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「それなら魅了にかからないようにしようぜ!」  作者: イチイ アキラ


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29 日本人ならTKG食べたいだもん…!


「……ずずっ」

 図らずも米で泣いてしまい。

 さらには帝国では醤油や味噌を醸し中だとまで聞いて。

「良けりゃあ、帝国から送ってやろうかい? 米、と味噌と醤油」

 なんて嬉しくありがたいご提案。

 そして彼らはジャンルは違えど同じ料理の視点から。

「卵はあるか(・・・)? 大丈夫か?」

「あ! はい、大丈夫です! 僕の国にもあります(・・・・)!」

 そう、日本人なら気になるやつ。

「この世界、比較的に卵がきちんとしてるのありがてぇよな!」

「ほんそれです! 僕もお菓子作りでびっくりしました!」

 卵。

 転生前のあの世界でも。

「生の卵は日本しか」

 そのようによく言われたりもする。

 特に料理人としての経験豊富なフリードリヒは心配したのだが。

「まさかこの世界の卵、前世の海外の卵より安全だとは……」

 本当にびっくりした。

 鏡をみて金髪なことよりもびっくりしたと。メルヴィンもうなずく。

「この世界、まさか養鶏が……日本レベルで」

「しかも魔法できれいに……」

 本当に、それ。

 氷魔法が浸透して冷蔵庫が広まった今だからこそ、逆にその前はどうしていたかも気になるところで。

 サルモネラ菌や、そうしたところ。

 本当ならばとても怖い。

 しかしながら。

 この世界においてなんと養鶏は――神殿のお仕事だった。


「卵は神からの最大の賜物である」


 かつてそんなことを唱えた神官さんが現れたのだという。

 そして卵のその高い栄養価。

 彼は己の神殿にて養鶏をやり始め。

 そうして飢餓が訪れたときに卵いりの粥を皆に振る舞い、助けたのだと伝承にある。

「きっとこれ、僕らと同じようなひと(・・・・・・・)が神殿にいたんだと思います……」

「なるほど。養鶏の経験者……プロの方が」

 この世界、ある意味最大組織である神殿の一番の売り物となっているのが。

 まさかの卵。

 今でも炊き出しなどでその効果を発揮しているそうな。薬草だけの粥より、卵も入ったほうが栄養も美味しさも増す。

「フランスでも確か修道院のオムレツが名物だったはずで」

「へぇ。やっぱり世界が変わっても卵ってやつは偉大だな」

「ほんそれです」




 メルヴィンは知らなかったがその頃、大神殿に移ったユベールはそこの養鶏場の掃除をしていた。

 美しい顔に鶏の羽やあれこれをくっつけながら。しかし尊い汗を流しながら。

 鶏の世話は見習い神官の役目で修行の一つである。

 集められた鶏糞は農家の方々に配り、代わりに餌となる野菜くずなどと交換で。

「美味しい卵を産んでくれますように」

 本当に大事な修行である。




 さらに近年ではもっと安全にと。

「きちんとしてるぅ」

「ありがたいよなぁ」

 卵にまさか洗浄魔法と治癒魔法をかけてから売られているだなんて。

「浄化魔法系が使える者が神殿に集められるのは、この仕事のためかもしれない」

「その手の仕事してる神官は、神殿の収入安定してるらしいから、本当に生まれながらの勝ち組だよな」

 だからメルヴィンもお菓子作りで安心に使わせてもらえていた。

 最近はメルヴィンの冷蔵庫も神殿に入り始めて氷魔法も勝ち組だとか。


 もしもぽんぽん痛くなったら治療院へ。それも卵売り場には書いてあるそうで。まぁ、念のためだろう。


 そう――醤油と言ったフリードリヒがメルヴィンに卵を尋ねたのは、理由があった。

「卵……あ!」

 しかしながらメルヴィンはまだそれを試してはいなかった。お菓子作りで卵を使ってはいたが。

 米がなかったために。

「卵、ということは……つまり!?」

 気がつきゴクリと生唾を飲み込んだメルヴィンに、フリードリヒはぐっと親指と口端をあげて。

「できるぜ?」

 同じ日本人なメルヴィンがもっとも飢えているものを察してくれていた。

 それはTKG――卵がけご飯。

「し、師匠……っ!」

 それは日本人の感覚で、うっかり勢いで。


 思わず帝国の皇子の傘下――指示下に入りかけてしまったメルヴィンだ。


 ガタッと、部屋のあちらこちらから気配が。一番大きかったのはおそらくルカ。「若様、なりません! なりません!?」といった懸命な気配で。

「師匠も悪かねぇが、兄貴でいいぜ!」

 引き続きぐっと親指立てて良い笑顔。

 黄金の髪と瞳でなんてまぶしい。

「はい、兄貴!」


 この世界、実は師弟関係は少しばかり縛りがあるのだ。

 しかも貴族のこうした師弟関係は師の命令を逆らうにも、ときに正当なりし理由とともに書類や書名等を必要とする。面倒くさいことになりかねない。記録に残されるのだ。言った言わないのボイスレコーダーの代わりだろう。

 兄貴分と慕う分なら、まあ血統も繋がっているのでギリギリセーフである。

 思わず前世の感覚で膝付いて崇めてしまいそうだったメルヴィンだが、影の皆さんのおかげでなんとかセーフである。

 帝国の第三皇子に、皇帝の可愛がる姪の息子が――低くも帝位の継承権持ちが。それはまた、政略的に火種と成りかねないところであった。

 影の皆さん、案外こうしたストッパーでもあるらしい。気配をあえて気が付かせたり。

 そして影の中には氷魔法の使い手たちもいた。かつては不遇職であった氷魔法適性。

 しかして今は見直され、役職手当も付くほどに。

 この属国の公爵子息のおかげにて。

 ひっそりとメルヴィンに感謝するものたちは、またこうしたところにも。


 皇子自らが師弟関係を下げたことと、十歳の子供だから発言の撤回許されよ。

 影たちはそう報告予定である。

 むしろそう報告させてくださいとハラハラして。

 

「あっぶねー……」

「すみません、兄貴……いきなり迷惑を……」

「いやいや、大丈夫だ。なんとかなったろ」


 フリードリヒとメルヴィンも小声で。

 自分たちが火種になってようやくおさまってきた大陸をまた戦土にするわけには。小さな燻りが大火にだなんて、よくあることだ。

 ゲルトルーゲが駆け抜けた大戦は、まだまだあちこちに燻りが残っているという。

 彼女が帝国に名を預けていることで抑えになってもいるのだと、やがて成長したメルヴィンも知っていく。


 だが、今はそれよりも米よりも。

 ここからが本題だ。



 ……だけど。

「あとで俺の玉子焼きと茶碗蒸しのレシピ、書いて届けてやるからな?」

「お寿司屋さんの玉子焼き……! あああ、兄貴……ッ!」

 やっぱり拝んでしまいそうなメルヴィンだった。



 卵怖いの嫌だなぁと思い。まあファンタジーだから大丈夫かなぁとも思いつつ。

 食中毒怖いので、このファンタジー設定で一応大丈夫な世界としておいてくださいまし。


 TKG、牡蠣醤油でいただくのが好きです。

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