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「それなら魅了にかからないようにしようぜ!」  作者: イチイ アキラ


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32 そなたに授けよう!

土鍋でご飯。

「この国、やはり帝国風なところも多いな?」

「そりゃあ、属国ですから……」


 フリードリヒがあんまり他国に来た気がしないと残念そうに。初めての公務だが帝国から出ることも初めてで楽しみにしていたのだとか。中身は還暦間近の経験も持っているのだとしても、元来は十五歳のまだ子どもなのだ。

「名前もおじいさん達の代だと、ほとんど帝国風ですよね」

 祖父達の世代のその前のまた少し前。ダスティン王の世になる少し前に帝国に属する事になったのだ。本当に彼は大変な時代を生きて治めて――挙句にあの最後。

 「ダスティン王のやらかし」とは言われるが、憐れむ声も多い。

 属国となって帝国に染まる様になったが、昨今ではこの国らしさも取り戻している。現皇帝がすべてがすべて、帝国と同じくしなくても良いと許しているからだ。

 その国々の良さもあるし、気候や風土によって帝国と同じくしていては無理なこともある。

 帝国より北側にあるこの国に、帝国と同じ暖房や防寒具であれとは言えない。凍えてしまう。南の方の国はまた逆な意味で。熱中症になってしまう。

 そうしたことで変わってきたのは国の様相だけでなく。

 最近はむしろ古風というか、この国本来の名前をつける親も多い。

 レオナルドやメルヴィンといったように。

「帝国風……つか、ドイツ語ぽいのか、これ? 俺、あんまりその辺りよく知らないんだよな。日本以外の歴史苦手だったし」

 寿司職人として日本の、特に食の歴史には詳しかったのだが。

 フリードリヒがよく解らないと首を傾げるが、その辺りはゲーム制作側に聞いてくれとメルヴィンも思うしかなく。

 

 そんなお話をしながら彼らがいるのは厨房。

 フリードリヒが滞在している迎賓館の厨房ではなく、コーディング公爵家のだ。

 皇帝の姪である公爵夫人への挨拶はまた公務のうちだ。

 それに本当にフロレンツィアの母や伯父である皇帝からも手紙や土産を頼まれていたのもあり。

 そして皇子らしく公爵夫人とお話が終わった後に、今度は公爵子息との秘密の会合だ。

 いや秘密というほどでもなく、また影の皆さんがあちらこちら。


 それは米のために。

 土鍋での炊飯を伝授するために。


「米の研ぎ方は大丈夫か?」

「その辺りは昔、えっと……家の手伝いでやってました」

「お、えらいえらい」

 昔。すなわち生まれ変わる前。

 妹たちとは年が離れていたから、親が留守なときは彼が食事を用意したりもしていたのだ。

「でも、炊飯器にお任せだったのでぇ……」

「ああうん、だよなぁ」

 炊飯器。またありがたい文明の利器。ほっといてもお好みに、一番良い状態に米を炊いてくれる。

「俺の店でもそういう業務用で炊いていたが、なぁに鍋や釜で炊くのも修行や趣味のうちでな」

 フリードリヒの昔は、ある意味お米を美味しく食べれるようにする専門の方。

 なので帝国で「土鍋」をその手の職人に作らせることができた。

 ので。


「そなたにこれを授けよう!」

「ああ……ありかとうごさいます……っ!」


 また師匠と崇めかけてしまいそうになるのを何とかこらえて。

 影の皆さんは第三皇子に公爵子息が恭しく膝をつき、鍋を授かる姿に「あれ、何してるんだろう?」と首を傾げながらも気配を隠すしかなく。

 鍋。

 剣でも笏でも、盃でも勲章でもなく、土を焼いた珍しい形の鍋である。

 なんであの公爵子息、鍋に泣きそうになっているのだろう、とも。


 フリードリヒは旅程がどうなるかわからなかったし、メルヴィンが転生者でなかったら持って帰ることになるために「玄米」の状態で持ってきていた。

「精米すると鮮度とかさがっていくんだよなぁ。氷室あるなら使った方が良いかもな」

 玄米でも食えないことはないが、やはり輝く白米も食べたい。そうするまでに精米することになる。

 フリードリヒはさてどうするかと悩む。この少年にどこまでできるか。

 コーディング公爵領は麦を取り扱いだというが精麦や粉挽きまで領地でやってしまっているようだし。きれいに粉になったのを公爵家や国に納めているのだ。

「コイン精米なんてもんはないだろうしなぁ。あ、精米ってわかるか? 知ってる?」

 今どきのご家庭は。精米された米をお店で買うのが主流だろう。フリードリヒのように契約している米屋から都度精米済みの米を届けてもらうようなのは寿司屋や料理屋ならではだろうし。

 二十歳そこそこの青年のご家庭では――……と、心配したのだが。

「あ、僕の家、親戚が米どころだったので、毎年新米をドドンと玄米でおくってもらって、毎日家庭用精米機でやってました」

「そうなの? 家庭用?」

「はい、毎回炊く前に三合から五合ぐらい、そうやって精米していました」

 日によってパンなどを食べたい日もあるから増減するけれど。

 それなら話は早いと、先程メルヴィンがゲームの説明をしたときのように。

「でも、この世界に精米機……」

「昔ながらの瓶に入れて棒で突く……が一番確実なんだろうけど」

 フリードリヒも帝国では影に頼んでそうしていた。

「あれ、腕疲れるから坊主にできるかな……」

 もう坊主呼びになったメルヴィンだ。実際にまだ子供だし。

 ルカがひっそりと「代わりに自分が」と言い出すのを影の他の人が止めていた。

「うーん、精米……あ」

 瓶に入れてトントンするのは、時代ドラマとかでみたことあるが。

 すると柔らかい考えというか、メルヴィンが思いついた。

 前世で使っていたご家庭用の精米機。その構造を思い出して。

「うちの精米機、こう外の容器と金属の容器の二段構えで……こう、笊に当てるように玄米を……」

 そう言いながら厨房にあったボウルと丈夫な笊を重ねた。そして玄米を入れたら飛び出さないように蓋をして。

「あって良かった風適性!」


 そして玄米はボウルの中で風魔法でかき混ぜられた。


 そして数分後。

「できたぁ!」

「お、見事に白米になったじゃねぇか。やるじゃねぇか坊主!」

 ザルの中には精米されたピカピカの米と、その外側のボウルには剥かれた糠が。

 こんなやり方があったとはと、これは業務用で米屋に頼んでいて、家庭用の精米機を知らなかった彼には思いつかなかったことだ。

「これは俺も帝国帰ったら真似させてもらうぜ」

「えへへ。これなら糠も……前の時も、そうやって作ってたんです。おばあちゃんから糠床を、母さんが嫁入りのときに分けてもらってきていて」

「お、立派な母ちゃんだな」

 糠床も分けるつもりで持ってきている。ぬか漬けというものは、そうやって時間をかけて発酵しているものを少しでも混ぜたほうが早く出来上がるのだから。

「帝国に俺は世話を頼んできた糠床があるから、この壺ごと分けてやろうな?」

「あああ、ありがとうございます!」

 授与、再び。

 あの少しドロドロした匂う壺をあんなにありがたがるなんて変わっているなと影の皆さんはまた首を傾げたり。

 その頃、帝国に残っている世話をまかされたという影は必死にかき混ぜつつ。入っている昆布や唐辛子にまたまた首を傾げながら。


 そして精米の問題も解決だ。

 今日迄腕が疲れる精米をやっていた影さんがホッとするだろう。代わりに風適性のある影さんが出世だ。

「本当にあって良かった、風適性」

 一割強のおまけな適性だったけれども、今日から感謝だ。


 嬉し涙を流す風の神が、同じく嬉しそうな氷雪の神に肩を叩かれているのが――どこか遠くで。


 土鍋で炊くご飯、美味しいですよね。

 伊賀焼とか萬古焼とか、土鍋もお好みのを是非。

 精米機も家庭用でもメーカーによりけり。説明わからなかったから検索してみてくださいな。


 …このための風適性。

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