03 兄馬鹿の信頼度。
「つまり、魅了にかかって本当に好きだった公爵令嬢さまを手放して大後悔! ってこと?」
要約すると、こう。
ダスティン王のやらかしを知ってメルヴィンは。気の毒にも身も蓋もない要約をした。
王家はきちんとしていた。身内の哀しみを教訓に、物語として残していた。
時代もそれほど昔ではないし、当時を知る方々もまだまだお元気で。実話であると語られる。
良い機会だからとその話を聞いて、メルヴィンはそっと手を合わせた。なんとなくそんな気分。
「そんな前例ありゃ、そりゃあ話聞いてくれるわぁ……」
さすがに題名もわからないけど、それもゲームか小説か漫画だったのかなと、メルヴィンはちょっと察した。
主人公が亡くなったことでゲームエンド……ダスティン王は見事、クリア後の世界に正気に戻って大変なことになったのを察してあまりあり。気の毒すぎる。
スパダリであった彼の末路よ。
それまでのダスティン王の治世は素晴らしく、現代まで彼の功績のおかげが続いているのもいくつもあるのだから。
「ダスティン王ルート攻略で……あ、学園でだからまだダスティン王太子ルートの王妃エンドだったのかな……まあ、主人公はスパダリに可愛がられて、甘やかされてすごく幸せだったのだろうね」
今まさに、いやこれから自分の代もゲーム世界だと、メルヴィンはぞっとするけれども。
主人公の幸せのためにダスティン王は、彼の本当の愛や恋は捻じ曲げられたのだ。
いっそ魅了が解けなければ良かった。
主人公だけ幸せならば、ではないだろうよ。おしまいまで騙しきってやれよと……。
いや、違う。
魅了なんてものにかからなければ良かったのだ。
魅了なんてものがなければ良かったのだ。
ダスティン王はきっと公爵令嬢と幸せになり――もしかしたらもっと良い国になっていたかもしれない。
ダスティン王の世代は妃の分まで彼が働いて、そして代わりに王弟妃が働いてという、ややこしいことになったのだから。
「俺は正気に戻ったって、やっぱり哀しいなぁ」
わかるひとにはわかるのだ。
さて。
メルヴィンは己の知ることを親に話した。
妹がやがてぽっと出の男爵令嬢に婚約者である王太氏を奪われて、婚約破棄をされる。
そして自分もそれに関わる。とんでもなく悪い方向で……と。
自分は妹の無実を、言葉を、何もかもを信じないで、蔑ろにしてしまうのだ。
「――……と、いうことが未来に起きるのです」
そう長男が夢でみたと言うと、なんと親たちは信じてくれた。
ダスティン王のやらかしもそうしたことで教えてもらえた。六歳ではまだ早い話かもと心配されながら。メルヴィンはその前例のおかげかと、そっとダスティン王に手を合わせ。
いきなり突拍子もないことをどう打ち明けよう……と、メルヴィン自身もベッドで頭を抱えて夜が明るくなるまで悩んだのだ。自分だったら前世がどうこうのといきなり家族が言ったとしても信じただろうか。あ、信じたかも。妹たちの言葉を信じない兄ではありませんでした。
だから予知夢をみました、的な。
もしも、これなら信じてもらえなかったときは「悪い夢をみた」と流してもらい、親の協力なく頑張る所存で。
まだ六歳児なら悪い夢も流してもらえよう――……。
けれども。
「よし、わかった!」
「大変だわ……わたくしの実家にも相談しましょう!」
「そうしよう! 急いで手紙を書いておくれ? 私はその間に伝令の準備を!」
「わかりましたわ! わたくしの印のついた旗をお使いになって!」
「ありがとう! それがあれば国境の関も早く越えられる!」
父母よ、何故?
驚く息子に親たちは、彼に対してまたきょとんとなさった。
「なんでって……」
「ねぇ……?」
両親は本当に曇りなき眼で息子を。
「妹第一の兄ばか――ンン、妹思いのお前が「妹を蔑ろにしてしまう未来が来るから助けて」だなんて、冗談でも言うはずがない」
現世でも既に兄馬鹿でした。
これはこれで、信頼されているのだなと、メルヴィンは思うことにした。
いやもう思うしかなく。
メルヴィンは鏡をみたら自分がチベスナと呼ばれる小さなキツネのような顔をしていたと思った。この世界にチベスナがいるかどうか、まだ六歳の彼にはわからなかったけれども。
そんな顔を。
わかるひとにはわかるのデス。
チベスナ六歳児。




