31 キャラメイクて大変だけど楽しいやつ!
「それに、「主人公」を見つける……探すのが難しかったんです」
そう、ツメが甘いメルヴィンとて、一度は考えた。
「「主人公」を学園に入学させなければ……ゲームを開始させなければ良いのでは!?」
程度のことは。
悪いが自分たちに会わないうちに、どこか遠くで幸せに暮らせるよう、整えてあげれば良いのではないか。
王太子妃や、公爵家――帝国。そういった高い地位を望まれたら無理だが、男爵家の令嬢らしい幸せならご用意できる。
メルヴィンの甘さは。「主人公」も妹と同じ年の少女だと気がついてしまったところに。ジスランとの恋愛も彼女側が本当に願うなら仕方ないと思うが、そうでないならば妹と同じく守ってあげなければならないと思ったときに、だ。
彼女もまた誰かの大事なひとなのだから。妹や、娘や――もしくはこれから誰かの。
良くある酷いざまぁとかしたくないなぁと、お人良し兄貴な感覚で。
なんせまだゲーム本編前。学園にも入学前。既に自分がこれだけ改変してしまったのだ。
これ以上、もしもルンルン気分でゲーム開始を待っていたらかわいそう。ゲーム開始後にざまぁになるのもかわいそう。
だから今のうちに探し出せたらと思うのだけれど――……。
「「主人公」の名前もわかんないんですよ……」
そうなのだ。
わかってるのが「年齢」で、妹と同い年ということしか情報がないのだ。
これはゲームシステムのおかげというか、そのせいというか。
「発売されたの、夢小説とか流行っていた時代だったそうですし」
夢小説。それは同人などでもお約束ジャンル。メルヴィンの時代でも決して廃れてはいないジャンル。
「「主人公」の設定が凝っていたゲームシステムなんです」
まず名前。
「デフォルトネームもなかったんです」
「あー……そりゃあ……」
パソコンゲームなどをしていたフリードリヒ兄貴には話が早い。
「選択時に候補はいくつか出たと思うんですが、妹たちもその中から自分で決めてましたね」
それぞれ「キャンディ」とか「ロビン」とか、そういった名前にしていたような記憶がうっすらと。たまに好きな名前を自分で入力したり。
「そういうゲームてよくあったよな」
「むしろデフォルトネームある方が僕はありがたかったですねー……」
有名ところゲームではむしろデフォルトで決められていたような気がする。これも時代と流行というべきか。
「名前だけじゃなくて、髪型や顔立ちも選択肢が三パターンくらいあったんですよ」
垂れ目ぽいのとツリ目ぽいのと、その中間の普通ぽいのとか。
「まじかー……逆に選択肢多くあるやつかー……」
これも夢小説と同じく自分を投入できるようにとの制作側の気遣いと、もしやこのゲームの売りだったのだろうか。
面白かったのが当時は髪の短かった妹一号の方がゲーム中では一番長い髪型を選んでいたり、妹二号が反対に短いのを選んでいた。
現実の自分とは違う自分というのも、また楽しいのかも知れない。
「そうそう、性格で口調も選べて。ゲーム進行中に出る選択肢とかも、口調によって違ったんですよ」
確か「明るい」「真面目」「おしとやか」だったか。
なので返事のコマンドにも「わかったわ」「はい」「よろしくてよ」などとか、変化があった記憶がまた薄っすらと。
「うわー……そいつぁ、ゲームとしちゃあおもしれぇ試みだが……今の俺らには困ったなあ……」
「そうなんですよぉ……」
おかげで「主人公」ちゃんが今どこのどちらで何をしているかもわからない。
わかっていることはもうすぐ男爵家に引き取られること。
帝国の属国の国とはいえ、男爵家はいくつかある。
あたりをつけたとしても始まるまでのこの数年で男爵家に上がる家もあるかもだし、またその逆に下がる家もあるかもだ。
「もしかしたらこの国の男爵家じゃないかもですし」
その可能性も無きにしもあらず。今現在も親御さんがこの国に仕事で滞在しているから、その間はこの国の学園に通っている生徒もいる。
「「主人公」設定しっかりある割に、その辺りは後回しにされたのか?」
「あれじゃないです? 「主人公」に感情移入するためにあえて、てやつ?」
「あー……なるほど……」
学園がメイン舞台で、主人公も寮住まいとなるから、自宅や家族設定まで入れられなかったのだろう。ディスク容量の問題だろうか。
「寮住まいだから、地方の子か、本当に他国の子かも……」
男爵家くらいだと王都に縁なく子供は寮に預けるのは普通である。
かといって寮を廃止したら関係ない子らが困るわけで。
「今年八歳となる女の子は……とか、昔話の王様みたいに国から出すわけにもいきませんし」
「そんなのやったら国が荒れるな」
間違いなく荒れるし、物語みたいに逆に偉い人に拾われたりとかいう羽目になりかねない。もしくはとある騎士王のように叛逆の物語で幕が落ち、だ。
「コミカライズとかしていたら話し別なんですが。さすがに主人公の名前も公式で決まるんでしょうけれど……」
「してなかったのかい、このゲーム? ゲームかぁ……」
やはりまだゲームの世界だとはピンと来ないフリードリヒだ。
「してなかったと思います。していたとしても僕、知っていたかどうか……」
恋愛ゲームはメルヴィンの興味外だったので、妹たちが読んでいたら別だったけれど。コミックを欲しいと言われていたらたぶん、おそらく、絶対に、買っておいでと御駄賃あげていたと思うので。
「それにそもそも僕の妹たちがやっていたのもすでにワゴンセールになっている頃のゲームだったので、僕もあんまり知らなかったので……」
おそらく一番流行った時代を知らないのだ。
ワゴンセールも悪くないし、そうしたところで新しいジャンルを開拓できることもあるし。
けれども旬の時期が、少しばかり。
「俺もまったく心当たりねぇや……」
もともと野郎二人には分野外でもあり。
とほほ。
凝った面白いゲームでも、デフォルトがないのはこういう時に困るなぁと思うメルヴィンだった。
「こりゃあれだわ。魅了にかからないようにしようってぇ考えるしかねぇやな。坊主、良くやった!」
「なのです! 魅了にかからないようにしようぜ、です!」
もはや合言葉。
主人公のキャラメイクって一番時間取られませんか? 一番楽しいところでもあるけど! 名前決めるのいつも悩む…。
コミカライズ、憧れますなぁ…




