40 「主人公」…さん?
「はぁあ……オーレリア様、とうてぇ……」
「……んんん?」
新入生の中で一番身分高い令嬢はコーディング公爵令嬢のオーレリアだ。
王家にはレオナルドを筆頭に王子たちばかりで、王女がお産まれにならなかったので。なので彼女がこの国の次世代で一番身分高い令嬢でもある。
そして同じ公爵位のメルヴィンの親戚などの跡取りには、すでに成人をとっくにすませた方々や、逆にまだ幼い子らしかいないので、男女関係なくも実はしばらくはオーレリアが一番だ。
なので「悪役令嬢」として彼女を悪く言うものはいないはず。
だがしかし、「学園の中では身分の壁はない」。
それを正しく捉えられないお馬鹿さんが現れるのだ――ゲームが始まれば。
陰口悪口、冤罪まで。
やがてそれを自分が、攻略対象たちがする。
お馬鹿さんの一等賞になる。
そう脅えるメルヴィンだ。
だから、妹の輝かんばかりの真新しい制服姿に「カメラがあれば!」と血の涙を流しかけないくらいのことを考えつつも、油断しないぞと明鏡止水。やはり魔法文明があると科学文明は発達し難いようだ。
その分、魔法という浪漫はあるのだが。
「魔法は魔法で、悪くない……」
特に治癒魔法など。何日もかかる治療を一日で痕もなく治せたり。
こうしたのは素晴らしいと思う。
そんなことを考えながら妹の近くに気を配っていたのだが。
ちなみにメルヴィンたちは在校生席。先にクラスに向かう新入生たちを拍手で見送る側。
しかしながら新入生たちはなかなか動かない。
それはそうだろう。
王太子様が、そして公爵子息様が並んで座っているのだ。この国の最も身分高い男子二人が。
その金と銀は目立つ。
その上、二人は美形なのだ。
王太子レオナルドはまばゆい金の髪に深い青の瞳と、王家の色をしっかりと受け継いで。やや傲慢そうな顔立ちも王族らしく、まさに王道の王子様だ。そして制服の姿でも鍛えられているのがわかり。ゲーム内よりも鍛えられているのがまた現実の彼の魅力となっている。
そしてその隣りにいる王太子の幼馴染にして親友の。やや長めの銀の髪をひとつ結びにした背の高い美青年もまた、王家の青い瞳を。
やや切れ長の鋭い相貌もあり、冷たい印象も受ける。彼も鍛えられた身体をしているがその実、王宮付き魔法使いも一目置くほどの魔法の使い手だと密やかな噂になっている。公爵家の跡取りでなければそちらに席を置いていただろうと。
そして少し離れたところには近衛騎士たち。その中でも素人にもその強さがわかる存在感。しかも美形の赤毛の青年。
王太子の近衛騎士として抜擢されたテオドールだ。
まさに攻略対象。美形の見本市。
ただし、こうして黙っていれば――の注釈が付く。
……今や。
彼らをチラチラとみて新入生たちはなかなか先に、後ろから押されて動くが遅い。
これは昨年も起きたことだったので在校生たちは苦笑してしまう。
特に今年二学年に進級した者たちは、昨年の自分たちを思い出して顔を赤くする女生徒も多い。あんな感じだったのね、と。
しかし、今年は違う。
彼らだけでなくもう一人目立つ美貌の存在が。
公爵令嬢オーレリアだ。
兄と同じ美しい銀の髪の少女。その金橙色の瞳は威厳を持ちながらも清らかさと優しさに溢れ輝いている。
彼女に見惚れる新入生徒たちよ。
メルヴィンとしては威圧(と書いて威嚇)したいところだが、前世にて既にそこは学んでいた。
「お兄ちゃん過保護すぎ」
妹たちに近づく危険を遠ざけようとして、やりすぎるとそれは良き縁まで遠ざけてしまうことになる。それはダメだ。妹に友人ができなくなってしまう。
お兄ちゃん、きちんと理解しました。前世の妹たちよありがとう。今世の妹のために頑張ります、頑張って頑張って我慢します。
黙っていればシスコンもバレない美青年のメルヴィンだ。黙っていれば冷たさを感じる美貌すら。
そう、口を開けば兄馬鹿。
でもオーレリアもきちんと、兄が自分を見護ってくれているとわかってくれているのが幸いで。
ただでさえ公爵令嬢、そして帝国の血を引き色まででているオーレリアだ。そのせいでこれまで交友関係が制限されていた。
誘拐を警戒するため、護衛のためと、それはオーレリア自身も理解しているが、寂しさもきっとあっただろう。
なんせ身内と使用人以外で、親しいのが王太子妃になるために教えに来てくれている教師陣だけだったので。
救いは、その王太子が――婚約者が、こまめに逢いに来ていたことだろうか。
「お友達が、欲しいのです……」
だからオーレリアは学園に入学することを楽しみにしているのだとこっそりおしえてくれた。友達ができたら嬉しいと。
そんな良い子なオーレリアは、今も兄たちに小さく手を振り、教師が困っているのを察して歩き始めた。
なかなか動かなかった先頭。しかし彼女の、公爵令嬢の進行の邪魔をしていると解るものたちは直ぐに列に並び直し。
「はぁ、やっぱりオーレリア……良い子……」
そしてやっぱり口を開けば兄馬鹿なメルヴィンである。
だからこそ。
彼は妹の姿を惚れ惚れと見ている――自分と同類の視線に気がついてしまった。
学園生活が始まって数日、それはより顕著に。
「あの子、いつもオーレリアを見てるな?」
自分よりそういった気配に察しよいのはレオナルド。テオドールも同じく。
それはダンジョンなどで鍛えた感覚でもあるらしいが。
「……呼んできますか?」
なんか物騒なことを言うのは、そっと陰から出てきたルカ。確かに影として学園に潜んでいる設定だけど、その姿は原作と違いコーディング公爵家の執事服。作中の忍者のような黒尽くめじゃあないのに、それよりも気配がないのは「黒蛇」の名前を継ぐために彼も日々精進しているからだろう。
そして彼は提案してくる。
――副音声でさらに「処しますか?」と。
危険あるならば先んじてと。
「いや、ちょっと待って」
まだただ物陰から妹を見ている程度……ちょっと怖いけどその程度。
実のところ、自分たちにはそういったものたちはたくさんいる。
以前、レオナルドに用があって学園で探していたときに、道々に彼を見ていた生徒に案内されて難なく居場所まで案内されたこともある。
人目を引くのは自分たちには仕方がないことで、諦めるしかないところだ。
彼女もそういったものの一人だろう。
「……好意的なうちは放置だよ」
過保護すぎと怒られたトラウマ。
だからルカにそう指示を――。
「でも「画面で拝んでいたより尊いぃあああ」て呻き声あげていましたよ?」
――本当に、ちょっと待って?
「もしかして悪役令嬢好きタイプ主人公!?」
まさか、そっち!?
さてさてさて。
いよいよ…?
雨がまた大変なことに!
難儀なさっている方の一時の気晴らしになれたら…。




