家に連れて来られた。
「こらルカ、丁重にって言ったでしょ!」
「はい」
言われたとおり頑張りましたという、「褒めて褒めて」と大型犬な如くの尻尾が見えそうなルカだが。
「ナイフ突きつけて無理やりさらうの丁重って言わないいいい!?」
被害者の言い分、もっともです。
「そういやルカのナイフ、ちょっと変わってるよね? 柄のところに輪っかついてて……クナイみたい?」
「19であった頃より、やはりこれが一番使い勝手良いので。隠し、いえ身につけやすいですし」
「忍者らしくやっぱりそうしたナイフが……」
正しくは片刃でもっと物騒な形をしているのだが――カランビットナイフが一番近い形状だ。
「ほのぼの会話しないでくれますぅ!?」
ごもっとも。
「さて、リィナ・クライシー……嬢?」
「は、はいい……」
「えーと……」
なんて言い出そうか。
公爵家の一番小さな小部屋にお連れしたわけだが。
公爵令息が男爵令嬢を馬車など出して呼びつけたら噂になってしまう。逆にメルヴィンが男爵令嬢のところに訪れても。
この世界、何気にそうした噂が回るのは早い。いや、そうしたのは世界問わずだろうか。
なのでルカに丁重に呼んできてもらったわけで。
いつか山越え三日三晩の練習なかわりに。行きた人間を米俵のように担ぐ練習ができてルカも満足そう。
寮の部屋にいたらいきなり口をふさがれ、悲鳴を上げることすらできずにあっという間にこの部屋に入れられていたリィナはがくがく震えていた。
「これなんの取り調べですかー!?」
彼女をご招待の数時間前。メルヴィンは既になれた調理場にいた。
「よしっ!」
気合いをいれて髪をくくり。
メルヴィンの髪が長めなのも、別に原作に合わせたわけではなかったのだけれども。後ろで一つに縛れば料理の邪魔にならないという、そんな理由。
ふと「あれ、この髪型……?」と気がついたときはもう慣れてしまって切りそびれ。
「もしやこれが強制力!?」
いやたぶん偶然。
メルヴィンはご招待すると決めたときからご用意していたそれを、盆に乗せて持ってきていた。
この小部屋には灰色の机と小さな小窓。
そして机の上には小さな照明。
そして――。
「取り調べですかー!?」
彼女の頭の中に浮かんでいるものは、メルヴィンのものと同じであると察した。
メルヴィンはそっと盆を彼女の方に。
「まず、これですよね」
盆の上には――丼ぶり。
リィナもハッとする。
これは、これはもしや。
ふるふる震える彼女に、メルヴィンも頷いて。
「「取り調べといったら、カツ丼」」
蓋を開けたらほっこり湯気が。
揚げたカツ、黄金に輝く出汁を含んだ卵とじ。
メルヴィン自ら調理してきた一品。
カツオ節もフリードリヒがその手の燻製を手掛ける国を見つけ、メルヴィンにも分けてくれるようになり。ありがたいばかり。乾物としてとある商会にてこの国に届けてくれる手はずまで。削って使うやり方までは難しく、まだまだ国に広まるまでは時間がかかりそうだ。
なのでその出汁の香りはリィナ嬢の瞳に涙すら。
「まぁ、まずお食べなさいな。御飯前ですよね?」
学園が終わって寮に帰宅したばかりのところをさらわれてきたのだ。しかもその香りに腹が鳴かないわけがない。
そう、日本人ならば。
「い、いいんですか?」
「どうぞ」
ふるふる震える彼女は――震えるのは出汁の香りに、夢にまで見た「米」の存在に。
「い、いたたきます!」
メルヴィンが頷けば、彼女はパンッと音がなるほど手を合わせて、拝んでから食べ始めた。
その箸を躊躇いもなく手にとって。
その合掌、そして箸使い。
メルヴィンは感心しながらも、先ず好感を持った。
礼儀ただしいのはそれだけでまず信頼値となる。
「ま、まさかこの世界でお米が食べられるなんてぇ……しかもカツ丼んんん……」
いきなり重たいかなと思ったけれど、彼女は気にせず泣きながらかっこんでいる。丼ものはかっこむのも作法のうちだろう。
卵かけご飯を食べた時の自分をちょっと思い出すメルヴィンだ。
「ぬか漬けもあるよ?」
「最高ですかよおおお!」
箸休めに歯ごたえのある大根と人参のぬか漬けをだされ、リィナ嬢はまた涙を流している。
食べ終えたあとに出された玄米茶までリィナは拝んでしまうほど。
ちなみに玄米茶は帝国産――フリードリヒの手作り。お茶っ葉を日本茶に加工して下さった。
「紅茶があるなら。もともとの茶葉は一緒なんだぜ」
流石である。
さて。
リィナ嬢は米粒一つ残さず。きれいに空になった器に、作り手としてメルヴィンはうんうんと嬉しくうなづきつつ。
彼女は「ごちそうさまでした」ときちんと感謝もしめしてくれたから。
また手を合わせて。
「お粗末さまでした」
互いに玄米茶でほっと一息いれつつ。
メルヴィンはもう言わなくても伝わっているが、確認だ。
「リィナ・クライシー嬢」
「はい」
彼女ももう、察していた。何故自分がここに拐わ――招かれたのかを。
「あなた、日本人の記憶がありますか? そして「主人公」ですか?」
その質問二つに、リィナ嬢はしっかりと頷いた。
イエス、と。
次の質問にも。
「あなた、もしかして悪役令嬢好きタイプ主人公!?」
「イエス、サー!」
この日のためにご飯炊く話を書き続けたと言っても。カツ丼!
カランビットナイフ、かっこいいですよね。某武器商人な漫画の、護衛女性が使ってるシーン、かっこ良すぎて震えます。




