30 この手のゲーム、知ってます?
「へぁ? 恋愛?」
思わず、またそんな感じで彼が。
「恋愛ゲームの世界……乙女向け恋愛ゲームて、あれかい? イケメンの野郎たちとキャッキャうふふ、てやつか?」
まあ間違いではないが。
――うん、確かに中身、おっさんだ。
メルヴィンがそっと目の前のイケメンが、そうした方面では残念なおっさんであると察した。
「とりあえず、そういう感じで。知っててくれていて良かったです」
「薄っすらだけどな」
おっさんだから恋愛ゲームは分野外だったらしく、きょとんとされている。
「僕も妹たちがやっていたから、たまたま、知っていただけなんで」
妹さんたちが、と……また泣かれかけた。先に泣かれるとメルヴィンが泣けなかったり。
江戸っ子のおっさんは涙もろい生き物なのです。
けれども、オタク趣味もあった方。さすが話も早かった。
「そりゃあ、「主人公」をどうにかすりゃ良いんじゃねぇのかい?」
まさか自分も攻略対象だとは思わなかったと、彼はまたそこにも驚いて。
「ふむふむ、だから俺、こんなにイケメンなのか。派手な色してるわと、記憶取り戻してから鏡見るたび驚かねぇか?」
それな。
黄金のフリードリヒの言葉に、蒼銀のメルヴィンは首を縦に振りっぱなしだ。
そしてやはり――帝国の皇子であるとも。
フリードリヒは自覚なしに言ったのだろう。
「主人公」をどうにか。
それは先に見つけて――どうにか。
その存在を。
邪魔になる存在を――雑草を引き抜くのはまた、人の上に立つものの役目でもある。
民草とはよく言ったものよ。
彼らはそうした傲慢を、あえて持たねばならない。あえて、だ。
貴族だからだ。
その分、重みもしがらみも、だ。
それをメルヴィンも重々。それが貴族なら覚悟しなければならないところだ。
雑草なんて草はないと言いたいならば、雑草が生えないよう、そうならないように整えるのが貴族の役目。
整えたい。きれいに美しく。
そういう理想を抱いて――崩れ落ちる貴族の多さよ。
そして中には雑草だとばかりに貴族の本分を忘れるものも多いことよ。その権力は何のためにあるのかを。
雑草――しかし。いざとなればその草一本のために命をかけるのも、また貴族の役目。
赤子であろうが死にかけの老人であろうが。
己の領地の民のためならば。
そして王家ならば――国の民のために、いつでも首を捧げる覚悟を。
貴族とは民を護るためにも存在する。
これがなかなか難しいところなのだ。
悪さをする民を罰するのもまた貴族や王族の役目。
魅了魔法を使かわれたら、それはまさしく刑罰の対象だ。
「いろいろ矛盾している気もする……」
「難しいけど、頑張れよ少年」
「貴方も今はまだ十代じゃ……」
「あ、そうだったそうだった」
そしてメルヴィンはまさに今、そんな青い理想を輝かせている。
親たちが「ツメが甘い」と彼を心配するところだ。
「こんな魅了封じだなんて、まどろっこしいことする必要ないだろう?」
フリードリヒの本来はそうしたことをきちんと受け入れている皇子なのだろう。記憶を取り戻さなければ。
今は少しばかり涙もろくもなったことだし。
「でも魅了封じはこれからも、きっと必要になります」
「まぁ、確かに」
「今開発しといて、良かったとなるかと」
ハニートラップ対策はどこの国もしているものだ。その一環として、魔法などを使われたときの対策は必要だ。
帝国でも古代遺産など、そうした希少品を見つかったら買い取ったり上納させたりするなかで、魅了対策品は優先していたほどだ。
「帝国としてはこの功績を称えることにして、準備している」
その辺りはメルヴィンだけでなく、この国の偉い人たちとの話になるが。
フリードリヒは一応はその確認という公務で。
決して「米」をお届けするだけでなく。メルヴィンに会ってみたくて名乗りを上げはしたが。
まずは属国としての地位を上げることに。上納金など、またいろいろとかわることになる。
実はフロレンツィアが存命中は帝国への通行税など様々なことを優遇すると、皇帝の御下知を頂戴しているこの国だ。
それは帝国の姫が属国に嫁ぐときの化粧料かわりで。
その分、姫を大切にしろという脅しでもあり。
もしもレオナルドルートなどでオーレリアを断罪したらどうなったのだろう。
そんなことをしたら母であるフロレンツィアもこの国を見限るはずだ。
ああ、怖ろしい――火種がここにも。
「帝国の宮廷魔法使いが関わりあるとしておおっぴらにはできないし」
そしてすでにフロレンツィアのことで優遇をしていることもあり。
この国ばかりを贔屓にしているとしたら、他の国々に対してまた厄介が起きる。
だからゲルトルーゲも「客」としてこの国に来ている体でいてくれている。
「帝国から魔法開発を称えて報奨金を……が、一番おさまるかな、てぇところだ」
魅了対策品を買い締める金を思えば。そしてその価値がある。
古代遺産の魅了封じの品は、これから値崩れしてしまうだろうが。
なんせ引き続き、この国ではアクセサリーなども開発予定なので。
「……なんか、すごいことしちゃったのかも?」
「すごいことだぜ?」
これもまた転生チートではあるまいか。
でも確かに「主人公」をどうにかしたらすんでいた話なのもあり。
「でも、ゲーム詳しいなら「悪役令嬢」とか「ライバル令嬢」とかわかります?」
「おう? まぁ、薄っすら?」
繰り返される薄っすら。
悪いがその程度と謝られたが、薄っすらでも解ってもらえているならまた話が早い。
「妹が、その枠にいるんです。さっきも話したけど貴方も攻略対象で……僕も、なんです」
「……詳しく聞こうかい」
魅了封じ。
そんなすごいこともそもそも「主人公」対策なんて――ただただ、妹を護りたい思いから始まったと聞いて。
いつか自分たちが妹を蔑ろにしないために――が、そもそも大事。
「お、お兄ちゃん、お前ぇさん、すげえなぁ。妹思いもそこまできたら立派よぉ」
また感動して泣かれてしまいつつ。
「それに、「主人公」を見つける……探すのが難しかったんです」
今回は賛否両論いただきそうだなと思いつつ。
表現に使うか悩んだのですが「雑草」。
あえて、傲慢にならねばならないのがこの世界のメルヴィンの立場。彼自身は「雑草」なんて扱いできない人間なので大変です。
傲慢になるのは簡単ですが、善属性の人間には難しいところ。線引きも、また。
雑草なんて草はないとしたい、今後のメルヴィンくんの頑張りもまたお楽しみにして欲しくてあえて「雑草」。
…生まれながらにしてジャイ◯ンな人間も、稀にいますが。人の話聞かないというか理解できないタイプ。




