38 さあ、はじまりだ。
ゲーム開始。
そして七年の月日が流れた。
「……長かった」
今日は妹の入学式。
感慨深く、涙を流しかねないメルヴィンだ。
ゲーム開始である。
「いや、ほんっとうに長かった」
七年もあれば、這っていた赤ん坊も立って歩いて言葉も発し。妹がいれば守らねばと決意し――は、自分だけだが。
「まあ、いろいろあったよな」
メルヴィンにレオナルドも頷く。
その金の髪や青い瞳はゲーム画面や、攻略本や設定にあった通り美形に成長しているが……どこか貴族らしくない雰囲気だ。どこかたくましいというか――時折、不思議と砕けた雰囲気を。
それはお前もだと言われるメルヴィンなのだが。
この国の王太子と公爵子息なのだが。
先に彼らと学園生活をおくってきた他の貴族の皆さまも、時折不思議そうに。
「なんか、うちの王子さまたちって……」
「うん、なんかこう……」
「格好良さはあるんだけど……」
「親戚のお兄様というか、弟たちというか、なんかそんな雰囲気」
「それね」
「うん、近寄りがたいのは近寄りがたいのだけど」
まぁ、悪い意味ではなく。
彼らはオーレリアに先んじて二年前から学園に入学している。
その前からもいろいろあった。メルヴィンが前世を――夢をみてからいろいろ、だ。
彼らは思い出してため息を付く。
「古代魔法のあれこれとか」
「魔獣の封印とか」
「魔王の封印もあれこれ」
「帝国の皇子さま方とか」
「めんどくさいところからのお見合い話とか」
「絶許オーレリア誘拐未遂事件とか絶許絶許絶許」
「メルヴィンの魔法暴発で氷漬け事件とか」
「王太子様の行ったら帰ってこない迷子の冒険とか」
「なんか変な神さまとか――」
「こら、神さまを変って言わない!」
いろいろ。
それはもう、いろいろ。この国の歴史には残ったり残らなかったり。
本番は今日からのはずなのに、本当にいろいろあった。
「そりゃあ、いきなりゲーム開始じゃないよなぁ……」
メルヴィンはひとりごちる。
ゲームの中の人々とて様々なのだ。
生きるうえで、どこでどう繋がっているかなんて解らない。
帝国だってゲームに出てくるのは第三皇子のフリードリヒだけだったが、「第三」とあるよう彼には二人の兄がいて。
本来は帝位を狙い、危うい関係にある三兄弟だったのらしいけれども。
フリードリヒの「お店」により、その三つ巴は変わったらしい。メルヴィンも開店のお知らせを手紙で受けたときにお花を贈るべきか悩んだが、この世界にはそうした文化はなく。それに飲食店に香りが強いものはご法度なので、代わりにデザートに振る舞ってくださいとアイスクリームを届けてもらった。バニラだけではなく、今ではフレーバーも増えたのだ。
記憶を取り戻せたおかげ――すなわちメルヴィンの冷蔵庫のおかげだと、お礼を言われた。
またその一役にメルヴィンの「アイスクリーム」が役立ったと言われたら作ったかいもあり。
実は帝国の皇子様たちとはお会いしたことがある。
一応母の御実家ですし。親戚ですし。
――皇子様たちから招かれたり。
思い出してもしおしおな顔をしてしまうメルヴィンだ。怖かったぁ……。
皇子様たちはそんな気はなく。弟のまた弟分に会ってみたかった――お礼を言いたかった、ただそれだけだったのだけれども。
そんなある意味楽しい日々は、今日のこの日のため。
未だ「主人公」は解らない。
国の男爵家に引き取られた子どもは、この数年は増えた。男爵家だけならず。
それは時期のためだ。
王太子がいるため。
王子王女の誕生に合わせ、貴族は子をもうけることが多々ある。自分たちに子ができぬならば養子なりも。
王家の代替わりにより、王族周りの人員も入れ替わる。
そして貴族と産まれたならば、王族の近くにと野望を抱くのだ。
作中に描写はなかったが、「主人公」もおそらくはそのために何らかのつながりで男爵家に引き取られることになったのだろう。
「主人公」はさてはて、この入学式会場にいるだろうか。
「オープニング、ゲーム開始、どんな感じだったかな……」
自分がそれさえ覚えていたらと思うのだが、やはり妹たちのゲームだからそこまで詳しくなかったことが。
「やれることはやったつもりだけど……印文、受けたし。恥ずかしかったけど」
その間に対策もさらに考えられた。
魅了封じの魔法印文やアイテムだけでなく。
まず精神を鍛える。
「明鏡止水だ」
揺るがない精神こそが何より肝要。
「明鏡止水?」
「曇りなき鏡、波も無き水……てくらい落ち着いた心でいること」
何故か手を合わせてしまうメルヴィン。なんとなく。なんとなく。
「なるほど、明鏡止水」
なんか良いこと聞いたとレオナルドは覚えて。
「こないだ洞窟でやばい危険種に追いかけられたんだけどさ! 身を隠して明鏡止水の気持ちで助かった! 落ち着いたらそんなに怖くなくなって倒せてさ! こういうことなんだな!」
「そ、そう……良かった、ね……?」
すごい真髄を身に着けてるんじゃあないか、こいつ。
そして主人公を見ても惹かれないよう、なんであれば視覚を自分から塞げるように。
「なるほど視界を閉じるのですね……」
「いや、目を閉じちゃったら……」
今ではレオナルドの護衛として側にいるようになったテオドールは目を閉じて。
「なるほど、目を使わずに気配を! これは……!」
「テオドール、ちょっと庭で勝負しよう!」
「は!」
この主従、目を閉じての手合わせし始めやがった。
「ふふ……まだまだですね」
そんなドヤ顔するのは自分の背後。
影のルカは暗闇での戦闘もお任せくださいと誇らしげ。いや、頼もしいけども。
ちなみに「冒険者ただのレオ」に「その知り合いの冒険者ただのテオ」なるパーティがたまに。
たまにたまに、「その友人の魔法使いただのメル」だったり、メルには「忍者」がついていたりと……これはまた別のお話。
冒険者ギルドの内緒のお話。
バルドル大叔父さんがひっそり大変。
覚悟も準備も完了…?
ネタはあるけど書く時間ないやつ七年間。




