39 とっくにやっちまってたのである。シナリオ改変。
目を閉じる――見ないようにするのは達人でないと無理なので。
できるぞとドヤ顔の三人は置いといて。
そして逆の発想。
「主人公」をもしも見つけられたら遠ざけようかなどという案もあったように。
自分たちも「主人公」に認識されなければ良いのでは、と。
そうした魔導具。
「認識阻害付き伊達眼鏡」を開発したり。
「伊達?」
「いつか作ってあげたろ、伊達巻き」
「うん? あの甘いぐるぐる?」
「ぐ……うん、伊達ってのは格好いってことでもあるの」
それはあっているようなそうでもないような。メルヴィンもよくわかっていない。そのあたりはまたその道に詳しい兄貴に、会ったら尋ねてみようと思いながら。
「ほら、眼鏡かけたら格好いい」
「いいかなぁ……」
そんな眼鏡を胸ポケットに忍ばせながら。
入学式は終わり、新入生たちは担任の案内でクラスに向かうようだ。
クラス別けはまずは身分によって組分けされる。
高位貴族と下位貴族にて。
基本的には学園の中では身分を問わないとしてある。お約束だが「学園の中では」である。学園から行事など以外で外に出たならば、その時はきちんとわきまえねばならない。
身分を問わないのは、それは教師陣などにも学生たちよりも家の身分が低い方もいるからだ。そして生徒間でも授業中には壁なく発言し合えるようにだ。
その後、基礎学はクラスごとだが、選択科目などで高位貴族と下位貴族は混ざることになる。
その選択科目で、すなわち主人公のパラメーターを上げていくわけだ。
そのための授業なのだが。
最近メルヴィンが気になることがある。
「なんか、シナリオ変わってないかなぁ……」
さて。
このゲーム――世界観ではあるが。
魔法があり、魔法使いたちもいて。
魔物もいる。
ゲーム中、つまり魔物を相手の戦闘などもあり。それもまた選択科目のひとつ。
だが、安心してほしい。
魔物はいるが――魔王はいない。
存在はあるが、封印中である。
そう、この世界は魔王封印中です。
復活などもまたゲームのお約束かもだが、そんなことになったらゲルトルーゲを始めとした伝説級の皆さまが集合である。
学生の、子どもの出番は、ない。
「よくよく考えたら子どもに勇者とか押し付けたら駄目だよね……」
様々な王道ゲーム世界にツッコミをいれるメルヴィンである。
「まぁ、それが楽しいんだけど」
わかってはおります。かつてはそうした作品大好きだったゲーム好き少年である。だから妹たちに本体とられ――プレゼントしたくらいなのだし。
「ゲームの中は……現実は、大変」
だからだろうか、授業課目が。
やたらと身体を鍛えたり、魔法を鍛えたりが多くあるような気がする。
「っていうか、魔王なんてシナリオになかったよなぁ……いや、僕が知らないだけで作中には歴史とかであったのかも……」
実は、それ。
しかし、メルヴィンは気がついていない。
課目の変更や鍛える内容が様変わりしているのは。
それは彼の所為だ。
魔法に関しては。
宮廷にて静かに余生を暮らしていた伝説級魔法使いをこの国に呼んでしまったり。
魅了魔法に対抗するために埋もれていた天才たちを発掘し。王宮付き魔法使いの枠を増やした。新たな魔法の開発にもなった。
不遇職と呼ばれていた氷適性の魔法使いたちの活躍により、他の適性にも可能性があるのではと見直されたり。
おまけだが、神殿の腐敗にメスを入れることにもなり。
それにより治癒や浄化魔法の質もあがった。
騎士団や冒険者ギルド、傭兵たちも。
喝が入ったというか、刺激を受けたというか。
王宮付き魔法使いたち――魔法師団が活躍すると、騎士団の皆さまが「負けてたまるか」となるわけで。脳筋とはそうしたものである。
最近では魔法使いたちも筋肉をつけている。何故か。何故、か。
そうして剣も魔法も、筋肉も、実に良く育ったものだ。
メルヴィンはこの世界の秒針を進めていた――改変していた。
そうしてそれは主たる帝国も。
本来であれば今頃は帝位争いでギスギスしていて一種即発、いつ膨らんだ風船が割れやしないかと、大陸のあちらこちらが緊張していたところだ。
その三兄弟が。
始まりは一番優位にあった第二皇子がその座を降りると宣言してしまったこと。
続いて第三皇子も長兄に従うとしたことだ。
それは本来ならば正しい順番である。
第一皇子ジークヴァルトに問題があれば別だが、彼は優秀であった。誰もが彼が後の皇帝であればと考えていた。
誰もが、だ。
正妃陣営とて、ジークヴァルトが優秀なのは理解していた。
だが、彼は属国の血を引いている。そして彼の後ろ盾はその国だ。
ジークヴァルトの代になればその属国の力が強くなる。
それ故に、この帝国の高位貴族たちは正妃の産んだ第二皇子のクリスティアンを推していた。さらに古い血を信奉するものたちは瞳の色で第三皇子を。
しかし彼らの推す皇子たちが兄皇子を推すと言うのだ。彼らはそのまま、兄皇子の側近となるという。
いったいいつ彼らはそのような関係に、密約を結んだというのか不思議がられた。
しかし正妃の陣営が黙っているかどうか。
弟皇子たちが味方となったとして――……。
――と、いう帝国の余波がいつ来るか。
本来であれば帝位に有利となる材料の一つとして、皇帝の姪がいるこの国へ。その色を受け継いでいる「公爵令嬢」を手に入れるために来るはずなのが第三皇子のフリードリヒだったのに。
彼はすでに先んじて七年も前に訪れているし、その「公爵令嬢」にして「悪役令嬢」枠のオーレリアとはすでに知り合い。なんせその兄たるメルヴィンとは兄弟分。
身分低い側妃の子であろうと皇子としての身分は確かにあるフリードリヒが、いざとなればオーレリアの避難場所の一つと――いざとなれば三日三晩走って駆け込む先の一つと同盟を兄が結んでいたり。
そのように国は、世界は少しずつシナリオから変わっていた。
つまり。
メルヴィンがやっちまったのである。
――そして……。
「はぁあ……オーレリア様、とうてぇ……」
入学式の片隅で、真新しい制服も似合いに似合う銀髪で金橙色の瞳の美少女たる妹を拝んでいる不審者……。
――んんんんん?
もういろいろ改変しちゃってるんだなぁ…。
歴史を早回ししてしまった余波があちらこちらはてさて。




